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幕間:後衛の仕事

 【カンナギ】のクズハの視点です。

 今、世界各地で魔王が出現している。

 これは、世界の滅亡を願ったファーラー神によって引き起こされたことであり、狙いは世界を破壊すると同時に、アリスさんを抹殺することだという。

 そうなった経緯はよくわからないが、少なくとも、世界に魔王が大量に出現している今の状況は、非常によろしくないということだけは理解できた。


「本当なら、私も最前線に立つべきなんだろうけど……」


 私が居るのは、最前線から少し離れた、いわゆる後衛である。

 役割としては、避難してきた人や、前線で傷ついた人達を治療する、回復役ってところだろうか。

 大事な役割ではあるけど、私のクラスである【カンナギ】は、本来はアタッカーが役割である。

 回復もできないことはないが、本来なら前に出て戦うべき人材だ。

 それができないのは、私が【カンナギ】と言うクラスを使いこなせていないのが原因である。

 【カンナギ】の主な攻撃手段は、【コールゴッド】と呼ばれるスキルを使い、神様を体に憑依させることによって、強力な力を得て、戦うというものである。

 【シャーマン】とやっていることは似ているが、デバッファーである【シャーマン】と違って、こちらはバリバリのアタッカー。その分、攻撃性能に秀でている。

 ただ、私は【コールゴッド】のスキルを使うことができないのだ。

 覚えていないわけではない。ただ、以前のトラウマから、自分の体に誰かを憑依させるという行為自体が苦手になってしまい、使えなくなってしまっているのである。

 おかげで、攻撃面はセカンドクラスに任せっきりとなってしまい、それもメインクラスの縛りがあるせいでそこまで大きく伸びることもなく、いくらレベルを上げてもらったとは言っても、前線に立つには心もとない性能になってしまったのだ。

 本当に情けないと思うけど、私には後衛がお似合いなのである。


「クズハ様、あちらの方の祈祷をお願いできますか? 少々立て込んでおりまして」


「あ、うん、わかった」


 私にそっくりな見た目の少女にそう頼まれて、怪我人の治療へと向かう。

 この人はイグルン。元々は、大昔の偉人らしいんだけど、何の因果か、今の時代まで魂だけの状態でさまよっていた変わり者。

 そして、私にトラウマを植え付けた張本人でもある。

 と言うのも、イグルンさんは、私の体に憑依し、体を勝手に動かして、私から体の主導権を奪ったのである。

 まあ、それを許可したのは昔の私なのだけど、今考えると、本当になんてことをしてくれたんだと思う。

 イグルンさんは、困っている人を放っておけないらしく、たとえ疲れていても、限界を超えて動くような人だった。

 質の悪いことに、その疲労は、体の持ち主である私にばかり蓄積していって、イグルンさんは感じないという始末。

 おかげで、イグルンさんが困っている人を助けようとするたびに、限界を超えて体を酷使され、そのせいでデバフや状態異常がてんこ盛りになり、私はたとえ主導権を取り戻していたとしても、全く動くことができない状況に陥ってしまった。

 それをいいことに、イグルンさんは私の体をさらに使って疲労を貯めていくという悪循環。

 正直、アリスさんが助けてくれなかったら、私はその内魂が擦り切れて死んでしまっていたかもしれない。

 本当に、アリスさんには感謝しかないね。


「お待たせしました。今治療しますね」


 イグルンさんに言われた通り、怪我人の治療をする。

 治療と言うか、祈祷だけどね。【カンナギ】は、舞を踊ることで様々なことができるという側面も持っている。

 祈祷は、回復を祈ることもできるから、それで疑似的に治療ができるというわけだ。

 ただ回復するだけなら、【アコライト】にでもなった方がよっぽど楽な気はするけどね。


「クズハさん、こちらをどうぞ」


「あ、グレイスさん。ありがとうございます」


 祈祷を終えると、ちょうどそのタイミングでグレイスさんが水を持ってきてくれる。

 グレイスさんは、私達のようなプレイヤーではないけれど、【レベルドレイン】と言う特殊なスキルを持っていることでアリスさんに注目され、そのまま育てられてきた人である。

 その気になれば、前線でも活躍できそうな人ではあるけど、今回は私達の護衛と言う意味も込めて、後衛での支援に徹しているようだった。


「怪我人はまだ増えそうですか?」


「一応、大きな怪我をした人は減ってきています。避難の際に怪我をしたって人はたくさんいますけど」


 現在、前線に立っているのは、他の戦えるプレイヤーと、エンシェントドラゴン達、そして、アリスさんが強化した現地人の人達である。

 魔王が一体だけだったのなら、大幅にレベルの上がったプレイヤーなら一人でもなんとかできるけれど、いかんせん魔王の数が多すぎる。

 一地域に一体しかいないとなっても、他の地域も範囲に含めれば、かなりの数が存在する。

 それを、プレイヤー一人で討伐していくのは流石に無理があるから、常に戦っていられるわけじゃない。

 魔王の配下である魔物を倒す露払い役も必要だし、だからこそ、現地人の協力が必要なわけである。

 だが、いくら強化したとは言っても、限界がある。戦闘のさなか、大怪我をして後衛に下がってきた人達は、たとえ傷が治ったとしても即座に戦場に帰るようなことはしない。

 HPはともかく、スタミナ的な体力の消耗はあるし、一度大怪我をした戦場に戻りたくないという心情の人も多い。

 だから、徐々に前線の数は減っていき、やがて後衛に下がらなくても何とか出来る精鋭だけが残る。

 中には勇敢な現地人もいるだろうけど、恐らく戦っているのは、ほとんどプレイヤーとドラゴン達だけだろうな。


「魔王は一度倒しても復活すると言います。この戦い、終わりはあるんでしょうか?」


「わかりません……。でも、終わると信じるしかないですね」


 一応、アリスさんが元凶を倒しに行く、と言うような話は聞いたけど、どこまで信頼できるものか。

 いや、アリスさんなら、必ずやり遂げてくれるという信頼はあるけど、それがどの程度で完遂されるかどうかはわからない。

 今の調子だと、前線の負担が多すぎて、いずれ崩壊する未来が見えている。

 今はまだ、王都からは程遠いけど、撤退することになったら、いくつの町が滅ぶかわかったものじゃない。

 私達が干上がる前に、どうにかしてくれたらいいんだけど……。


「アリス様なら、必ずやり遂げてくれますよ」


「イグルンさん……」


 粗方治療が終わったのか、イグルンさんが話に入ってくる。

 イグルンさんは、一応教会の関係者だから、神を信仰していると思うんだけど、その元凶が神であるということについてどう思っているんだろうか。

 アリスさんのことを信頼しているのはわかるけど、そのまま倒されてしまってもいいのだろうか?


「神が常に正しいとは限りません。今回のように、悪意のある神もいるでしょう。しかし、悪は必ず裁かれるものです。アリス様が神界へ向かわれたのなら、必ずや天誅を下してくださることでしょう」


「イグルンさんはそれでいいんですか?」


「それはそうです。世界の滅亡を企てるような神を、どうして信じられましょう? それに、私はすでに神官と言う立場でもありませんしね」


 随分とさっぱりした答えである。

 でも、案外そんなものなのかもしれない。誰だって、自分の命を脅かそうとする奴を信用しようとは思わないだろうから。

 だんだんと日も落ちてきて、運び込まれてくる人も減ってきた。

 今も戦いは続いているんだろうけど、どうか耐えきって欲しい。

 そう考えながら、仮眠を取ることにした。

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[一言] 結局トラウマの克服は無理だったか
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