第七十四話:身の上話
効率的にレベルを上げようと言っても、TRPGにおいて効率的にレベルを上げるなんてことは普通はできない。
まあ、他のTRPGではできるかもしれないけど、『スターダストファンタジー』においては経験値を稼ぐ方法はシナリオをクリアすること、そして魔物を倒すことである。
なら魔物をたくさん倒せば経験値もたくさん稼げるのでは、と思うけど、大抵の場合そのシナリオに出てくる敵の数は決まっているので、経験値が増えることはあまりない。
だから、強い冒険者を作るためにはとにかく数を回る必要があって、サクッと強くなるのは難しかった。
でも、この世界では違う。
魔物が無限湧きする、というわけではないだろうけど、ちょっと人里離れたところに行けば魔物はうじゃうじゃいる。
この世界の人達が必要とする経験値はかなり膨大ではあるけど、それでも何十体も倒せば経験値は稼げるし、地道に修行するよりは圧倒的に楽だ。
だから、アルマさんもそう言うところに連れて行ってレベル上げをしてやればすぐにでも強くなることができるだろう。
ただ、一つ問題があるとしたら、今はタイミングが悪いということだ。
「ただ街道を進んでいるだけじゃ流石に魔物は全然出てこないの」
今の俺の目的は、王都へと向かい、偽情報で引き寄せられたと思われるシリウスを回収することだ。
シリウスがまだばれたくないと思っているなら、人目を避けて徒歩で移動している可能性もあるが、そうでない場合は乗合馬車などを使ってとっくに王都に着いている可能性もある。
そうなってくると、遅かれ早かれシリウスは国に捕らえられることになるだろう。できることなら、そうなる前に止めたいというのが本音だ。
しかし、こうしてアルマさんを助けてしまい、一緒に馬車に乗っている以上、王都に着くのは少なくとも後一週間以上はかかるだろう。
徒歩で向かっているならまだ時間はあると思うけど、そうでないならかなりのタイムロスだと思う。
だから、できることならそんなレベル上げとかで寄り道などせず、まっすぐ王都に向かいたいわけである。
でも、街道は基本的に定期的に魔物の掃討がなされているから、あまり魔物に遭遇しない。
先程のように、運悪く襲われることもあるけど、普通はそんなに襲われることはないのだ。
そう考えると、レベル上げをしている暇がないのである。
「ねぇ、このままだと何事もなく王都に着くと思うんだけど、いつ教えてくれるの?」
「うーん……」
魔物が出てこなければ経験値を稼ぐことはできない。
なら適当な修行をするかと言われても、馬車の中でできる修行なんてたかが知れてるし、こうしてアルマさんに催促されても何もできないのが現状。
あんだけ大口叩いたのにこれでは流石に申し訳が立たない。
少なくとも、一回は魔物の相手をしてやらないと不満を言われることだろう。
どうしたものか……。
「魔物が出るまで暇だというなら、アリスのことを色々教えてくれない? ほら、シリウスのこととか、詳しく知りたいし」
「まあ、そう言うことなら話すの」
このまま無言で馬車で向かい合っているなんて精神が耐えられない。
『スターダストファンタジー』的には精神力はただの魔力の量を決めるための数値でしかないが、その他にも精神的な攻撃に対する耐性とかもあったんだなぁと今更ながら思う。
振ってないわけじゃないけど、敏捷とかと比べると全然だからなぁ……。少しくらいは振ったほうがいいのかもしれない。
「それじゃあ、アリスの国ってどんなところなの? シリウスみたいな【治癒魔法】は普通だって言ってたけど」
「ああ、うん、ええと、別に私の国がおかしいってわけじゃないの。ただ、冒険者が多いってだけで」
「冒険者が? じゃあ、アリスは冒険者なの?」
「うん。あっちでは、このバッジが冒険者の証なの」
俺はあんまり出番のなかったバッジを見せる。
まあ、バッジでどうやって個人情報を調べるんだって話だけどね。小さいし、下手したら冒険の最中に無くしてしまうことも多そうだ。
ルールブックには特にそう言う説明はなかったけど、あれかな。【収納】みたいに判別できる機能がついてるのかね。
「冒険者だから、あんなに強いの?」
「私はこれでもたくさん修羅場をくぐってきたから、特別だと思うの」
「……そんな子供なのに?」
「アルマ様も人のこと言えないの」
まあ、確かに13歳で熟練冒険者とか、何歳から冒険者だったんだって話だよな。
別にそこらへんは深く考えていたわけではない。ただ単に、とても強くて小さい女の子が作りたかっただけなので、年齢に関しては目をつむってくれると嬉しい。
まあ、無理矢理設定を追加するとしたら、小さな頃から一人で、冒険者として日銭を稼がなければ生きていけなかった、とかだろうか。
いや、あんまり言うと本当にそう言う設定になりそうだからやめよう。
「修羅場って、例えば?」
「一番はドラゴンの討伐なの」
「ど、ドラゴン!?」
「そう。と言っても、瀕死のドラゴンだったからそこまで強くはなかったの。でも、そのおかげでレベルはかなり上がったの」
13歳の子供が熟練冒険者と言われるくらいレベルが上がるとしたら、何かしらのイベントがあったと考えるべきだろう。
ドラゴンの血を浴びてその力を受け継いだ、とかそれっぽくていいよね。
俺はまだとってないけど【ドラグーン】という竜に関係するクラスもあるので、ドラゴンとの邂逅は実は重要なイベントなんだよな。
まあ、今のところ取る気はないけど。
「とんでもない経験してるのね……」
「まあ、運がよかったの」
「それじゃあ、今のレベルはどれくらいなの?」
「確か、55なの」
「55!? この国の騎士より上じゃない!?」
まあ、この世界の人に合わせたらもっと上だけどな。
『スターダストファンタジー』の世界だったら55なんて熟練どころか化け物レベルの冒険者だけど、この世界だとさらにその上を行く。
レベル100以上とかあるのかな。確か、クリング王国では剣聖と呼ばれる人のレベルが82とか言ってた気がするけど。
こんだけ上がり方が遅いと、レベル99でカンストと言われても驚かない。
「ち、ちなみにシリウスは?」
「シリウスは5なの」
「え? そ、そんなに低いの?」
「シリウスはまだ新米冒険者なの」
まあ、新米と言ってもレベル5は割と高いけどね。
これで攻撃スキルを持ってたらシリウスもある程度無双できたかもしれないけど、【アコライト】じゃ殴りアコ、つまり攻撃手段を持った【アコライト】にでもならないと無理がある。
パーティで活躍する分には問題ないけど、こうして一人になると戦う手段がないっていうのは問題だな。合流したらそのあたりを少し調整してあげた方がいいかもしれない。
「新米って……新米なのに、あんなに【治癒魔法】が凄いの? あれだけの実力があれば、宮廷治癒術師にだってなれるのに」
「シリウスはそう言うのは苦手なの。冒険者っていうのは、自由に冒険できるっていうのが最大の長所なの。だから、元々一か所に留まるような性格はしてないの」
「なるほど、だから宮廷治癒術師の誘いを断ったのね……」
まあ、『スターダストファンタジー』の冒険者はそれ以外にもいろんな理由で冒険者になる人がいるけどね。
親に憧れてっていうありふれたものから、国の密命を受けて、とか、宝を求めて、とか、その目的は様々だ。
シリウスは確か、親の死の真相を確かめるために、だったかな。
そう言えば、その設定はどうなってるんだろう。どう考えてもこの世界にシリウスの親の痕跡はないと思うけど。
設定的に無理があるものは無視されてるのか、それとも無理矢理設定通りに動かされるのか。できれば前者だったら嬉しいな。
そんなことを考えながら、話を続けた。
感想ありがとうございます。
 




