第六十一話:ヘスティア王国へ
第三章開始です。
道なき道を歩き、時には走りを繰り返しながら進むこと約三週間ほど。俺はようやくクリング王国とヘスティア王国の国境に位置する町へとやってきた。
どうやら、ヘスティア王国はクリング王国の隣国だったらしい。
ヘスティア王国もまた、クリング王国と同じく人間の町のようだが、クリング王国でされたような獣人差別のようなものはあまりないようだ。
少しびくびくしながら入ってみたけど、みんな特に蔑んだ目を向けてくることもなく、店を覗いても特に文句を言われることもない。
国が変わるだけでこうも違うのかとも思ったけど、よくよく考えたら辺境であるマリクスでは同じクリング王国であるにもかかわらず獣人差別のようなものはなかった気がする。
俺の足でも三週間くらいかかったわけだし、それだけ離れれば考え方も変わってくるのかもしれない。
「さて、シリウスはどこにいるの?」
俺がシリウスこと冬真について知っていることは、エミリオ王子が数か月前に優秀な治癒術師を探している時に、ヘスティア王国で優秀な治癒術師がいるという話を聞いたという情報だけだ。
具体的にどこで目撃されたのかというのも知らないし、数ヶ月も前の情報なのでそもそもすでにいない可能性もある。
しかし、たとえすでにいなかったとしても、その痕跡を辿ることができればいずれ辿り着くことができるだろう。
単純に移動速度だけなら俺の方が何倍も速いだろうしな。
「すみません、少しお話を聞きたいの」
「あら、可愛い子だね。どうしたんだい?」
とりあえず、店先で果物を売っていたおばちゃんに話しかけて聞いてみることにする。
まあ、ヘスティア王国と言ってもこんな端っこの町では名前に思い至ることはないかもしれないけど、一応念のためね。
そう思って聞いたのだが、返って来たのは意外な答えだった。
「ああ、シリウスさんね。よく知ってるよ」
「ほ、ほんとなの!?」
「うちの旦那も助けられたうちの一人だからね。いや、いい人だよあの人は」
話を聞いてみる限り、どうやらシリウスは各地で治療行為を行って日銭を稼いでいたようだ。
この世界の治癒術師は確かに怪我を治療できるが、それは即座にというわけでなく、じわじわと回復していく形である。
即座に回復できるわけではないので何度も治癒魔法を受ける必要があり、その結果多額の治療費を請求されることも少なくないのだとか。
対して、シリウスが使う治癒魔法は瞬時に治る。しかも、治療費もかなり安めに設定しており、且つ、その人物がお金に困っているなら治療費は気持ちだけ貰うという聖人のようなスタイルで治療を行っていたこともあり、一気に有名になったようだ。
さらに言うなら、最初に現れたのはこの町らしく、それ故この町にはシリウスに助けられた人が無数におり、今でもシリウスに感謝しているのだとか。
シリウスは【アコライト】であり、治癒に適したクラスである。
パーティ内でも回復役であり、さらにこの世界では破格の性能となれば、それで稼ぐのも納得だ。
ただ、根が優しいせいであんまり稼げていないようだったが。
でも、ちゃんとこの国にいたという証拠を掴むことができた。それだけでも、かなりの前進である。
「そ、それで、その人は今どこにいるの?」
「さあ、今はすっかり姿を見なくなってしまったね。国に目を付けられてしまって、可哀そうに」
「国に、なの?」
この国はどうやら実力至上主義らしい。
実力のある者は、たとえ人間でなくても要職に就くことができ、評価されるのだとか。
だからこそ、人を見た目で判断せず、内面を評価するようにしているらしい。
なるほど、獣人差別はなかったけど、この国もこの国で面倒くさそうな考え方をしているようだ。
それで、各地で人助けをしまくっていたシリウスの噂は当然ながら国にも知れ、そんな優秀な治癒術師がいるならと、宮廷治癒術師にならないかと勧誘を行ったらしい。
本来であれば、全くの無名の人物がいきなり宮廷治癒術師になれるなんてとんでもない名誉だが、なぜかシリウスはそれを断ってしまったそうだ。
それで諦めてくれたら幸せだったのだろうが、現在の国王は欲しい人材は何としてでも手に入れたい性分らしい。何度もしつこく勧誘を続けていったそうだ。
それはだんだんとエスカレートしていき、時には治療中に治療している人を押しのけてきたり、寝ているところを押し入ってきたりとかなり過激なものになって行ったらしい。
挙句の果てには指名手配をかけて、見つけて連れてきた者には賞金を出すと言って人相書きまで出回らせる始末。さらに、国から出られないようにすべての関所に人相書きを配り、見つけたら必ず連れてくるようにと命令を出したし、騎士団まで動員して国中探し回っているようだ。
おかげでシリウスは表立って治療行為を行うことができなくなり、さらに国から出ていくこともできずにこの国のどこかで隠れ潜んでいる、という話である。
うん、まあ、何というか、馬鹿でしょ。
「そんなことしたら捕まったとしても絶対に仕えてくれないの」
「まあねぇ。陛下も前はそんな強引な人じゃなかったんだけど、ここ最近になってそう言うことが増えてきたような気がするね」
「うーん?」
今の国王は、すでに数十年と国を統治している、結構な賢王として知られていたようだ。しかし、いつの日かだったかから強引な手段をとるようにもなったし、戦争に明け暮れたりしたりと、徐々に変わっていったらしい。
なーんかきな臭いけど、何かあったんだろうかね。
「でも、断るシリウスさんも不思議だわ。宮廷治癒術師なんて、またとない名誉なのに」
シリウスが宮廷治癒術師の道を断ったのは、恐らく俺や他の友達を探すためだろう。
俺がこうしてシリウスを探しているように、シリウスもまた俺を探しているのであれば一か所に留まることになる選択を断るのも納得できる。
まあ、あえて受けて、国の力で探してもらうというのも手だと思うけど、いずれは出ていくことを知られたら何されるかわかったもんじゃないよね。普通の国ならともかく、この国は実力至上主義らしいし、優秀な人材を手放すとは思えない。
もう少し秘密裏に日銭を稼ぐことができればよかったんだろうけど、恐らくシリウスも設定の影響を受けているのだと思う。
困っている人を放っておけない。そんな感情に振り回されて、と言ったところだろうか。
まあ、中の人も元から優しいから、それもあるかもしれないけどね。
国に目を付けられて、まるで犯罪者のように指名手配されているのは少し可哀そうではあるけど、逆に言えばこれはチャンスでもある。
だって、国の出口を封鎖されているということは、まだこの国いる可能性が高いということだ。
もちろん、何らかの方法を用いて脱出している可能性もなくはないけど、もしいるなら合流できるチャンスである。
「おばちゃん、色々教えてくれてありがとうなの」
「いやいや、いいんだよ。こちらこそ、暇つぶしに付き合ってくれてありがとね」
俺はお礼を言ってその場を去る。
さて、国中で指名手配されているとなると、普通に探しても見つかることはないだろう。
いるとしたら、森の中とか、洞窟の中とか、とにかく町の近くにはいないと思われる。
この国は一応他の種族もいるが、人間の国のようだし、ホビットであるシリウスはそれなりに目立つ。子供を装うというのも手だが、耳が少しとがっているので注視されたらすぐに気づかれてしまうだろう。
だが、治療で日銭を稼いでいたとなると、それも尽きている可能性がある。食料は一応持っているはずだけど、数ヶ月も経っているならそれもなくなっているか。
もしかしたら、早く見つけてあげないとまずいかもしれない。
俺はひとまず他にも情報を得ようと、いろんな人に話しかけることにした。
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