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第五百九十三話:激しくなる攻撃

「さて、十分楽しんだし、そろそろ終わらせましょうか」


 そう言って、ファーラーは先程までとは比にならない量の火の玉を飛ばしてくる。

 いや、もはやそれは玉と呼べる形状ではなく、大きく口を開けた竜が如き迫力を放っていた。

 明らかに、さっきよりも火力が上がっている。

 一応、避けることはできる。ファーラーがファンブルさせる能力を使ってこないのか、それともクーリャの加護によって防げているのかはわからないけど、攻撃を避けてもファンブルしたことはない。

 ただ、いくらこちらの回避力が高くても、避けられない攻撃というものは存在する。それが、物量攻撃だ。


「いきなり、本気出しすぎなの……!」


 火の玉が数個程度だったら、正直目をつぶっていても避けられる自信がある。

 しかし、その数が視界を覆うほどの数だったとしたら?

 そもそも避けられるスペースが存在しないことになる。

 オールドさんと戦った時の【ワールドエンド】と一緒だ。システム的には回避できるけれど、見た目には回避できるスペースがないから回避できない。

 あの時は、クーリャがいてくれたから、強制的にクリティカルにすることによってどうにか避けていたけれど、今はクーリャもいないし、その手は使えない。

 つまり、いずれダメージを食らうのは必然だと言えた。


「ぐぅ!」


 火の竜の咢が俺の肩を捉える。

 熱い。熱すぎる。まるで溶鉱炉にでもぶち込まれたかのような灼熱の熱さが肩を伝って全身を駆け巡る。

 炎による攻撃だからか、傷跡自体はすぐに焼かれて出血自体はないが、じくじくとした痛みはいつまでも残り続けていた。

 HP自体は、そこまで削られていない。ただ、HPが残っていても、致命傷に近いことは確かで、弓を持つ手が震えてしまうのがわかった。

 このまま攻撃を受け続けるようなことがあれば、間違いなく戦闘不能に追い込まれる。

 ただHPをゼロにされるだけだったら、蘇生手段はいくつかあるが、ただの戦闘不能にされるのはやばい。

 最悪、保険で持ってきたスキルも使えないまま終わることになる。

 それだけは、何としても回避しなければならない。


「くっ、【ヒールライト】」


 攻撃を避けつつ、【ヒールライト】での回復を図る。

 レベルが上がりすぎたことによって、一回で全快することはなくなったが、それでも大回復はできる。

 これのいいところは、どんな傷でも瞬時に治してくれることだ。

 もし、この世界の【治癒魔法】の仕様だったら、俺はこのまま倒れていたことだろう。

 きちんと回復スキルを覚えていてよかった。


「よそ見は行けないわ」


 ファーラーは容赦なく攻撃を続けている。

 さっきまでの余裕の表情が見えなくなっただけ、あちらも本気を出してきたということだろう。

 その表情を歪ませてやったのはざまあ見ろと言いたいところだが、こうも攻撃が激しくなってしまっては今度はこちらがそう言うことになってしまう。

 事実、ファーラーは今は上機嫌そうだ。

 人々がどん底に落ちている様を見て喜ぶような奴なのだから、俺の苦痛に歪む表情を見るのは喜ばしいことなんだろう。

 癪だが、今はそれを指摘している暇はない。とにかく、攻撃のチャンスを作り出さなくては。


「【シールド展開】!」


 俺は、逃げている隙に新たなスキルを生み出す。

 相手の攻撃を通さない、絶対的な盾を出現させるスキル。

 ネーミングセンスはこの際どうでもいい。逃げながらスキルを作るのも大変なのだ。

 全方位から攻撃が来るのなら、どこかに安置を作ってしまえばいい。

 相変わらずコストは膨大だが、俺ならそれらを踏み倒すことができる。

 これがなかったら、本当にやばかったな。


「本当に、面白いことをするわね。見たこともないスキルの数々、ただ者ではないと思っていたけど、あなたは一体何者なの?」


「私はただのプレイヤーなの。お前達に異世界から連れてこられた、哀れな犠牲者なの」


「それはそうなんだけどね。何というか、こう、あなたは特別な感じがするの。粛正の魔王に選んだのも、それが理由だしね」


 この口ぶりを見るに、こいつもしかして俺がゲームマスターであることに気づいていない?

 そんなことあるだろうか。仮にも呼び出した張本人だろうに。

 いや、呼び出したのはディア様だっけ? ああ、でも、それは方便の可能性が高いから、結局ファーラーが呼び出したと考えていいのかな。

 まあ、それはいいとして、なんでこいつは呼び出した人のことを把握していないんだろうか。

 俺に目をつけたのは、ゲームマスターの力を持っているからじゃないのか?


「ねぇ、教えてくれない? あなたは何者なのか。もしかしたら、私達、仲良くなれるかもよ?」


「少なくとも、世界を滅ぼそうとしてる奴と仲良くはなりたくないの。大人しくくたばるの」


「もう、連れないわねぇ。世界が滅び、また再興していく瞬間を見届けるなんて、これ以上面白いこともないと思うけど」


 相変わらず、思考回路はバグっているようだ。

 間違っても、こいつと馬が合うなんてことはないだろう。他の神様が協力して作り上げてきた世界を、面白半分で壊そうとする奴となんか。


「まあ、いいでしょう。今はひとまず、大人しくしていなさい」


「誰が……!?」


 反論しようとしたが、その時にはすでに俺の体は動かなくなっていた。

 かろうじて動く目を動かして下を見ると、影に何かが刺さっている。

 恐らく、これが俺の動きを止めているのだろう。

 取り除きたいが、スキルを発動しようとしてもピクリとも動かなかった。


「久しぶりに使ってみたけど、案外うまく行くものね。動きを封じられた気分はどうかしら?」


「なに、を……」


「【カゲヌイ】、だったかしら? 昔はたまに使っていたけれど、今となっては全然使わなくなってしまったスキルの一つ。まさかここまでうまくはまるとは思わなかったけれど」


 【カゲヌイ】は、【ニンジャ】のスキルの一つで、相手の影にクナイを撃ちこんで、相手の動きを封じるスキルである。

 攻撃を受けたり、物理的に動かされたりするとすぐに効果は解除されるので、パーティプレイをしていれば特に脅威になることはないが、魔物相手ならそう言った知能もないのでうまくはまる、割と使いやすいスキルではある。

 もちろん、知能を持った魔物や、ボスなんかは耐性を持っていることもあるけど、基本的にはすぐに解けるので、そこまできつく縛られたりはしていない。

 まさか、ファーラーがそんなスキルを覚えているとは思わなかった。

 と言うか、なぜクラススキルを覚えている?

 この世界の人達は、基本的にクラスを持っておらず、スキル自体もこの世界特有のものばかりだった。そして、俺がレベルアップさせることによって覚えさせられるスキルも、NPCスキルや一般スキルだけで、一部例外を除けばクラススキルを覚えさせることはできなかった。

 それなのに、この世界の神様であるファーラーが、なぜそのスキルを使える?

 もちろん、神様だから何でもありだとか、昔から存在している神様ならクラスを持っていても不思議じゃないとか、考えられることはあるけど、その中でも【ニンジャ】のスキルを神様が覚えるかと言われたら微妙なところだ。

 となると、考えられる可能性は一つ。

 こいつ、プレイヤーだ。

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[一言] プレイヤーがどうやってファーラーを乗っ取ってるのか……
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