エピローグ
エピローグとなります。
あの日、俺達は無事に元の世界に帰ってくることができた。
気が付いたら、いつもの部屋でテーブルに突っ伏しており、窓の外から差し込む朝日が眩しかったのを覚えている。
あれから色々と確認をしたが、まず、時間は俺達がTRPGで遊んでいた、あの日の次の日らしい。
あちらの世界で結構な年数を過ごしたわけだが、こちらの世界では特に時間の経過はしていないようだ。
体も確認してみたが、しっかりと元の高校生の姿に戻っていた。
時間が同期していて、こちらの世界に戻った瞬間に大人の姿になってしまう、なんてことにはならなかったようである。
最悪、病院のベッドの上で目覚める、なんてシチュエーションも考えていたが、そうはならなかったようで安心した。
表面上は、ただ単に遊んでいた高校生達が、寝落ちして次の日を迎えた、と言うだけの話であり、世界に何らかの変化があったわけではない。
けれど、一つ変わったことがあるとすれば、思い出が残っているということだろう。
あちらの世界で体験した記憶は、今でも俺達の記憶に残っている。
もちろん、すでにアリスの体ではないから、今になって弓を扱おうとしてもできるわけはないし、身体能力が飛びぬけて凄いというわけでもない。
けれど、そうした思い出は、少なからず俺達の人生に影響を与えたんだと思う。
「みんな、おはよう」
「おう、秋一、おはよう」
あれから一か月ほど。
俺達は以前と変わらぬ高校生活を送っていた。
学校に行けば、カイン達、いや、夏樹、冬真、春斗の三人が挨拶を返してくれる。
もうだいぶ慣れてきたが、帰って来た当初は、ああ、こんな日常だったなとしみじみと感じたものだ。
「あれから何か変わったことあったか?」
「変わったことと言うほどではないけど、割とブロックの精度が上がって来たかな」
ブロックと言うのは、バレーボールで言うところの、相手のスパイクをガードし、威力を弱めたり、相手のコートに返すことである。
俺と夏樹はバレーボール部に所属していて、共に練習しているわけだが、その時の先輩との模擬試合で、ブロックが成功することが多くなった印象だ。
別に、これだけなら、練習の成果が出て、うまくなったってだけかもしれないけど、どうにもそういうわけではなそうな気がするんだよね。
「ああ、やっぱりそういうのあるよな。俺も、体が頑丈になったような気がするんだよ。飛び込んでも全然痛くないし」
「俺は怪我の治りが早くなったかな。前は擦り傷なんてしょっちゅうだった気がするのに」
「僕はラブレターの数が増えて参ってるよ……」
「それは当てつけか? え?」
「ち、違うって! 相手男だからね!?」
「ああ、そういうことか」
春斗の発言に冬真が突っかかっているが、まあ、そんな感じで何となく変化があったように感じるのである。
多分だけど、帰る際にクーリャがくれた加護が関係しているんじゃないだろうか。
スターダストも、成長を願う的なことを言っていたし、あちらの世界でのキャラの性能の一部が、俺達の体に、それとなく反映されているのかもしれない。
まあ、と言っても本当に微々たるものだとは思うけどね。
俺の場合、恐らくジャンプ力が上がったから、ブロックが成功しやすくなったんだと思うけど、別にいきなり20センチメートルとか高く飛べるようになったわけじゃないし、ジャンプの高さだけで言うなら夏樹と同じくらいである。
背の高さの関係で、俺の方が高く飛んでいるように見えるだけで、傍から見たら、そこまでの違いはない。
だけど、ささやかでも、こうしてあちらの世界の経験が生きるのはいいことなのかもしれない。
これで何かしようとは思わないけど。
「他の人達も、無事に戻ったのかね?」
「さあ? 戻ってきてるとは思うけど、特定するのは無理じゃないか?」
あの時、一緒に元の世界に帰った人達はたくさんいるけど、その容姿は元の世界に戻った時点で元に戻っているだろうし、見覚えがある人がいる、って感じで特定するのは無理があるだろう。
あちらからあちらの世界の話をしてくれるならまだチャンスはあるけど、一応あれは『スターダストファンタジー』の世界の出来事だし、普通にTRPGとしての話の可能性もある。
相手がそういう話をしたからと言って、こちらも、あ、俺もその世界に行ってたんですよ、と言うのは博打が過ぎる。
まあ、俺達が元気でやってるんだから、多分みんなうまくやっていることだろう。
「そっか。会えたら仲良くなれそうな気はするけどね」
「ま、機会があれば会える時もあるだろうさ。少なくとも、日本にはいるだろうし」
「案外近くにいるかもな」
「そうかぁ?」
ざっと周りを見回してみる。
今は昼休みだが、クラスにはお弁当を食べる者や、友達同士でだべっている者なんかがよく見られる。
この中に、あの世界で一緒にいた人達がいるかもしれないと思うと面白いけど、まあ、多分ないだろう。
「もし探すなら、コンベンションでも行けばいいんじゃない? 少なくとも、『スターダストファンタジー』のプレイヤーだったんだから」
「ああ、それもそうか。今もやってるなら、それでワンチャン会えるかも」
アルメダこと、ファーラーの言うことが正しいのなら、連れてきた人物は、日本にいて、その時『スターダストファンタジー』を遊んでいたプレイヤーである。
であるなら、そこで会う可能性もなくはない。
と言っても、あんな出来事があった後に、再び『スターダストファンタジー』を遊んでいるかはわからないが。
「俺達も、最近やってないよな」
「他のTRPGはちょくちょくやってるけど、『スターダストファンタジー』はあれっきりか」
「まあ、あんなことがあったわけだしね」
ないとは思っているが、『スターダストファンタジー』を遊ぶことによって、再びあの世界に連れて行かれる可能性もなくはない。
そう考えると、どうにも遊びにくくなってしまった。
いや、皆で行けて、なおかついつでも帰ってこれるというなら、行くのも吝かではないけど、呼ばれるとしたら、絶対また何か厄介事を押し付けられる気がする。
もちろん、今はスターダストもいるし、そう簡単に世界の危機が訪れるとは思わないけど、こちらの世界とあちらの世界では時間の流れも違いそうだし、まだ一か月しか経っていないとはいえ何かある可能性は十分にある。
「一応、あっちの世界に残った奴が対処してくれるとは思うけど、また呼ばれると思うか?」
「どうかなぁ。流石にもう呼ばないんじゃない?」
「だといいがな」
オールドさんを始め、何人かのプレイヤーはあちらの世界に残ったけど、無事にやっているといいけれど。
「……ねぇ、明日休みだし、今日集まって、『スターダストファンタジー』やらない?」
「なんだ春斗、また女になりたいのか?」
「違うよ! でも、冒険に飢えているって気持ちは、皆もわかるでしょ?」
「……まあ」
後遺症と言うほどではないが、あれだけの大冒険をした影響か、この世界の日常が、いかに平凡なものかを痛感しているというのはある。
あちらの世界のように、大冒険をしたいというほどではないが、それでも、何かしらの刺激が欲しいとは思ってしまっているのだ。
それを解消するために、色々と他のTRPGに手を出したわけだけど、それでもなかなか欲求は解消されない。
やはり、やるなら『スターダストファンタジー』でなければならないというのはわかる。
「……仕方ない。俺も同じこと思ってたし、いつまでも怖がって遊ばないんじゃもったいないしな」
「そうだな。もしまたあっちの世界に行くようなことがあっても、それはそれで欲求は満たせるだろうし」
「それじゃあ決まりだね。放課後、秋君の家に集合!」
心配事はあるが、それ以上に興奮しているのも事実。
さて、何かいいシナリオはあっただろうか。
俺は会話に耳を傾けながら、シナリオを考えるのだった。
今回で、『TRPGのゲームマスターはお助けNPCとして異世界を駆ける』は完結となります。
きちんと完結させるのはこれが初めてとなりますが、ここまで書き続けられたのは、ご覧になっていただいた読者様のおかげです。ありがとうございます。
今後は、『捨てられたと思ったら異世界に転生していた話』を投稿しつつ、また新たな作品を書けたらいいなと思っています。
いつになるかはわかりませんが、投稿された暁には、ご覧になっていただけたら幸いです。
というわけで、ここまでご覧いただきありがとうございました。また次の作品でお会いしましょう。




