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第六十三話:元王都

 昼は町に寄って情報収集をし、夜は一気に移動する。そんな生活を始めてから一週間ほどが過ぎた。

 俺の足の速さならもっと早く移動できるかとも思ったけど、やはり夜しか移動できないというのはそこまで効率的ではないらしい。

 これなら、魔物と遭遇するリスクを考えても道なき道を一日中走った方が早いのではないだろうか。

 まあ、情報収集の必要もあるのでこのスタイルが全くの間違いとは言わないけど、どちらがいいかは考え物である。


「とりあえず、例の町には着いたの」


 それでも、二週間かかるところを半分ほどの時間で移動できたのだから良しとしよう。

 この町は、以前は王都があった場所らしい。

 時の権力者が王として君臨していたようだが、ある時不正がばれ、そこを突かれて一気に失脚したらしい。

 王は責任を取らされて処刑、次に王となった者はこの地は気分が悪いと言い、王都は別の場所へ移転となったようだ。

 後に残されたのは、元王都としてふさわしい巨大な町と、名残である城だけ。住人達はいつの間にか王都民ではなくなってしまったと。

 まあ、権力者の不正が発覚して失脚するというのはよくある話ではあるけど、それで王都まで移転させるって相当な不正だったんだろうな。

 俺が思いつく不正と言えば、例えば税金の横領とかか? あるいは不倫とか。

 まあ、この世界ならもっと過激なのもありそうだけど。


「まあ、もう四十年も前の話さ。今はここを王都と思ってる奴なんてほとんどいないし、今の陛下だって別に不吉な地だなんて思っちゃいないよ」


 情報収集のために話しかけたおっちゃんが気前良く教えてくれた。

 当時はいわれのない誹謗中傷に晒されたかもしれないけど、王都だっただけあって町としての機能は結構充実していて、住みやすい町だったことは確かだったようだ。

 だからこそ、新しい王都に移住する人もそこまで多くなかったし、ここまで存続できたってことらしい。

 まあ、別に当時の王様が何をやらかそうが俺の知ったことじゃないんだけどな。


「それで、シリウスだったか。確かに彼はこの町にいたよ。向かいのばっちゃんも治療を受けて回復したって聞いたな」


 肝心のシリウスの話だが、この町でも何度か治療行為をしていたようだ。

 辺境の町から徐々に伝わってきたおかげもあって、この町に着く頃にはかなりの有名人だったらしい。

 おかげで、平民のみならず、貴族からも多くの治療依頼があったらしい。

 貴族の中には専属の治癒術師にならないかと誘ってきた人もいたようだが、シリウスはそのすべてを断っていたようだ。

 そのせいなのか、シリウスの評価は貴族の中ではかなり低い。

 せっかく類まれなる能力を持っていても、それを使いこなせなければ意味はない。せっかくのチャンスを棒に振る愚か者だってね。

 まあ、確かにこの国ではその行動は異常に見えるだろう。

 この国は実力至上主義で、実力さえあればどんな種族でも、どんな経歴でも高い地位に就くことができる。

 だが、逆に言えば実力のない者は要職どころか普通の職すら就くのが難しい状況なのだとか。

 そう言う、いわゆる国にとっての無能は、農奴とまではいかないけど、それでも店の下働きのような扱いを受けており、永遠に惨めな生活を送ることになる。

 だから、せっかく要職に就かせてやろうと言っているのに断るのはどちらの目から見てもかなり異常なのだ。


「国から勧誘を受けたって聞いたの」


「ああ、そうらしいな。だが、彼はやっぱり頷かなかった。権力者に囲い込まれて選ばれた人しか治療できないなら、自分はそんな地位いらないって言ってたらしい。いや、今時そんなこと言える奴がいるなんてなぁ、感動したもんだよ」


 シリウスは実力を持たない人達にとっての希望だったようだ。

 だからこそ、要職に付けない一般的な実力を持つ人や、それ以下の人にとってはかなり好印象を受けているらしい。

 このおっちゃんもそんなうちの一人なのかもしれないな。


「それで、シリウスはその後どこへ行ったの?」


「しばらくはこの町に滞在していたが、その後も勧誘が激しくて面倒になったのか、人知れずどこかに行ってしまったよ。自国民ならともかく、どう見ても他国民なんだから無理強いしなきゃいいのにな」


「そうなの」


 人知れずどこかへ消えた、か。

 うーん、それだとどっちへ行ったかまでは特定できないなぁ。

 他の人にも話を聞いてみないとわからないけど、完全にどっちに行ったかを特定するのは難しそうだ。


「ところで、嬢ちゃんは何でシリウスのことを? もしかして、病気か何かか?」


「あ、いや、そう言うわけじゃないの」


「そうか? まあ、会いたいっていうなら今は諦めた方がいい。国の騎士団でも見つけられてないみたいだからな」


「諦めるつもりはないの」


「はは、なら会えるように応援くらいはしておくよ」


「どうもなの」


 さて、もう少し聞き込みはしてみるつもりだけど、この調子だと有益な情報はあまり手に入らなそうだ。

 まあ、門番とかならもしかしたら出ていく姿を見ているかもしれないけど、人知れずと言っているし、恐らく夜にこっそりと移動したって感じじゃないだろうか。

 予想としては、王都からは離れるだろうということだけど、そもそもシリウスはこの国の地理を把握しているんだろうか?

 確かに地図は冒険者ギルドや雑貨屋なんかでも買えるが、それなりに高い。

 この世界では地図を書くには基本的に徒歩による測量であり、距離を測るための機器もないからかなり大雑把な地図になっている。

 それでも、地図があるのとないのとでは旅の安全の高さは変わってくるし、地図を作る労力もかなりのものだから、それ故に地図は割高になっているのだ。

 シリウスは確かに治療行為で日銭を稼いでいたようだが、話を聞く限り、かなり安めに設定されていた。もちろん、それでも一日食べられるくらいの料金ではあるようだけど、そんな中で地図を買う余裕があったかは微妙なところである。

 まあ、この町に着いた時点ではかなりの有名人だったようだし、そこでなら買えたかもしれないけどな。

 だから、把握していた可能性もあるし、把握してない可能性もある。

 把握しているなら、自分を狙っている王様がいる王都に近づくはずはないから離れるだろうけど、把握していないのならそれすらわからず王都に向かう可能性もなくはない。

 そうなってくると、かなり面倒なことになる。

 単純に場所を絞れないというのもあるが、騎士団に捕まってしまう可能性もあるからだ。

 シリウスは【アコライト】という回復役で、回復役に敏捷はあまり必要ない。まあ、バッファーとしての役割も担うなら敏捷も必要になってくるが、『スターダストファンタジー』においては敏捷が高い者は待機をすることによって好きなタイミングで動くことができる。

 だから、バフを受けたければ待機しておき、バフを受けてから攻撃、というのでも全然問題ないのである。回復は攻撃を受けてからやるものだし、遅く動いた方が有利だしな。

 で、そんなわけだから、シリウスの能力値はMPに関係する精神力特化。それ以外は持ち物制限の緩和のために筋力に少しとか、知的なイメージがあるから知力とか、すっごい微妙な振り方をしていた。

 まあ、シリウスこと冬真は能力値よりも設定にこだわるタイプだから、キャラの能力値はあんまり気にしていないのだろう。

 実際、【アコライト】はMPさえ尽きなければ回復量はレベル依存の数値で回復するし、バフも固定数値である。だから、魔法の威力が上がる知力を上げる必要もあまりないし、物理攻撃のダメージが上がる筋力を取る必要もあまりない。強いて言うなら、他の人を待機させないように敏捷に振るとか、クリティカルの確率が少し上がる運を上げたりするくらいだろうか。

 まあ、仮に敏捷特化にしていたとしても、レベル5では大した速さにはならない気もするけどね。

 そういうわけで、敏捷が特に高いわけでもなく、攻撃能力があるわけでもないシリウスはもし騎士団に見つかるようなことがあれば高確率で捕まってしまうということである。

 そうなってしまったら、助け出すのはかなり難しいだろう。だから、できればそうはなってほしくないものだ。

 とは言っても、シリウス次第だけど。

 不安に思いつつも、情報収集を続けるのだった。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] >バフも固定数値である  固定値……ダイスの女神に嫌われていたり、弄ばれたりしている者にとっては良い響きだ…………(一筋の水が目からつつつー)
[良い点]  か細いながらシリウスの足取りを辿れている(・Д・)考えたらシリウスが善行をしていない地域に入ったらそれなりに病人や怪我人に出会うだろうからアリスが辻ヒールしてしまいヤブヘビになるフラグも…
[一言] 合流できたとしてアリスの面食い特性がどう働くか……
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