第五百八十一話:なぜ封印されたのか
ひとまず、封印を解いたことによってファーラーに気づかれた可能性もあったので、俺達はすぐさまその場を後にすることにした。
スターダスト様以外の神様は、皆肉体が死亡していたけれど、封印を解除したことによって、転生が可能になったらしい。
しかし、転生するには、一度神界に戻る必要があるため、迂闊に転生しようものなら、目の前でファーラーが待ち構えている、なんてことにもなりかねない。
なので、ひとまず魂だけの状態で脱出し、肉体は捨て置くことになった。
魂さえ無事なら、肉体がどうなろうと関係はないらしいので、これで再び封印されてしまうというリスクはなくなったに等しい。
もちろん、神様の気配を察知してファーラーが殴り込みをかけてくる可能性はなくはないけど、しばらくは時間が稼げるだろう。
「まずは感謝を。ありがとう、クーリャ、そしてアリス。あなた達のおかげで、私達は救われました」
安全な場所、と言っても城だけど、そこに戻って、ひとまず話を聞くことにする。
スターダスト様が頭を下げると、周りにいる他の神様の魂も、頭を下げるような仕草をしていたので、感謝はしてくれているんだろう。
なんか、すっごい胃が痛くなってきている気がするけど、ここでトイレに行っている場合ではないので、気合で誤魔化す。
「クーリャ、現在の状況は?」
「はい。それが……」
スターダスト様に聞かれて、クーリャが現状を説明する。
現状、ファーラーの次の手は、魔王を使って世界を滅ぼすことである。
すでに、各地で魔王出現の兆候が見られているため、少なくとも魔王が現れること自体は間違いないだろう。
その過程で、あわよくば俺を殺しに来る可能性もあるけど、いずれにしても、しばらくは地上でみんなのレベル上げを手伝わなければならないし、クーリャがいればファーラーのファンブルさせる能力はそこまで怖くないので、そこまで問題じゃない。
問題なのは、やはり手が届かない場所だろう。
多くはこの大陸に出現するとわかっているが、他の大陸とか、何なら行ったことのない場所に沸かれたら、手の出しようがない。
頭を使えば、俺に構わずとも世界を滅ぼすこと自体は可能なわけだし、途中で進路変更して遠ざかられても困る。
俺達はともかく、この世界の人々を助けられるかと言うのが一番の問題だ。
「なるほど。ファーラーにも困ったものね」
若干眉をひそめながら、話を聞くスターダスト様。
この後の予定としては、なるべく地上の戦力で迎撃をし、経験値を稼いでもらう。そして、貯めた経験値でレベルアップしてもらい、戦力アップし、その戦力で魔王を抑えるという形だ。
神界に行くメンバーは、最小限にする必要があるだろう。いくら地上の戦力のレベルを上げられたとしても、流石に魔王を相手にするのは難しいだろうし、プレイヤーの協力が必要不可欠となる。
ワンチャン、俺一人で向かうことも考慮しなくてはいけないかもしれない。
「スターダスト様、ファーラーは、そんなに強い神様なんですか?」
とはいえ、案外早く世界中に周知はできそうだし、対抗すること自体は何とかなるだろう。
それよりも、俺は気になっていることをスターダスト様に聞くことにした。
クーリャの話によると、ファーラーはそこまで古い神様ではないらしい。信仰によって力をつける神様は、信仰された時間が長ければ長いほど力を増していく。
だから、古くから信仰されてきた神様は力があるってことだ。
それを考えると、最高神として君臨していたであろうスターダスト様や、他の古い神様を差し置いて、なぜファーラーがそれらを封印することができたのか。それが疑問だった。
「そもそも、私達神が争うことは基本的にないわ。世界を回すために、それぞれに役割はあるけれど、よほど酷い嫌がらせをされたりでもしない限りは、戦うことはない。だから、強いか弱いかと言うのはよくわからないわ」
「でも、スターダスト様は、ファーラーによって封印されたんでしょう? それは強いと言えるのでは?」
「そういう意味の強さなら、ファーラーは決して強いとは言えないわ。私と比べるなら、私の方が強いと言えると思う」
「なら、なぜ封印されたんですか?」
「それはね、あるイレギュラーがあったからなの」
そう言って、スターダスト様は少し真剣な顔をして話し出す。
元々、この世界には、異世界から召喚された者というものが昔から存在していた。
それは、この世界に新たな技術をもたらしたり、あるいは刺激を求めてのことだったりと、色々な理由はあったけれど、定期的に、神々の手によって異世界の魂が迷い込むことがあった。
しかし、ある時、異変が起きた。
それは、ファーラーが、随分とやんちゃを始めたということだった。
元々、ファーラーはいたずら好きな性格だったということもあり、それがエスカレートした結果だろうとほとんどの神様は考えていたが、一部の神様は、何か違和感を感じていたらしい。
だんだんと、やんちゃのハードルが上がっていき、それはだんだん他の神々も無視できない過激なものに変わっていった。
何度も何度も、注意はしていたが、ファーラーはその態度を改めることはなく、どんどん突き進んでいった。
そして、時代の粛正が起きた三千年前。ついに、人々の願いを無視して粛正の魔王を誕生させるという暴挙に出た。
当然ながら、そんなことは許される行為ではない。すぐに取り消そうとした神々だったが、ファーラーの手引きによって、粛正の魔王であるオールドさんが神界で暴れた結果、ほとんどの神様が死亡する羽目になった。
そして、ファーラーは神々が復活できないように封印を施し、自分が唯一神として神界に君臨したというわけだ。
「本来なら、どこかのタイミングで止められていた。それこそ、粛正の魔王が出現しても、世界に被害を出す前に止められるはずだった」
「でも、できなかった?」
「そう。あの時のファーラーは、私の知るファーラーではなかった。明らかに、別の力が混ざっていたように思うわ。そうでなければ、私を含めたほとんどの神を封印しておくなんてできないでしょうしね」
「やっぱり、その時に何かがあったってことなの……」
神としてのファーラーの力は、弱いわけでもないが、突出して強いわけでもなかった。それを、オールドさんの力を借りたとはいえ、唯一神に君臨するほどに暴れられたのには、何かわけがある。
スターダスト様が言うには、何か別の力が混ざっていたらしいけど、その力は一体何なのだろうか。
「何か心当たりはないの?」
「いいえ。ただ、当時ファーラーの様子が変わった直前は、ファーラーが異世界の魂を呼び寄せる役割を担っていたわ。もしかしたら、そこで何か良くないものを呼び寄せてしまったのかも」
「なるほど……」
つまり、異世界の力によって暴走してしまった、と言う可能性もあるわけか。
しかし、仮にもそんな業務を行っていたなら、神様だって何かしらの対策を取っているはずである。
それこそ、そう言った悪いものを呼び寄せる可能性だってあったわけだし、何かしらの対処はしたはずだ。
それがこうなってしまっているということは、ファーラーが対処を誤ってしまい、その力に触れたファーラーが暴れまわった、ってことなんだろうか。
だとしたら、安全管理も何もあったもんじゃないけど。
とにかく、ファーラーの後ろには、何か邪悪な存在がいるかもしれないということはわかった。
そこらへんも含めて対処しないとだね。
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