第五百八十三話:救援
ひとまず、メインの大陸であるエルガリア大陸は、ほぼすべての人に対してスキルを付与し終わった。
他にも大陸はあるけれど、魔王出現の兆候がそこまで多くないことから、最低限の人員さえ投入できれば、そこまで苦戦はしなさそうである。
後は、上手い具合にスキルが機能し、皆のレベルを上げることができれば、地上の戦力は安泰だろう。
「まあ、問題はどうやってそんな大量にレベルアップするのか、って話だけど……」
当初は、俺が各地を回って、それぞれレベルアップをしていくつもりだった。
だが、比較的簡単な仕様にしたスキル付与でさえ、これだけの時間がかかっていることを考えると、一人一人レベルアップなんてしていたら、何日かかるかわかったもんじゃない。
同じように、『スキル作成』で、自動でレベルアップしてくれるスキルでも作ろうかとも思ったけど、レベルアップはあくまでゲームマスターの権限であって、スキルとは無関係である。
もちろん、レベルアップをシステムの一つとして数えるなら、スキルを強制的に付与するということができる以上、そのシステムを捻じ曲げて、自動レベルアップとかもできる可能性はある。
ただ、恐らくそれをやると、教会でレベルを上げるのと大差ない上がり方をする気がするんだよね。
と言うのも、本来レベルアップした時には、クラスチェンジする、あるいはスキルを二つ獲得するというステップと、ボーナスとして割り振られる能力値を分配するステップが存在する。
これを俺が指定しない場合、レベルアップする本人が選ぶことになると思うけど、ボーナスどころかクラスすら知らないこの世界の人達がそんなことを聞かれても、なんのこっちゃとなるのが落ちだろう。
そうなると、必然的にそれらを排除したもの、つまり、現在の教会で行っている、スキルの取得もなし、ボーナスもなしの、レベルによる最低限の能力値上昇しか見込めないレベルアップになってしまう。
そりゃ、レベル100とかになれば、それでも多少は戦えるかもしれないけど、1レベル上がるのに数千とか要求されることを考えると、とてもじゃないけどそんなに上がるまで待ってられない。
つまり、きちんと強くするためには、俺がちゃんとレベルアップを手伝って上げる必要があるわけだ。
移動に関しては、ポータルである程度カバーできるとはいえ、そんな状態で間に合うんだろうか?
「と言っても、今から修正は不可能だし、やるしかないけど」
こんなことなら、【獲得経験値上昇】ではなく、何かレベルに関係なく強力な一撃を放てるスキルでも付与すればよかっただろうか。それなら、レベルとか関係なく戦えたわけだし。
今からでもやるか? コストが重くなりそうだけど、【無限の魔力】も一緒に付与すればそこらへんは関係ないし。
〈ここにいたか〉
ふと、空が陰ったと同時に、威厳のある声が響いてきた。
見上げてみれば、そこには雄々しいドラゴンの姿。それも、ただのドラゴンではない、ネームドドラゴンであり、以前も戦ったことがある、アウラムの姿がそこにはあった。
「アウラム? ネームドドラゴンがこんなところでどうしたの?」
〈そう警戒するな。我はそなたの救援に来たのだ〉
「救援」
よく見てみれば、アウラムの背後には、他にも何匹かのドラゴンが飛んでいるのが確認できた。
しかも、他のネームドの姿もあるし、流石にこの数を一気に相手にしろと言われたら面倒くさい。
幸い、戦う意思はないようだけど、助けに来たってどういうことだろうか?
〈本来であれば、粛正の魔王となったそなたを倒すために団結していた。が、どうやらその背後には神が関わっている様子。しかも、その神は世界を滅ぼそうと画策していると聞いた。世界の守り手として、その蛮行はたとえ神であろうと見過ごすことはできぬ〉
「誰から聞いたか知らないけど、まあ大体合ってるの」
〈世界を守る鍵は、そなたが握っている。我らエンシェントドラゴン、世界の危機を救うため、そなたに協力しよう〉
「それは、ありがたいの」
確かに、基本的にネームドドラゴンは、神様に片足突っ込んでるような奴らばかりである。その存在は広く周知されていて、大抵の場合は、絶対に手を出してはいけないものとして危険視されている。
それはつまり、俺達の基準で見てもそれなりに強いということであり、戦力になりうるということだ。
元々、俺達は10人ちょっとで戦おうとしていた。
ヘスティアの町の防衛とかはまだしも、他の国の救援とかをするには、どうしてもプレイヤーの力が必要になるからだ。
だが、それだと数が足りないのは明らかである。最悪、いくつかの国は見捨てる心づもりでいた。
しかし、ドラゴンが力を貸してくれるなら話は別である。
これならば、より広い範囲を守れるかもしれない。
「このことは、エキドナは知っているの?」
〈承知している。エキドナ様も、我らドラゴンの意思を尊重してくれた〉
「そう、なら、遠慮なく力を借りるの。どれくらいの戦力があるの?」
〈エンシェントドラゴン8、エルダードラゴン43、下位ドラゴンや眷属らが300余り。そして、一部協力的な幻獣もいる〉
「案外いるの」
ネームドであるエンシェントドラゴンが8体もいるとか頼もしすぎるね。
まあ、一つ心配があるとしたら、ドラゴンは幻獣カテゴリーではあるけど、同時に魔物カテゴリーにも入る。そして、魔王は魔物を操る力を持っている。
それを考えると、ワンチャン操られて逆にピンチになるのではないかと言う可能性も考えられる。
ここは一つ、対策を施しておいた方がいいだろう。幸い、操り無効くらいなら簡単に付与できる。
「アウラム、あなたがリーダーでいいの?」
〈一応、今のところは我が指揮を執っている〉
「なら、魔王が出現するとされる場所の地図を送るの。ある程度はこちらでも対処するけど、苦戦していそうな場所があったら加勢してほしいの」
〈承知した。アリス、我を下した強き者よ、武運を祈る〉
そう言って、アウラム達は去っていった。
これで、ある程度の戦力確保はできただろうか。
一応周知はするけど、流石に世界中の人達に周知するのは無理なので、どこかしらではドラゴンに対して攻撃してしまう人もいるかもしれないけど、そこらへんはどうにか説得してもらうしかないね。
それを差し引いたとしても、ドラゴンは強力な戦力だ。それに、一部の幻獣まで力を貸してくれているというのは相当ありがたいことである。
ドラゴンはともかく、他の幻獣はよくエキドナが許したものだ。確か、あんまり戦ってほしくはないみたいなことを言っていた気がするんだけど。
「後二週間ちょっと。それでどれだけ準備できるか……」
グレンの予想を信じるなら、猶予は恐らくそれくらいになるだろう。
もちろん、ファーラーが何か手を打ってくるならもっと早まる可能性はあるけど、今はそれを目安に準備していくしかない。
俺はドラゴンが飛び去って行った方角を見ながら、ひとまず体を動かさなければとその場を後にした。
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