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幕間:後始末と再会

 元粛正の魔王、オールドの視点です。

 アリス達が神界に乗り込んでからしばらくが経った。

 その間にも、魔王はどんどんと増殖を続け、徐々に手が付けられない状況になりつつある。

 早いところどうにかしないといけないのは確かだけど、いくら魔王を倒したところで意味はない。

 元凶を排除しない限りは、どうにもならないだろう。


『状況の割には、落ち着いていますね?』


「そりゃそうさ。すでに準備は整えているんだから」


 確かに、神界に行くのはアリス達に任せたが、俺だって何もしていないわけじゃない。

 何のために、粛正の魔王としての力を取り戻そうとしているのか。

 時代を粛正するため? んなわけはない。

 来るべき時のために、最大限の力を発揮するためだ。


『準備と言っても、グレンに働かせてばかりなような気がするけれど』


「いいんだよ。俺は今力を使っちゃいけないんだ。今はね」


 まあ、せかせか働かされている友人には悪いと思うが、これも必要な処置である。

 タイミングは、アリス達がファーラーを倒した時だろう。

 元凶がファーラーなのに、それを倒した後じゃ遅いのではないかとも思うけど、スターダストから話を聞いて、恐らくそれでは終わらないと思い直した。

 多分、今のファーラーは、ファーラーであってファーラーではない。

 何者かが操っている、そう考えるのが妥当だろう。

 俺を操り、神界を襲撃させた時も、考えてみればおかしかった。

 なぜ、粛正の魔王という、神からしたらただの魔物に過ぎない俺を倒せる者が誰もいなかったのか。

 それは恐らく、ファーラーを操る何者かの手引きがあったからだろう。

 神の弱体化、と言うよりは、俺の大幅な強化を行ったんだと思う。

 いくら手加減されていたとはいえ、神が次々に蹂躙されるなんておかしいし。

 今の世界の、ありえないくらいレベルアップしにくい状況も、それが関係していそうである。

 だから、操り人形であるファーラーが倒されれば、必ず真の元凶が現れるはずだ。

 まあ、仮に現れたとしても、主人公属性が強そうなアリス達が相手なら倒してしまうかもしれないけど、そう簡単に終わるとは思えない。

 絶対に、地上に降りてくるタイミングがあるはずだ。

 俺がやるべきは、その真の元凶を、完膚なきまでに破壊すること。

 もう二度と悪さできないように、跡形もなく消滅させる。それができて、ようやく世界は救われたと言えるだろう。


『あの子達だけで大丈夫かしら?』


「心配はないだろう。アリスは、この世界を変えるキーマンであると確信している」


 ゲームマスターの力を有しているプレイヤー。

 それは、俺の親友である、グレンも同じだった。

 グレンがいたからこそ、最低限世界は存続できる状態で、俺は正気を取り戻すことができた。

 下手をすれば、俺は時代の粛正をしたと同時に消滅していたかもしれないし、そうでなくても、ファーラーの性格を考えるなら、復興した後の人類に敵の旗頭として担ぎ上げられ、ぼこぼこにされる可能性もあった。

 どうあがいても、俺に安寧の未来はなかったのだ。

 それを、変えてくれたのがグレンである。

 逆に言えば、グレンでさえ、そこまでしかできなかったと言えなくもないけど、ゲームマスターに対抗できるのはゲームマスターだけという理論で言うなら、アリスは間違いなくキーマンである。

 必ずや、ファーラーを倒し、世界を救ってくれると信じている。


「……と、そろそろかな」


 空に歪みが発生する。

 恐らく、アリス達にやられた奴が地上に来ようとしているのだろう。

 どんな姿かは知らないけど、出てきた瞬間粉砕してくれる。


「そこだ!」


 歪みが大きくなったタイミングを見計らって、破壊の力を込めた光線を放つ。

 それは確かに命中し、盛大な爆発音を響かせた。

 黙々と煙が上がる中、俺は冷や汗を流す。

 確かに、最大限の一撃だった。友人に集めてもらったスターコアを吸収し、粛正の魔王としての力はほとんど取り戻したのだから、その一撃が弱いはずがない。

 それなのに、手ごたえを感じなかった。

 言うなれば、空気を掴んだような、そんな空虚な感覚。


「……粛正の魔王の一撃を防ぐバリアとか、どんだけ力を残しているのかね」


 煙が晴れ、姿があらわになる。

 そこにいたのは、黒い人型。風に揺れるように、輪郭はボケてはっきりしないが、目に当たる部分が明らかに怒っているように見える。

 俺の一撃に怒っているというよりは、アリス達に負けたことに怒っているとか、そういう感じなんだろう。

 人型は、瞬く間に膨張していった。

 まるで、何かを吸い込んでいるかのように、むくむくと大きくなり、どんどん巨大化していく。

 経験値を吸収している? そう考えると、俺が近くにいたこと自体が悪手だったかもしれない。

 なにせ、今の俺は経験値の塊みたいなものだ。

 粛正の魔王としての力に変換はしているが、レベル自体は上がっていないので、経験値はそのまま残っている状態。

 これを吸われてしまったら、手が付けられなくなってしまう。

 今更離れても遅いだろう。スターダストも身を固くしているが、どうしようもできない。

 せっかく、ここまで準備してきたのに、肝心なところで俺は失敗するのか……。


『諦めないで!』


 ふと、そんな声が聞こえた気がした。

 顔を上げてみると、先ほどまで膨張を続けていた人型が固まっている。

 時間が止まった? だが、そんなスキルは使っていない。

 いったい何事かと困惑していると、俺の目の前に何者かが降り立った。

 それは、一匹の兎。

 この兎には見覚えがある。そう、友人がサーカス団に入れていた、イナバと言う兎だ。

 アリスと入れ替えたりして一悶着あった後、そのままアリス達の仲間になったはずだけど、そんな兎がなぜここに。


『また絶望しちゃったの? 今度も助けてあげないとダメかな?』


「今度も……? いや、それよりも、その声は……!」


 以前に聞いた、イナバの声とは違う、凛々しい声。

 それは、今までたくさん聞いてきたけど、もはや聞けなくなった懐かしい声。

 まさか、そんなことがあり得るのか?

 こんなにも近くに、いてくれたのか?


「グレン……?」


『そう、君の親友のグレンだ。君が望むなら、喜んで力を貸そう。今回も、力を貸してほしい?』


 グレンは、あの時に消えてしまったはずだった。

 俺が未熟なばっかりに、無能な俺ではなく、優秀なグレンがいなくなってしまった。

 それを悔いて、自分一人でもなんとかできるように努力してきたけど、それも結局できなくて、心の中で毎日泣いていた。

 そんなグレンが、目の前にいる。


「……グレン、また力を貸してくれるかい?」


『もちろん。今日で、悲しい日々とはおさらばだ』


 その瞬間、人型がはじけ飛ぶ。

 内側から破裂したかのように飛び散った破片は、そのまま空気に溶けていき、霧散する。

 元々、ボロボロの状態ではあったのだろう。それを、グレンの力でとどめを刺した、そういうことなんだと思う。

 なんだかいいところを持っていかれたような気はするけれど、そんなことはどうでもいい。

 俺は、ようやく再会できた親友にギュッと抱き着いた。

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[一言] イナバさん……
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