表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
637/677

第五百八十四話:事態が動く

 事態が動いたのは、その数日後だった。

 元々、兆候自体は出ていたのだが、ついにその一角が動き出したのだ。

 魔王が出現するまでまだ猶予はあったはずだけど、やはりファーラーが何か動いたのか、それとも、グレンの予想が初めから間違っていたのか、いずれにしても、多くの魔物が出現し、近くにある町を襲い始めたのである。

 一応、エルガリア大陸の人々には、スキル付与と同時に注意喚起もしておいたので、初動こそ遅れたけれど、すぐに兵士や冒険者などが対処に出ていた。

 ただ、流石魔王より生まれた魔物だけあって、普通の魔物より断然強い。

 いわゆる雑魚と呼ばれる部類の魔物でも、何かバフがかかっているのか、いつもよりも凶悪になっている。

 この世界の人々は、雑魚レベルなら問題なく倒せる実力はあるが、ちょっと強い程度のレベルになると、とたんに対処が怪しくなってくる。

 もちろん、中にはそれらにも簡単に対処する人もいるけど、ヘスティアのように、常日頃から訓練し、レベル上げに貪欲になっている国ならともかく、他の国では主要都市などを除くとそこまで強力な戦力は揃っていない。

 だから、初動でそれなりの人達を持っていかれてしまった。

 不意打ち気味に襲われた町もあったようだし、いくら経験値を多く獲得できても、相手を倒せなければ意味がない。

 こんなことなら、ますます強力な攻撃手段を持たせておけばと思うが、今更言っても仕方ない。

 グレンの知らせにより、いち早く気づいた俺達は、即座にプレイヤーを派遣し、魔物の対処をしてもらった。

 アウラム達に協力を取り付けていたこともあって、思ったより被害は広がらず、今では順調に押し返せているようだ。

 今のところ、動き出しているのはエルガリア大陸だけのようなので、まだなんとかなったが、別の大陸にも現れると考えると少し憂鬱だな。


『ついに対魔王防衛戦の始まりってところか?』


『思ったより早かったですが、こちらも準備はしてきました。後はそれがうまく機能するかどうかにかかっているでしょう』


『エルフ達も世界の危機だって言ったら加勢してくれたからね。何としても乗り越えなくちゃだよ』


 【テレパシー】でお互いに情報を交換しつつ、目の前の敵を排除する。

 ただ、あんまり手を出しすぎてもいけないというのが少し問題だ。

 と言うのも、俺の狙いは、人々が魔物を倒すことによって経験値を獲得し、それを使ってレベルアップを図ることである。

 つまり、俺がさっさと倒してしまって、他の人達に経験値が全く入らないなんてことになったら困るわけだ。

 もちろん、パーティ補正というものもあって、パーティを組んでいるとみなされた集団はそれぞれ経験値が分配されるようだけど、それもどういう仕組みかはよくわかっていないので、明確に人々が魔物に攻撃したら倒す、と言うのを徹底して、着実に経験値を稼ごうとしているわけだ。

 結局、いい感じにレベルアップさせる方法は思いつかなかったので、俺が現地に行って、それぞれレベルアップしていくしか方法がない。

 一応、何人かレベルアップさせれば、その人は確実な戦力となってくれるので、戦い自体は楽になっていくはずである。

 魔王本体が出てくるならともかく、魔王の配下くらいだったらそこまで脅威ではない。


「みんな、しばらくは奮戦してくれると嬉しいの。でも、無理だけはしないで」


『そっちこそ、あっちこっち回りすぎて倒れるなよ?』


『いざと言う時はすぐに飛んでいきますが、そう都合よく行ける状況ばかりじゃないですからね』


『アリスは無茶しすぎるところがあるから、ほんとに気を付けてね』


「みんな私のことを舐めすぎなの」


 まあ、確かに最近は無茶して倒れたこともあったから、あながち間違いではないんだけども。

 元々、この世界に未練なんてほとんどなかったはずなのに、今はなぜか世界を守るために戦っているというのが不思議だよな。

 それだけ、この世界にも愛着が生まれているのかもしれない。

 だからと言って、帰りたくないと言われたら嘘になるけど、せめて、この世界をしっかりと救って、気持ちよく帰りたいところだ。


「さて、次はあの人なの」


 みんなが奮戦している中、俺はちょいちょい後ろに下がってくる人達に対してレベルアップを試みている。

 本来なら、レベルアップするかどうかは相手の同意が必要になるが、次々と魔物が襲い来る状況下でみんな本能的にレベルアップを望んでいるのか、特に同意を求められることはなかった。

 まあ、だとしても、その人がどんな戦闘スタイルなのかはわからないし、どんなクラスを付与したらいいのか、どんなスキルを付与したらいいのかは迷うところである。

 無難なのは、体力に補正がかかる【ナイト】とかのタンク系だろう。

 『スターダストファンタジー』において、最も重要なのは攻撃力だが、それはきちんと守ってくれるタンクやヒーラーがいるからこそである。

 集団で戦うなら、それらをまんべんなく育成するのが一番いいんだろうけど、誰がどんな役割を持っているかわからない以上、下手にヒーラーとかに任命しても意味がない可能性が高い。

 そもそも、この世界の【治癒魔法】は即座に回復できるようなものじゃないから、ヒーラーが機能するはずもないしね。【無限の魔力】でごり押しするなら別だけど。

 だから、重要なのはHPである。攻撃されてもある程度は死なず、いざと言う時は逃げられるくらいの体力があれば、全体的な死亡率は下げられる。

 後は、基本的なスキルとして、【状態異常無効】や【HP自動回復】、【能力訓練:体力】とかで状態異常やHP対策を施してやれば、後はどれだけ痛みを我慢して戦えるかの問題だ。

 火力面に関しては、それらが揃ってから付与すればいいと思う。最悪、付与できなくても、プレイヤーやドラゴン達が補ってくれるし、問題はないだろう。


「嬢ちゃん、ここは危ない。早く家に帰った方がいいぞ?」


「あ、うん、気を付けるの」


 もうこう言った言葉も何回目だろうか。

 『レベルアップ処理』をするためには、ある程度近づく必要がある。

 いや、正確には名前を知っていればその必要はないかもしれないけど、流石に世界中の人々の名前をすべて把握しているわけがないので、最低限名前は聞いておかなければならない。

 で、そうなってくると、俺みたいな子供が、魔物が今でも暴れている町の外にいるのはおかしいということになって、こうして注意されるというわけだ。

 中には、親切にも一緒に町の中に連れて行ってくれたり、親を探してくれたり、家までついて行くと言ってくれたりする人もいたけど、これがまあ面倒くさい。

 いや、気持ちはわかるよ? 俺だって、危険な場所に子供がいたら心配になるだろうし、いくらクーリャがそばにいるとは言っても、女性であるのに変わりはないわけで、心配するのは当然と言える。

 だけど、そうやって時間を取られると、余計にレベルアップの時間が遅れるわけで、こんな調子で世界中を回ることなんてできるんだろうかと心配になってくる。

 【獲得経験値上昇】のおかげでサクサクレベルアップしてくれるのは助かるけど、ほんとに大丈夫だろうか。

 俺は心配してくれる人に対して笑顔を浮かべつつも、チリチリと焦りを感じていた。

 感想ありがとうございます。


 今回で第十九章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第二十章に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] その人が望んでる通りにスキル振りするスキルとかを作って広めないとだめかねぇ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ