第六百話:疑似太陽
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「攻撃し続けるのも飽きてきたし、少しゲームをしない?」
度重なる火魔法によって疲弊してきたところに、ファーラーはそう声をかけてきた。
確かに、単調な戦いになっていたのは確かである。
ファーラー自身は、恐らく大量のスキルを持っているんだと思うんだけど、いくら大量のスキルを持っていても、使うのは使い慣れた一部のスキルだけになることが多い。
ここぞという時に決める超必殺技とかでもない限り、戦いが長引けば同じような展開になるのは必然だった。
こちらも、ちょくちょく攻撃の手を変えられてシールドの張り方を変えているくらいで、防御の仕方には芸がない。
攻撃の方は、様々な武器種に対応したこともあってそれなりに試しているけど、攻撃が通らない、そして、通っても即座に回復されるということもあって、ここしばらくは攻撃を控えていた。
だから、絵面としては、ファーラーがひたすら火魔法を繰り出して、俺がそれを防いでいる、というものが延々と流れている状態である。
もしこれがアニメとかなら、絵の使いまわしとか尺稼ぎとか叩かれていてもおかしくはないだろう。
俺は、今はただただ相手の情報を抜くことに注力していたから、それでもかまわないんだけど、ファーラーはちょっと飽きてきたようで、別のスパイスを加えたがっているということなんだろう。
「ゲームって、何するの?」
「そうねぇ、お互いに防御を縛るって言うのはどう?」
防御を縛る。それはつまり、俺が未だしているようなシールドを展開することもできないということである。
現状、相手の攻撃を避けきることはほぼ不可能に近いことを考えると、馬鹿らしい提案だった。
しかし、逆に言えば、相手のダメージ無効も解除してくれる可能性があるということでもある。
それがなくなれば、ある意味対等な勝負になるだろうし、案外悪い提案ではないのかもしれない。
だが、俺にそれを受ける選択肢はなかった。
「断るの」
「あら、怖いの? 防御なしじゃ勝てる気がしない?」
「防御なしを真面目に提案してるなら、『スターダストファンタジー』と言うゲームを知らなさすぎるの」
『スターダストファンタジー』においての防御は、防御力、そして、サポートで飛んでくる【プロテクション】とかのスキルになるんだろうが、もしそれらをなしで冒険を進めるなんてことをしたら、絶対に詰むだろう。
雑魚敵とかならともかく、ボスは基本的に相当な攻撃力を持っている。場合によっては、【プロテクション】などで軽減したとしても一撃死するような攻撃力を持っているのだ。
それを、【カバー】によって対象を減らしたり、【プロテクション】などによって被ダメを減らしたり、色々試行錯誤して、ようやく耐え抜いていくのである。
防御なし、つまり、防御力をゼロとして攻撃を食らっていたら、あっという間にHPが尽きるのが落ちである。
もし仮に、防御なしを前提に作られたボスがいたとしても、難易度はそこまで変わらない。むしろ、ダメージがしょぼくなって、あんまり面白くなくなる気がする。
仮にも『スターダストファンタジー』を遊んできた人が、そんな提案をするのは、エアプと言われてもおかしくない行為だ。
「いいじゃない。当たらなければどうと言うことはない、でしょう?」
「それはそうかもしれないけど、せめてやるなら対等の相手とやるべきなの。お前のはただ、圧倒的弱者をいたぶりたいがための提案なの」
防御がなくても、回復はありなのだから、食らっても回復していけばいいとも考えられるけど、それは攻撃を耐えられる高いHPがあってこそだ。
確かに、俺も相当レベル上げをしたおかげでHPはかなり高いけど、ファーラーはさらにその上を行くだろう。
HPが少なければ、その分回復を挟む回数が多くなり、手数が少なくなる。そんな状態で、ダメージレースに勝利するのは無理がある。
それに、今はイナバさんだっているのだ。
イナバさんは兎であるがゆえに、HPがそこまで高くない。今やってきている火魔法だって、一撃でも食らえば死ぬ可能性があるくらいだ。
そんな中で防御なし縛り? 馬鹿らしい。
「つれないわねぇ。あなただって、この戦いがだんだん単調になっているのには気が付いているでしょう?」
「戦いなんてそんなもんなの。実際に遊んだことがあるなら、同じスキルばっかり連打しているのに気が付くでしょ?」
「まあ、それは確かに」
バトル物のアニメとかなら、話ごとに新たな技が登場したり、革新的な戦略を思いついたりするのかもしれないけど、TRPGにおける戦闘なんて、同じことの繰り返しになることが多い。
敵を素早く倒すためには、限られたスキルの中で、最大のダメージを与える組み合わせを選ぶ必要がある。
例えば、俺なら【イーグルアイ】、【ストロングショット】、【アローレイン】みたいなテンプレがあるわけだ。
仮に、その他の攻撃スキルを覚えていたとしても、回数制限のあるスキルだったり、特定の場面でしか使えないスキルだったりと、常用するスキルとは別カテゴリーとして扱うことが多い。
だから、かっこよく止めを刺すとか、この場面では効果的な一撃だから、とかいう理由がない限り、テンプレを使い続けるのが普通なのである。
そもそも、ファーラーだってさっきからおんなじ攻撃しかしていない。面攻撃で、物理的に回避がほぼ不可能な攻撃と言う理由があるからこそ、これにこだわっているって感じだろう。
ファーラーが他に攻撃スキルを覚えていないわけがないし、結局のところ、いくらスキルを覚えていても、汎用性の高い便利なスキルに偏るのは仕方ないことなのである。
「縛りプレイは面白いと思うけど、リアルでやることではないのかしらね」
「当たり前なの。それができるのは、それこそ神くらいなの」
「まあ、私は神だしね。そういうことなら、また別の手段で彩を加えましょうか」
そう言って、ファーラーは杖を掲げる。
その瞬間、まばゆい光が発せられ、空中に巨大な光の玉が出現した。
とても熱い。まるで、太陽が目の前に顕現したかのような熱気を感じる。
本物の太陽ってわけではないと思うが、疑似的な太陽を作り出したってところだろうか。
【温度変化無効】のおかげで致命的な暑さにはならないけど、眩しすぎて目がちかちかしてくる。
「ブラックホールって知ってる? 一度入ってしまうと、光すら出てくることができない宇宙の穴」
「それがなんなの」
「ふふ、これもそんなブラックホールと似た性質を持っているの。簡単に言うと、すべてを吸い込むってところがね」
言われた瞬間、強烈な重力が体に襲い掛かった。
踏ん張っていても、じりじりと疑似太陽の方に吸い込まれていく。
「本物と違って入ったら出てこれないってわけではないけど、圧倒的な熱量で、すぐにでも体は蒸発してしまうでしょう。でも、あなたならそれくらいは対策してくるでしょう?」
「くっ、この……」
何かに掴まろうにも、周りに掴まれそうなものは何もない。
足を踏ん張ってはいるが、それでも耐えきれないほどの重力。
このままでは、本当に吸い込まれてしまうかもしれない。
「きゅぅ!」
「あ、イナバさん!」
必死に踏ん張っていたが、肩に乗っていたイナバさんが耐えきれずに飛ばされてしまった。
とっさに手を伸ばしても届く距離ではない。
あそこに入ってしまったら、イナバさんなら一瞬で体が消滅してしまうだろう。
【リザレクション】をしようにも、体がなければ魂の行き場がなくなってしまう。
ならば対策スキルを付与するかと思ったが、今からそんなスキルを作っている時間はない。
そうこうしているうちに、イナバさんの体は疑似太陽の中へと吸い込まれてしまった。




