第六十二話:シリウスの向かった先は
色々話を聞いてみてわかったことは、シリウスは王都のある方向へ向かっていったということだ。
この町の人達による証言だけだから、どれくらいの信憑性があるかはわからないが、国が勧誘を行った地点は王都から少し離れたそこそこ大きな町でのことらしい。
この町で最初に目撃されたのならば、シリウスはこの町から王都を目指して進んでいき、その途中で勧誘に会ったってことになるだろう。
その後の進路は詳しくはわからなかったが、国から逃げると考えるなら、王都からは遠ざかるのではないだろうか。
少なくとも、王都の方向に進んでいないと仮定するなら、そこそこ場所は絞れる。
まあ、それでも国一つを探すわけだからまだまだ膨大だけど、一応の指標にはなりそうだ。
「となると、まず進むべきはシリウスが勧誘を受けたっていうこの町なの」
冒険者ギルドで簡単な地図を買ったので、広げてみてみる。
この国はいびつなひょうたんを横にしたような形をしているらしい。王都があるのはひょうたんの下の部分で、今いる町は口の部分に当たるようだ。
東側に大きな森があり、その森が辺境と王都を分断するように侵食しているので、普通に考えれば逃げた後この森に逃げ込んだと考えるのが妥当だろう。
方角的にも、王都から遠ざかる形になるし、勧誘を受けた町というのもひょうたんの下の部分に当たるので間違いないと思う。
ただ、東側にある森はひょうたんのくびれの部分のみならず、周りの方を覆いつくす形で結構な範囲に広がっている。
森に逃げ込んだ可能性は高いだろうが、森だけでもかなりの範囲だ。探すのは骨が折れそうである。
だから、せめてどちらの方角に逃げたのかを把握する必要がある。そのためにも、シリウスが勧誘を受けたという町に行ってみることは必要だろう。
「無事だといいのだけど」
俺だって、最初は何もない草原でサバイバル生活に近いことをやっていたが、あの時は手持ちの食料と水だけで何とかなった。
日数的にもそこまで長くなかったので、もしかしたらあれは遭難のうちに入らないかもしれない。
しかし、シリウスの場合はすでに数ヶ月が経過している。
まあ、いつから逃亡状態なのかははっきりしないけど、俺がこの世界に来たのが確か半年くらい前の話だ。
シリウスも同じくらいの時期に来ていると仮定すれば、少なくとも一か月以上は逃亡生活を続けている可能性がある。
一か月も森で生活とか、俺だったら耐えられない。
レベルは5だが、この世界基準で考えれば騎士と同レベルくらいなはずなので、そうそう後れは取らないだろう。しかし、いくら強くても、どんな過酷な状況でも生活できるかと言われたら話は別だ。
それにそもそも、シリウスは【アコライト】、後衛のクラスである。確か、スキルの中に攻撃系のスキルは一つもなかったはずだ。
それを考えると、強いとも言い難いかもしれない。
まじで早く見つけてあげないとまずいかもしれないな。
「とにかく、さっさと移動するの」
俺は地図をしまい、念のため両替商に両替を頼む。
国ごとに通貨が違うのは当然と言えば当然なのだけど、『スターダストファンタジー』でそんな通貨が違うなんて概念あっただろうか。みんな一緒だったような気もするけど。
まあ、実際違うのだからそれに従うしかない。
両替して手に入れたお金で食料などを買い込み、【収納】にしまう。
さて、行くとしようか。
王都までは馬車で大体二週間ほどかかるらしい。
だが、俺の足ならばもっと早く着くことができる。敏捷特化というのはこういう時にかなり便利だ。
とはいえ、昼間っから街道を走っていては人目につくので、夜を待ってから一気に移動することにした。
ここに来た時のように、道なき道を進むのでもいいんだけど、あれはあれで色々問題があることに気が付いたんだよね。
いやまあ、あの時はスキルの確認とかを兼ねていたからそれでよかったんだけど、道なき道を行くと、当然ながら魔物に遭遇する。
街道周辺は安全確保のために定期的に魔物の掃討がなされるが、道でない場所はそんなことしない。だから、魔物と遭遇する確率が高いのだ。
俺の足なら無視できるとは思うけど、いちいち気にして走るのは少し面倒だし、魔物以外にも障害物を避ける必要もある。
ただまっすぐ走るなら速いだろうけど、そうして障害物がたくさんあるならそこまでの速度は出ない。下手したら正面衝突して大怪我、なんてこともあるかもしれない。
だから、快適に走りたいなら、やはり道が整備された街道を通りたいのだ。
そう言うわけで、人通りも少ない夜に移動しようと思ったわけである。
明かりに関しては問題ない。【暗視】があるからな。
後はたまに野営をしている人に気を付ければ、快適に走ることができる。
「魔物がいないのはいいけど、経験値が手に入らないのもちょっと問題なの」
この国に来た時と比べて、かなり走りやすくはあるのだけど、魔物と会わないということは経験値を手に入れることができないということでもある。
まあ、俺の能力値的に別にレベルを上げる必要はないと言えばないのだけど、今はルナサさんの体を用意するためにもある程度のレベルアップが必要になっている。
そんなに長い間放置するわけにもいかないし、早めに集めなければならないのは確かだ。
うーん、でも今はシリウスの救出が急務だし、あんまり欲張らないほうがいいのか? 二兎を追う者は一兎をも得ずと言うし。兎は俺なんだけども。
「まあ、出てきたら狩るくらいのつもりでいるの」
当初は魔物一体狩るのにも忌避感があったのに、今では完全に経験値としか感じていない気がする。
いや、一応食料の確保とか、素材を売ってお金を手に入れるためだとか、色々理由は作れるけど、最初のように自分の考えとアリスの設定による考え方の乖離が起こらなくなってきている気がする。
これは俺が慣れたのか、それとも設定に侵食されてきているのか、どちらなんだろうか。もし後者だとしたら、怖いな……。
まあ、どうしようもないからこのままいくしかないんだけども。
せめて、殺すことに快楽を覚えるようなことにはならないようにしておかないと。
「あ、町が見えたの」
そんなことを考えていると、前方に町が見えてきた。
すでに時刻は深夜。当然ながらすでに町の門は閉まっており、中の建物も明かりは全くついていない。
できればベッドで寝たかったけど、この様子だと入れたとしても宿屋はしまっているだろうな。
「仕方ない、町のそばで寝るの」
一応、町のそばには町に入るための通行料を払えなかったりして追い出された人が寝泊まりすることもある。
町の近くだけあって、そこまで魔物も出てこないし、仮に出てきたとしても門番が対応してくれるからな。身の安全を考えたら結構いい寝床ではあるのだ。
とはいえ、あんまり目立ちたくもないので、そこそこ離れた位置にテントを張り、そこで休むことにする。元々、町の側で寝る行為は感心しない行為だし。
この調子で早めに着けるといいんだけどな。
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