第五百八十話:封印を解いて
それぞれに施されている封印に関してだけど、見てもよくわからなかった。
恐らく、封印を施しているのはファーラーだし、クーリャなら解けるかなとも思ったけど、クーリャ自身が無理だと言っているし、相当強力な封印なんだろう。
下手にいじくりまわしてファーラーに感づかれても困るし、あんまり派手な動きができないのも痛い。
さて、どうしたものか。
「あ、スターダスト様!」
「え?」
しばらく辺りを見回していると、クーリャが奥にある死体の一つに駆け寄っていった。
俺もつられて近寄ってみると、そこにあったのは、比較的綺麗な死体だった。
いや、外傷もないし、もしかしたらこの人は封印されているだけで、死んではいないのかもしれない。
封印が解けないと目覚めなさそうではあるが。
「クーリャ、この方がスターダスト様なの?」
「はい。間違いありません」
スターダスト様と言えば、『スターダストファンタジー』の名前にもなっているように、この世界の創造神であり、最高神である。
確かに、ファーラーの一神教になっている以上は、スターダスト様が退いたということだし、こうして封印されているのは納得である。
まあ、最高神であるスターダスト様が、なぜファーラーに負けたのかと言う疑問はあるけど、それに関しては未だにわかっていない。
今の世界ならともかく、時代の粛正が起きた当時に、ファーラーがスターダスト様より強かったなんてことありえるんだろうか。
「アリス、どうにかして助けられませんか?」
「うーん、そう言われても……」
一応、新しくスキルを作れば、もしかしたら封印を解除することはできるかもしれない。
神様がいつまでも封印されている状況は俺にとっても不都合なものだし、できるんだったら解除したいけど、問題はファーラーの動向である。
この場所は、明らかにファーラーが人目に触れないように隠された場所だ。俺達がここに来ることすら想定していないだろう。
しかし、かといって封印を解くようなことがあれば、間違いなく気づくはずである。
それでファーラーがここに飛んでくるというのもまずいし、何らかの方法で魔王の出現を早められたりしても困る。今は準備を整えるので精一杯であり、下手に刺激してファーラーに読めない行動をさせたくないというのが本音だ。
もちろん、最終的には助けたい。けど、それは今じゃない。
もし仮に、神様達が即戦力として力を貸してくれるというなら助ける意味もないわけではないけど、恐らくすぐに戦える状態ではないだろう。
信仰の力がそのまま力になるのなら、長い間ファーラーの一神教だったこの世界においては、他の神様達はそこまでの力を持たないはず。
下手をしたら、そのままもう一度倒されて、封印し直されてしまう可能性だってあるわけだ。
だったら、ファーラーを倒した後、あるいは、戦っている最中で、手が出せないタイミングで助けるのがベストではないだろうか?
「……確かに、危険はあります。封印が解かれれば、姉もここに私達がいることを察知してしまうでしょう。しかし、それを承知で、どうかお願いできませんか?」
「クーリャ……」
まあ、確かに普通に考えて、知り合いがこんなところに閉じ込められているのを目の当たりにしたら、助けたいと思うのは当然のことである。
戦力的に役に立ちそうにないからとか、敵を刺激する可能性があるだとか、そんなことは関係ない。ただ、目の前にいる同胞を放って、ここから逃げ出すことを良しとしたくないんだろう。
俺だって、カイン達がこうして封印されていたら、迷わずに助け出そうとするはずだ。
確かに、リスクはある。最悪、決戦が早まってしまうかもしれない。けれど、それを承知で助けたいというクーリャの願いを、無碍にするのはどうにも難しかった。
「……とりあえず、やってみるの。できるかわからないから、できなかったらごめんなの」
「はい、ありがとうございます」
一応、助けるメリットが全くないわけではない。
神様は、信仰の力がそのまま強さに変わるようなことを言っているが、それはあくまで元の力にプラスして、と言う形である。
つまり、全く信仰がない状態でも、素の力は残されているはずだ。
それぞれの神様が持つ権能は普通に使えるはずだし、中には役に立つ能力もあるかもしれない。
後で助けたいと思っているとはいえ、ここで見捨てるのも確かに後味が悪いし、もし仮に俺達が負けるようなことがあれば、神様達はずっと封印されたままになってしまうだろう。
だったら、ワンチャン助かる可能性に賭けて、ここで助けるのも悪くはないと思う。
「と言っても、封印の解除ねぇ……」
封印と言っても、色々と種類がある。
何か仕掛けを発動させたり、特定の敵を倒すことによって解除できるものや、そもそも解除の方法がないものなど、イベント的なことを考えれば無数にあるだろう。
もし仮に、これが解除方法のないイベント封印だとしたら、いくらスキルを作ったとしても無駄に終わる可能性もある。
ファーラーの目的を考えれば、その可能性も十分にあるだろう。
……いやでも、スキルを強制的に付与するとか、離れ業もやってくれる『スキル作成』なのだし、案外イベント封印でも行けるのでは?
とりあえず、あらゆる封印を解除する、と言うストレートな効果で実践してみる。
「おっと……」
スキルを発動させながら、青いバリアに触れると、バキッと音がしてバリアに罅が入る。そして、罅は瞬く間に広がっていき、やがて粉々に砕け散った。
ちょっと派手にやりすぎただろうか。
「ああ、スターダスト様!」
封印が解けた影響か、中に入っていたスターダスト様は、ゆっくりを目を覚ます。
状況が呑み込めないのか、しばらく辺りを見回した後、クーリャの姿を見つけて、微笑みを浮かべた。
「クーリャ、無事だったのね」
「はい。助けに来るのが遅れて申し訳ありません」
「何を言ってるの。むしろ早い方だわ。でもまさか、人の子に助けられるとは思っていなかったけど」
そう言って、スターダスト様は俺の方を見る。
虹色にきらめく瞳には、一体何が見えているのだろうか。
俺はすべてを見透かされるような視線に晒され、自然と背筋が伸びていった。
「す、スターダスト様がご無事で何よりなの」
「ふふ、こちらこそ、助けてくれてありがとう」
そう言いながら、スターダスト様は立ち上がる。
辺りを見回し、他の神様達が囚われているのを見て、若干顔をしかめた後、軽く手を上げ、すぐにおろした。
「やっぱり、力は弱くなっているわね。信仰が途切れたせいかしら」
「スターダスト様、あまりご無理は……」
「これくらいは大丈夫よ。でも、あまりここに長居してもいられない。ねぇ、そこの獣人さん、もしよければ、皆も開放してくれないかしら?」
「は、はい……」
スターダスト様に言われるがままに、俺は他の神様達の封印も解除していく。
なんだろう。スターダスト様の言葉には、あんまり逆らいたいと思わない。
見た目には、ただの麗しい女性なのだけど、威厳と言うか、声の力と言うか、何かはよくわからないけど、従いたくなるような雰囲気を感じる。
幻獣にされた時にエキドナに感じていた感情に近いだろうか。
あれよりはもうちょっとストレートだけど、スターダスト様を敵に回すのは絶対にしたくないなと思った。
感想ありがとうございます。




