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第五百九十七話:二柱の神様

 イナバさんの乱入によって、状況が良くなったかと言われたら、残念ながらそんなことはない。

 イナバさんができることは、【ダンサー】のスキルによる軽いバフをかけることくらいで、その対象は基本的に自分だけだからこちらに恩恵はないし、それで回避を上げたところで相手の攻撃を避けるのは相当難しい。

 体力も低く、俺と違って一撃でも当たれば死ぬかもしれないということを考えると、迂闊に前に出すこともできない。

 そう考えると、庇護対象が増えただけで、余計に戦いづらくなったとも言える。

 けれど、この暑さの中、一人では気が付かないうちに気を失っていてもおかしくない。それを、声をかけてもらって防げるというだけでも、十分ありがたい存在ではある。

 それに、一人で戦っていた時と違って、仲間がいるという安心感もある。

 だから、精神的なアドバンテージは取れたと言っていいだろう。


「まあ、とは言ってもきついことに変わりはないけど……」


 イナバさんの乱入によって一時崩れた均衡だったが、またすぐに戻ってしまった。

 ファーラーは相変わらず炎の柱の外からチクチク攻撃してくるし、熱さによって気を失いそうになるのも変わらない。

 この状況を打破するためには、フィールドを解除させるか、この場所から脱出する必要があるだろう。


「今なら、行けるの?」


 先程は、移動経路を先読みされて不意打ちを食らったが、今ならもうそのネタは割れている。

 天井をぶち壊す必要はあるけど、今なら不意打ちを食らうことはないし、もう一度同じ経路で脱出を試みても問題はないのではないだろうか。

 もちろん、不意打ちされないとは言っても、迎撃側が有利なことに変わりはない。どうにかしてファーラーの攻撃をかいくぐらないと、さっきと同じことになるかもしれない。


「何かいい手は……」


 天井を壊すこと自体は、そう難しいことではない。

 さっきは蹴り壊そうと思っていたけど、それを邪魔されるというのであれば、あらかじめ爆弾矢で破壊してしまえばいいだけの話だ。

 矢は残り少ないけど、一発くらいならまだいける。

 脱出経路さえ開けてしまえば、後は逃げることに集中することができる。

 もちろん、逃げるとは言っても、戦闘から逃げるわけではない。場所が悪いから変えたいというだけで、ファーラーを置いてどこかに逃げようとは思っていない。

 ファーラーの攻撃をかいくぐって、ここから脱出するいい手はないものだろうか。


「狙っていることはわかるけど、逃がす気はないわよ?」


「ちょっとは正々堂々戦おうって気はないの?」


「え? 普通に戦っても面白くないでしょう? 敵は蹂躙するか遊び道具にするもの。真っ当に戦って真っ当に勝つなんてナンセンスだわ」


「そんな考えだから出禁にされるの」


 確かに、TRPGの動画とかを漁ってみると、そういうぶっ飛んだロールプレイをする人はよく見かける。

 初めからキャラがとんでもない設定を持っていたり、一発でシナリオ崩壊しかねないアイテムを持ち込んだり。

 俺達の間でも、TRPGに触れ始めた頃は、そういう動画を参考にしていたから、突然扉の前で踊り始めるとかよくわからない行動をしたこともある。

 だけど、だんだんそれはおかしいということに気が付いて、真っ当にロールプレイをしようと言う方向に落ち着いたのだ。

 別に、突飛な行動をしてはいけないというわけではない。キャラによっては、そういう行動をすることもあるだろう。

 それに、身内でやる分には、刺激が欲しいという意味でも、いつもと違う行動をするのは間違っていない。

 でも、それを当たり前のようにして、ゲームマスターを困らせたり、他のプレイヤーを不快にさせるのは馬鹿のすることだ。

 いつまでもそれに気づかず、悪い意味で我を通している時点で、それこそナンセンスである。


「時代が追い付いていないってこういう感覚なんでしょうね」


「その時代が来ないとは言わないけど、時代の波に乗れないことを都合のいいように解釈するんじゃないの」


 と言うか、こいつがプレイヤーだとするならば、時代の粛正を引き起こしたのもファーラーという神様ではなく、このプレイヤーってことなんだろうか。

 いつから変わっていたのかはわからないけど、もし、時代の粛正を引き起こしたのがこいつだとするなら、とんでもない奴である。

 元々のファーラーも、同じような性格だったというのはありそうだけど、流石にただの興味本位で神様達が管理している世界を壊そうとは思わなかっただろうし、それを倫理が破綻しているこいつが来たことによって一線を越えてしまったということか。


「ん? となると、本物のファーラーはどこへ行ったの?」


 当初は、元々いた神様としてのファーラーに、プレイヤーであるこいつが憑依? のような形で来たのかなと思っていたけど、俺達の例を考えると、普通ならまた別のキャラとしてこの世界に来たはずである。

 そうなると、神様のファーラーと、プレイヤーのファーラーの二人が存在していると思うんだけど、だったら神様の方のファーラーはどこへ行ってしまったのか。

 それとも、同じ存在のキャラだったから、こちらの世界に来た時点で融合してしまったとか?

 俺とアリスのように、一つの体に二つの意識が混在している状況と言う可能性もあるかもしれない。

 この世界では、頻繁に異世界から人を呼び出していたようだし、同一人物が来るという可能性は考えていなかったのだろう。であるなら、融合したという可能性は高いかもしれない。

 もし、あいつの中に本物のファーラーの意識があるのだとしたら、今どんな気持ちなんだろうか。

 性格は似ていそうだけど、流石に怒っていたりするのかな?

 それを確かめる術はないわけだけど。


「まあ、それは後回しなの」


 元々、こいつが呼び出される原因となったのは、元のファーラーだと思う。

 ファーラーは異世界から人を呼び出す作業をしていたらしいし、たまたま運が悪かったと言えなくもないけど、それを止められなかったのだから。

 好き勝手されていることに同情はするけど、今はそれを考えている場合ではない。

 イナバさんも、気温に当てられて少しぐったりしてきている。早いところ脱出しなければ。


「【ストロングショット】」


 俺は矢をつがえ、天井に向かって爆弾矢を放つ。

 ただの石製の建物であるなら、これで容易に破壊できるはずだ。

 しかし、天井で派手に爆ぜた爆弾矢だったが、天井が壊れることはなかった。


「むっ、壊せない?」


「ふふ、この神殿は特別製なの。破壊はできないわ」


 まさか破壊不可オブジェクトだとは思わなかった。

 となると、最初に蹴り壊そうとしたのはマジで悪手だったな。

 天井が壊せない以上、脱出は難しい。

 後手段があるとすれば、水とか氷で溶岩を冷やすとかだろうか。

 水蒸気で大変なことになりそうだけど、このまま倒れるよりはましだろう。


「水よ」


 【水魔法】を使って、辺りに水を出現させる。

 レベルは有り余っているし、別にクラススキルから取っても構わなかったけど、汎用性と言う意味では、この世界のスキルも負けていない。

 【水魔法】を極めれば、それこそ水を手足のように操ることもできるようなので、ひとまず魔法系統は粗方スキルレベル10まで上げてある。

 水が溶岩に触れた瞬間、辺りにおびただしい量の水蒸気が発生する。視界が遮られ、辺りの様子が確認できなくなる。

 ファーラーが攻撃を仕掛けてくるとすれば、このタイミングは外せないだろう。水を撒くことくらいは予想できたことだろうし、なにかしら手は用意しているはず。

 俺は水蒸気が晴れるまで、【ライフサーチ】であたりを警戒しつつ、動き回ることにした。

 止まっているよりは、まだ狙いをつけづらいと思ったから。

 さて、この行動が吉と出るか凶と出るか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 視界が悪い中どうなるかねぇ
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