第五百九十五話:謎の弱体化
「まあいいわ。仲良くなれるかもと思ったけど、そういうなら仕方ない。その体、ありがたく使わせてもらうわ」
「誰が渡すか」
「ふふ、動けない状態で何を抵抗するのかしら?」
ファーラーの狙いは、俺の体を乗っ取ることだろう。
ファーラーからしたら、俺は粛正の魔王として、世界を滅ぼす手伝いをしてもらわなければ困る。
最初こそ、大量の魔王を投入して、俺を消して新たに作ろうと考えていたようだけど、こうして俺が操れる状態なのであれば、そちらを優先するはずである。
しかし、俺だってただで体をくれてやる気はない。
「さあ、大人しく……っと!?」
「ちっ、外したの」
俺が放った蹴りは、惜しくもファーラーの体を捉えることはなかった。
完全に不意打ちだったのに、運のいいことである。
それとも、自動回避みたいなものでもついているのか? いや、ダメージ無効があるのにそれはないか。
「どうして? なんで動けるの?」
「こっちだって、無駄に話を引き延ばしてたわけじゃないの」
俺は動けるようになった体で跳躍し、距離を取る。
【カゲヌイ】の効果だが、本来は拘束状態と言う状態異常を相手に付与するというものである。
そう、状態異常なのだ。故に、本来なら【状態異常無効】を持っている俺には効かないはずのスキルなのである。
それがこうして効いたってことは、恐らく無効貫通系のスキルを持っているってことなんだろう。
無効スキルを無効にされたらこちらとしてはどうしようもない。だが、そういうスキルなのであれば、こちらも耐性スキルを付与すればいいだけの話である。
【特殊耐性:拘束】。その名の通り、拘束状態に対して耐性を得るスキルである。
NPCスキルには、こう言った耐性系のスキルも多い。まあ、上位互換である【状態異常無効】があるから、あんまり使われることはないけれど、中ボスとか、一部の状態異常だけを無効にしたい敵を出す場合には割と重宝するスキルである。
相手が無効スキルを強引に貫通して状態異常を付与してくるなら、こちらもそれに対応する状態異常耐性を付与してしまえばいい。
単純な話だけど、こちらの能力がわかっていないなら、かなり有効な手段だろう。
「また対策って奴かしら? あなたも大概チートよね」
「お前にだけは言われたくないの」
「ふふ、私は神なんだから、当然でしょう?」
【カゲヌイ】がもう効かないことを察したのか、ファーラーは再び杖を振るい、火魔法による攻撃に切り替えた。
しかし、火魔法だけだったら、さっき作った【シールド展開】で防ぐことができる。
相手の攻撃はほぼ封殺したと言っていいだろう。
しかし、こちらも打つ手がない。ダメージ無効を貫通する術があっても、即座にHPを回復されたんじゃいつまで経っても倒すことはできない。
さっきの話しぶりからして、ファーラーは一応プレイヤーであるらしい。ゲームマスターでないなら、俺のようにレベルアップやらなんやらはできないはず。
それなのに、こうして互角、いや、それ以上に戦えているということは、元のレベルがめちゃくちゃ高いんだろう。
いったい何レベルなんだろうか。【アイデンティファイ】を仕掛けても、レベルが高すぎるのか、弾かれてしまって見ることができない。
『キャラシ閲覧』で見ようにも、ファーラーのキャラシ自体はあるものの、とても今のファーラーとは思えないほどのレベルである。
何かしら偽装をしているのは明らかだ。
「何か手は……ん?」
しばらく一進一退の攻防を繰り広げていると、不意にファーラーの体から、何か白い靄のようなものが立ち上ったのが見えた。
ファーラー自身は気づいていないのか、お構いなしに攻撃してくるけど、あれは一体何なんだろうか。
とっさに鑑定してみると、ファーラーの力の源と出た。
力の源? 確かに、ボスの中には、何かギミックなどを解除することで、徐々に弱体化していくって言うのは存在する。
このように目視で確認したのは初めてだけど、もしその類なのだとしたら、何かしらのギミックを解除したということになる。
しかし、俺は何もしていない。さっきから攻撃を防いでいるだけで、攻撃自体はほとんどしていなかった。
何かはわからないけど、もしあれが力の源だとするなら、破壊してしまえば力を削げるはず。
俺は少なくなってきた矢をつがえて、靄に打ち込む。
確実に破壊するために爆弾矢を使ったが、それは靄に当たった瞬間、盛大にはじけた。
「目くらましのつもり? そんな攻撃じゃ、私は止められないわ」
相変わらず、ファーラーは気づいていない様子。
きちんと破壊できたかはわからないが、もしできているなら何かしら力が削がれているはず。
俺は試しに、もう一本矢を用意して、ファーラーに向かって打ち込む。
あの時と同じで、対策込みでの高火力の一撃。
今まで通りなら、通ったとしても即座に回復されてしまっていたが……。
「無駄無駄」
確かに回復自体はしてしまった。しかし、先ほどまでは服まで完全再生していたにもかかわらず、今回は服は若干跡が残っている。
回復が弱まっているのを感じる。攻撃自体は避けるのが馬鹿らしくなるほど激しいが、これならまだチャンスはあるかもしれない。
「いったいなんでいきなりそんなことになったのかは知らないけど、ありがたく活用させてもらうの」
しかし、今の状態では、まだ弱い。
いくら回復力が落ちたとは言っても、流石に何度も攻撃を当ててダメージが蓄積して来たら、ファーラーだって異変に気付くはず。
そうなったら、連続で回復を使われるとかして容易に立て直されてしまうので、できることなら一撃で落とせるくらいの火力が欲しい。
一瞬、『スキル作成』で、馬鹿みたいに攻撃力の高いスキルを作ろうかなとも思ったけど、そういう、固定値が著しく高いだとか、ダイスの量がおかしいだとかいうスキルは作れないようになっているようだった。
補助系統のスキルだったら、割と自由度が高いのに、攻撃系のスキルが作れないのはやっぱりバランス調整の結果なんだろうか。
まあ、元々オリジナルスキルって言うのは、公式が決めたわけでもない、ただのハウスルールなわけだし、あんまり強すぎてシナリオ崩壊になるのはダメってことなんだろう。
もしかしたら、俺の深層心理がそれはよくないと思ってしまっているのかもしれない。
こいつ相手にそんなスポーツマンシップみたいなこと言ってる場合じゃない気もするけど。
「とにかく、もう少し様子を見てみるの」
原因不明の弱体化だが、これで終わりとは思えない。
もしかしたら、一定時間経過すると弱まるって可能性もあるし、もう少し様子を見て、それから考えてもいいだろう。
俺はその時が来るのを待つことにした。
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