第六十八話:行先を予想
翌日。俺は昨日切れ端を見つけた場所からさらに上流へとやってきていた。
あそこに切れ端が落ちていた理由を考えてみたが、一番考えられるのはやはり魔物か何かに襲われた可能性だろう。
特に設定があるわけではないが、冒険者が着るような服がそう簡単にちぎれるはずもない。そんな状況になるとしたら、それこそ魔物に爪か何かで引っかかれたとかそう言う状況じゃないだろうか。
もちろん、枝に引っ掛けてちぎれてしまったっていう可能性もなくはないだろうけど、襲われたと考える方が妥当だろう。
だから、それらしい痕跡がないか調べながら川を上っていたわけなのだが、特にそれらしい痕跡は見当たらなかった。
「うーん、予想が外れたの?」
シリウスの服の切れ端が落ちていた以上、ここにシリウスが来ていたことは間違いない。
川が近くにあるなら飲み水の確保はできるだろうし、もしかしたらこの川の上流に拠点を構えている可能性もあるのではないかと思ったけど、全くその気配はなかった。
流石に、これ以上奥には行ってないと思う。先程から見かける魔物が雑魚からちょっと強い雑魚くらいにレベルが上がっているし、これ以上先はゲーム的に言うなら別エリアということだろう。
まあ、俺だったらいきなりそんな強い敵は出さないけど、ここは現実だし、人の手が入っていない奥に行くほど魔物が強くなるというのはある意味当然のことかもしれない。
シリウスがそれを承知で森を突っ切ろうとしたならば別だけど……慎重なシリウスがそんな選択を取るとも思えない。
地図を見てもこの先のことは書いてないしな。恐らく、別の国に繋がっているんだとは思うが。
「シリウスなら、どうするか考えるの……」
シリウスが国の追手から逃げるためにこの森に逃げ込んだとするならば、その後どういう行動をとるだろう。
シリウスは【アコライト】で、戦えるクラスではない。それは本人もよくわかっていることだろう。
となると、森に入って魔物と交戦することになったなら、ここではきついと気づくはずだ。
一時的に身を隠すだけならまだしも、長期的に滞在するには力不足を感じたはずである。
最終的な目標も、この国から脱出することだろうし、どのみちこの森からはそう時間がかからないうちに移動することを決意したはずだ。
では、次にどこへ行ったか。これはシリウスが地図を持っていたかどうかで少し変わる気がする。
もし、地図を持っていたなら、どこに行けば国から出られるかはある程度把握できるだろう。
森の中を突っ切るという選択肢が取れない以上、どうにかして関所を突破する必要がある。
しかし、関所にはすべて人相書きが配られていて、顔のチェックもされるらしいから、普通には通れない。
なら、通れるタイミングを見計らうためにも関所の近くの町か、その付近で潜伏しているのではないだろうか。
逆に、地図を持っていなかったのなら、行く場所は当てもないものになるだろう。
森は危険だからあまり長居はできない。けれど、町に行けば国に捕まる可能性がある。
どうにか秘密裏に治療行為をして日銭を稼ぐか、あるいはごみを漁ったりしてどうにか飢えを凌ぎながら、出られる場所を探してさまよっている。
そうなってくると、場所の特定はほぼ不可能だな。
シリウスの性格なら地図を買って場所を確認しようとするとも思うけど……ここはそれを信じて地図を持っている前提で考えてみるか。
「ここから国外に脱出しようとするとして、一番近いのは……この辺りなの?」
この国は北側はほとんどが森林地帯で道はない。正規の道を使って脱出するのなら、行くべきはそれ以外の方角。
そして、西に行くにはかなりの距離があるだろうし、東は王都のある方角。そう考えると、行くべきは南しかないだろう。
一応、ヘスティア王国の南には海に面した小さな国が一つあるらしい。そこへ逃げることができれば、大っぴらに追われることはなくなりそうではある。
ただ、一つ問題があるとすれば、そこへ行くともう逃げ場がないということだろうか。
「地形的に、その国の北はヘスティア王国、南は海、そして東と西は山。逃げられたとしても、そこから移動するのはかなり難しいの」
ヘスティア王国から逃げられたとしても、そこから先逃げる場所がない。
一応、船を使えば別の大陸に移動することはできるかもしれないが、果たしてこの国は大陸間を移動するような船があるんだろうか。
『スターダストファンタジー』にはあったけど、なければマジで袋の鼠だな。
もちろん、他国ならそんな簡単に追手は出せないとは思うけど、かなり小さな国らしいし、指名手配犯が逃げ込んだ、とか言われたら普通に差し出しそうではある。
しかも、これは俺がある程度地理を勉強したから知っていることだけど、シリウスがそこまで勉強しているかはわからない。
逃げる道が一つしかなく、その先のことを知らないのだったら、そっちに移動しようとしても不思議はない。
こうなってくると、もう捕まるのは時間の問題だ。ヘスティア王国だって、しばらくすれば逃げ道に気づくだろうし、下手したら国境を超える前に捕まる可能性もある。
何とか、国より先に見つけてあげないと。
「追われ始めた時期を考えて、さらに人目につかないように徒歩で移動していたとして……」
俺がクリング王国に治癒術師として呼ばれたタイミングよりもっと前にシリウスは有名だったらしい。
となると、遅く見積もっても俺が呼ばれる一か月くらい前にはすでに追われ始めていたんじゃないだろうか。
そうなると、大体二か月半ほど経っている計算である。
俺は馬車よりも速く走れるからあれだけど、シリウスの敏捷は普通だし、それにホビットだから歩幅も小さい。
人相書きのせいで乗合馬車なんかが使えないと考えると、移動は徒歩。あるいは馬だろうか。……いや、シリウスが乗馬なんてできるはずもないから多分徒歩だな。
この森から約二か月徒歩で移動したと考えると、すでに国境に着いていそうではあるけど、食料などの調達もあるだろうし、歩みはもっと遅くなるはず。
なら、まだ着いていない可能性も十分にありそうだよね。
「通った道にもよるけど、恐らくこの辺りにいるんじゃないの?」
俺は地図を見てある程度シリウスがいそうな場所を特定する。
もちろん、俺は探偵とかではないのでこの予想が間違っている可能性は十分にある。むしろ、間違っている可能性の方が高いだろう。
だけど、地図を持っていたなら少なくともこっちの方角に移動した可能性は高い。
どのみち手掛かりなんてほとんどないのだ。なら、片っ端から探し歩いていくしかない。
なに、俺は足が速いんだ。国中を探す羽目になったとしても、方角が大体合ってるなら言うほど時間はかからないはずである。
「そうと決まれば、さっそく出発するの」
俺は方角を見定めると、さっそく移動を開始する。
すでに拠点の竈は壊したし、特に思い残すことはないだろう。
何とか見つけられるといいのだけど。
そんなことを思いながら、道なき道を走り始めた。
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