第五百八十二話:最高神の権限
ファーラーの状況については、なんとなく把握した。
ワンチャン、ファーラーはその邪悪な何かに従っているだけで、悪気はないのかもしれない。
まあ、やってることがことだから、あんまり同情はできないけど。
「スターダスト様、これからどうしましょう?」
「私達もファーラーを止めるために協力する、と言いたいところだけど、私はかなり力が弱まってしまっているし、他の神もこの通り魂だけの状態ではほとんど何もできないわ。下手に動いて、再び封印されたり、人質にされるようなことがあれば、その方が厄介でしょうし、残念だけど戦力としては力になれそうにないわね」
「そうですか……」
まあ、それはその通りだ。
仮にも最高神だから、元の力はそれなりに高いだろうけど、信仰の力が薄い今の状態では、ファーラーに打ち勝つのは難しい。
他の神様達も、転生しない限りは碌に権能も使えないようだし、ほぼ非戦闘員と言っていいだろう。
助けたことに後悔はないけど、どうやって守ろうかと考えるとちょっと難しいな。
「ですが、最高神として、最低限の協力はできるでしょう。神界の権限は、未だに私にあるわ。アリスに、その権限を一時的に渡そうと思うの」
「神界の権限?」
「簡単に言えば、神界に滞在できる権限ね。本来、神以外が滞在することは許されない神界だけど、その権限があれば、あなたは神として扱われる。つまり、神界に堂々と入れるわ」
「それは……」
それだけだったら、すでにクーリャから許可を貰ってるんだけどな……。
そもそも、他のみんなはともかく、俺は粛正の魔王としての側面があるから、半分神様みたいなものだし、許可がなくても入ることはできる。
そう考えると、今更いらないって言うか……、いや、言わないけどね?
「それと、神界に滞在する者を選別することができるわ。あなたが認めさえすれば、誰であっても神界に連れていくことができる。逆に、追い出すことも可能ね」
「じゃあ、ファーラーを追い出したりは?」
「それはできないわ。あくまで、神以外の者に対する効力だから、神そのものを神界から追い出すことはできないの」
「う、うーん……」
なんか、すっごい微妙な気がする。
いや、あって困るものではないし、最高神の権限と言うことは、これは覆されることがないということでもある。
懸念していた、クーリャから得ていた許可を、ファーラーによって消されるという心配がなくなっただけでもありがたいかもしれない。
せっかく協力してくれるのだから、ありがたく使わせてもらおう。
「あ、ありがとなの」
「こんなことしかできないけど、どうか、この世界をお願いね」
スターダスト様に悪気は一切ないだろう。むしろ、本当にこれくらいしかできることがないからこそ、できることを精一杯やっているのだと思う。
そう考えると、微妙とか思うのは失礼だな。反省しよう。
「さて、問題はこれからどうするかだけど……」
「ここにいたか」
「ひゃっ!?」
突如、背後から声をかけられて、思わず飛び上がってしまった。
慌てて振り返ってみると、そこにはグレンの姿がある。
「お、驚かせるんじゃないの!」
「それは失敬。緊急事態だと思ったものでね」
「緊急事態?」
確かに、グレンは神出鬼没で、滅多に俺達の前には現れない。
そんなグレンがここに来たということは、何かあったということだ。
いったい何があったんだろうか?
「神気を感じたんでな。この様子を見るに、ここにいるのは神ばかりだろう? それも、ファーラーによって封印されていた」
「どうしてわかるの?」
「勘と経験だな。それより、こんな場所でいつまでもたむろしていたら、すぐに捕捉される。早いところ隠れた方がいい」
「隠れるって……どこに」
まあ、ファーラーが封印が解かれたことを察知しているなら、すぐにでも飛んできそうではあるけど、隠れられる場所なんてあるんだろうか。
一人や二人ならともかく、こんな大勢の神様が一堂に会していたら、どこに隠れていようが見つかってしまうだろう。
だったら、別れて隠れるかと言われると、魂だけの状態の神様がもし見つかりでもしたら、抵抗もできないだろうし、それはあんまりしたくない。
ちょうどいい隠れ場所でもあればいいんだけど、そんなものないだろうしなぁ。
「霊峰ミストルの大穴に来い。そこなら多少はカムフラージュできる」
「あそこって、そんなに迷彩度高いの?」
「そもそも、あそこは神に見つからないように作った隠れ家だ。そこに神を入れるのは問題だが、今はそうも言ってられない。私達の敵はファーラーだ。そこをはき違えてはいけない」
「まあ、事情はわかったの」
このままここにいたら、ファーラーが何をしでかすかわからない。
だったら、非戦闘員である神様達はできるだけ安全な場所に隠れた方がいいだろう。
俺はちらりとスターダスト様の方を見る。すると、グレンの方を見て、二コリを微笑んだ。
「あの時はお世話になりました。いや、あなたに言っても意味はないかしら?」
「どちらにしても礼はいらん。駆け引きをしている場合じゃないんだ、さっさと移動してもらおう」
「まあまあ。そういうことなら、従いましょうか」
なにやら意味深な会話をした後、スターダスト様は移動を開始した。
もしかしてだけど、スターダスト様ってグレンについて知ってたりする?
俺も詳しいことは知らないんだけど、確か暴走していたオールドさんをグレンが止めたとかなんとか言っていたような。
その時に何かしら関係があったのかもしれないな。
「グレン、オールドさんは今はどうしてるの?」
「慎重にスターコア集めの最中だな。もうあんなへまはしないから安心してほしい」
「それはほんとにそうして欲しいの」
流石に、いくら弱体化しているとはいっても、粛正の魔王と戦いたいとは思わない。
まあ、ファーラーはそれ以上の化け物の可能性もあるというのが怖いところだけど、そこは気合で何とかするしかない。
ポータルでスターダスト様達を送り届け、再び城に戻ってくる。
隠れ場所に関しては、多分大丈夫だとは思う。
オールドさんだって、世間から隠れるという意味もあっただろうけど、同じように神様から見つからないようにと言う対策であそこにいたわけだし、そう簡単には見つからないはずである。
これなら、仮にファーラーが今すぐ攻めてきたとしても、スターダスト様達を守りながら戦うと言うことはない。
まあ、今のところそんな兆候はないわけだけど。
「案外、気づかれてないかもしれないの?」
封印を破ったら、絶対気づくと思ったんだけど、すでにあれから数時間経つのに、城は平和なものである。
魔王の投入に忙しくて気づいていないのか、それとも単純にあんな所に来れるわけがないと高をくくっているのか、いずれにしても、気づいていないのならありがたいことである。
後は、まだ行っていない場所に行ってスキルを付与する作業を進めて行けば、ひとまずの準備は整うことだろう。
俺は【テレパシー】でみんなの動向を把握しつつ、世界を回ることにした。
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