第六十五話:嘘か真か
【センスイヤー】というスキルがある。
耳を研ぎ澄ませると、相手の言うことが嘘か真かを判断できるようになる、というスキルである。
これは一般スキルという、どのクラスにも属さないスキルで、NPCスキルともまた違うものである。
そのクラスになることによって取れるスキルは基本的にそのクラスに特化したものが多いから、効果量もそれなりに大きいけれど、一般スキルはそれこそ努力すれば誰にでも身に着けられるスキルだけあって効果量はそこまで高くはない。
まあ、それでも持ち物制限を緩和してくれる【イクイップアビリティ】とか色々有用なスキルもあるけど、一部のものを除いてあまり取ることはないだろう。取るとしたら、それはほとんどキャラ付けの意味だな。
もちろん、アリスが【センスイヤー】なんてスキルを覚えているのもキャラ付けのためである。
イヤーなんてついてたら兎だし取りたくなるよね?
まあ、それはいいんだ。問題は、スキルを使った結果である。
この男の言うことだが、確かに嘘はないようだ。これが判定に失敗した結果というならもうどうにもならないけど、今のところ判定をしたという感覚はないし、スキルはみんなフレーバーテキストの方が優先されているように思えるから多分間違ってはいないだろう。
だが、全部話しているかと言われたら、それは嘘と言わざるを得ない。
確かに、この男はシリウスを追い詰めたことに負い目を感じているし、それを謝りたいとも思っている。しかし、それはあくまでこの男だけであって、その上がどう思っているかはわからない。
それに、謝りたいとは言っているが、謝ったからと言ってシリウスの好きにさせようだなんて思っちゃいないだろう。謝った後で何とか説得し、宮廷治癒術師にしようとしていると思う。
まあ、もしかしたら本当にただ謝りたくて探している可能性もあるかもしれないけど、少なくとも後ろの騎士はそんなこと思ってなさそうだし、それはこの男のみの思惑だ。
そもそもの話、協力すると言ってもそれは俺にとって枷でしかない。
確かに騎士団の手を借りれば、多くの場所を一気に調べることができるだろう。例えば、俺が森を探そうと言って手を貸してくれるなら、広大な森の中を一気に探せるかもしれない。
だけど、シリウスは騎士団から逃げたくて隠れているわけで、それなのに騎士団に探させてしまったらより警戒させて出てこなくなってしまうだろう。
捕まれば一生この国に仕えなければならないかもしれないと考えれば当然の考えだ。
確かに人手は欲しいけど、それが騎士団では意味がない。もちろん、他の兵士や、この男も同様だ。
だから、どのみち俺がこいつらと協力することはないのである。
「探したければそっちで勝手に探せばいいの。私は私の力だけでシリウスを見つけるの」
「はは、勇ましいお嬢さんだ。わかった、そこまで言うなら無理強いはしない。時間を取らせてすまなかった」
何か言ってくるかとも思ったが、特に何か言い返してくることはなく、アラスは大人しく引き下がった。
「もし見つけたら私にも教えてくれ」とそれだけ言い残し、その場を去っていった。
俺がシリウスを探していたから声をかけたんだろうけど、そんなに人手が足りないのだろうか。
いやまあ、騎士団がどれほどいるかはわからないけど、そのすべてを人探しに当てるわけにもいかないだろうし、実際に探しているのはごく少数だろう。
そう考えると、同じ志を持った人を勧誘し、少しでも人手を増やした方がいいと考えるのは妥当なのかもしれない。
シリウスを探している一般人は俺だけじゃないだろうしな。
「さて、邪魔は入ったけど、さっさと行くの」
思わぬ時間を取られてしまったが、まだ日は高い。……いや、高くねぇわ。もう沈みかけだわ。
まあ、確かに昼間はずっと情報収集をしていたし、それなりの時間は経っていて当然か。
思い立った時はまだ明るかったから油断していた。おのれアラスめ。
まあ、そろそろ日没ということは、それだけ人気が少なくなるということでもあるから、移動するのは楽なんだけどさ。
「今から行くと、深夜になりそうなの」
この町から森まで最短距離で行くと、俺の足だと半日もかからない。
だけど、今の時間から行くとなると、流石に真夜中になってしまうだろう。
まあ、別に真夜中だっていいけれど、そろそろベッドで寝たいという欲求もあるんだよね。
この一週間、ずっと夜に移動していたせいで町に着いても宿屋に泊れなかったから、ベッドで寝れていないのだ。
もちろん、お風呂にだって入れてない。一応、毎日体は拭いているけど、やっぱりお風呂が恋しい。
お風呂を作るための魔法が欲しくなってくる。まあ、今は【セージ
】になっちゃってるから目的のスキルを取るまではクラスチェンジするわけにはいかないけども。
「うーん……」
いくら【暗視】があるとは言っても、やっぱり昼間の方が探しやすいのは事実だし、今から行くよりは一度泊って、朝から行った方がましか?
早く見つけなければいけないというのはあるけど、ただ急げばいいってものでもないし、ここはいったん体を休めることも必要かもしれない。
「うん、今日はいったん休むの」
結局、今日のところは一度休み、宿に泊まることにした。
森に行ってすぐに見つかるという確証があるなら行くべきだろうけど、そもそも森へ行ったかどうかすらわからないし、行ったとしても一日で探せる広さでもない。
ならば、まずはしっかりとした拠点を作ることが必要になるだろう。
食料を大量に買い込んで、何日かかけて森を探す準備を整えるべきかもしれない。
この選択は間違いではないはずだ。
「できればお風呂がある宿がいいの」
すでに日は落ちかけているが、まだチェックインはできるだろう。
お風呂は基本的に高級宿でしか見られないらしいので、泊るとしたら結構な額を取られるだろうが、もう一か月以上もお風呂に入ってないのでいい加減入りたい。
お風呂を条件に色々探してみたが、思いのほか早く見つかった。
元王都だけあって、立派な宿屋はいくつかあったし、王都でなくなった今でも国の西側に行くための中継地点としてかなり役に立っているようだ。
だから、高級宿の一つや二つ当然あるらしい。
お値段は一泊金貨2枚。最初に泊った宿が確か銀貨3枚だから……多分70倍くらい? やばいでしょ。
俺のような子供が金貨2枚をポンと出せるとは思わなかったのか、最初は門前払いを食らいそうになったが、先んじて金貨を見せてやるとすぐに態度を変えて迎え入れてくれたのが印象的だった。
まあね、これでも先生をやった時に稼いだお金と、王様を救ったお礼としてそれなりの額は受け取っているのだ。
両替で多少の手数料を取られたとしても、金貨くらいは普通にある。
まあ、流石にあんまり無駄遣いするとすぐになくなってしまうだろうから高級宿に泊まるのはあまりやりたくないんだけど……。
やっぱりお風呂を作る魔法が欲しい。ホムンクルスを作れるようになったらすぐにでも取得するとしよう。
そんなことを考えながら、久しぶりのお風呂を楽しむのだった。
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