第五百七十九話:沼地の秘密
次の日。俺はポータルを使って、再びあの沼地へと訪れていた。
昨日、ベッドの中であれこれ考えていたけど、いい考えは浮かばなかった。
とりあえず、考えつく限りのことはやってみるけど、それでうまく行ってくれないだろうか。
「うーん……」
そう思って、灯篭に色々してみたけど、成果はなし。
最悪、灯篭を壊して、とかそういうものかとも思ったけど、かなり頑丈に作られているらしく、壊すことはできなかった。
多分、あれは破壊不能オブジェクトだと思う。そうなると、壊すのは正解じゃない。
ならば、沼地なのだし、沼の中に何かあるんじゃないかと、透視で沼の中を覗いてみたりもしたが、それらしいものは何もなかった。
流石に、ノーヒントで解くのは無理だろうか?
これがゲームだったら、どこかしらにヒントが隠されていると思うけど、これは現実だし、そういうことはない気がする。
自分で覚えているから、あえてメモに書いてないのか、それともこうして時間を使わせるための罠なのか、考え方は色々あるけど、もしそうだとしたら面倒なことになる。
「ほんとにメモに何か書いてないんですか?」
「うーん、ないと思うけど……」
そう思い、俺は再びメモを見てみる。
メモに関してだけど、きちんと書かれた通りに書き写してある。
もしかしたら、並びが重要だったりするかもしれないからね。
だから、書き写したせいでそれらがわからなくなっているってことはないと思うんだけど、見てもさっぱりである。
一応、わずかな傷とか、そういうものも含めるのだったら、もしかしたら書き写しミスしてる可能性もなくはないけど、それがヒントになっていたりするだろうか?
もう一度見に行ってもいいけど、多分関係ない気がするんだよなぁ。
「灯篭の場所から何かわかったりは?」
「一応、それもメモしたけど、特に規則性はなさそうなの」
まあ、やたら多いなぁという印象はあったけど、規則性もなく、ばらばらに置かれているようにしか見えない。
一応、全部に火をつけるって言うのはやったけど、全部つけた瞬間消えたから、間違えてるんだと思う。
一体どういうこっちゃ。
「ふーむ……」
ここに来るまでのメモと、灯篭の場所を示したメモを見比べながら、思案する。
しばらく考えていると、あることに気が付いた。
「なんか、これだけ浮いてるの」
この沼地、沼地とは思えないほどに灯篭がたくさんあるが、その中でも中央にある一つだけは、他の灯篭と比べて距離があり、浮いている印象を受ける。
たまたまかもしれないけど、もうそういうちょっとした違和感を手繰っていかないと辿り着けなさそうだし、ここから何か法則性を考えてみるか。
考えられる可能性としては、やはり順番があるってところだろう。
順番通りに灯篭に火をつければ、何かが起こるみたいな、そんな感じだと思う。
そう考えると、この浮いている灯篭は、最初、あるいは最後の地点じゃないだろうか?
特に目印がない以上は、そう考えなければどこから始めたらいいかわからないわけだし。
半分願望も混ざっているけど、そうだと仮定して進めてみよう。
「これが目印だとして、どの順番でつけていくか」
中央にある灯篭から見ると、周りには東西南北様々な場所に灯篭がある。
方角が関係している? あるいは時計とか?
方角で考えるなら、確かメモに方角が書かれていたよね。
「この通りに進んで、そこにある灯篭に火をつけるとか」
この沼地に辿り着くまでに、やたらと面倒くさい手順を踏んだ説明。
もし、これがただの嫌がらせとか、防犯の目的ではなく、この場所のヒントだとするなら、この方角には意味があるかもしれない。
もちろん、このメモに書かれている通りの距離を進んだ場合、明らかに沼地を出てしまう距離だから、その通りの距離ってわけではなさそうだけど、だったら縮尺を変えるとかすれば行けるかもしれない。
「ふむふむ……行けそうなの?」
何度か縮尺を変えて試していくと、ぴったりとはまる距離を発見した。
それを頼りに進んでいくと、それぞれの場所にきちんと灯篭があったので、恐らくこの通りに火をつけて行けば、何かが起こるんじゃないだろうか。
俺は早速そのルートを試してみる。次々に火をつけていき、最後の灯篭に火をつけると、その瞬間灯篭の火が青色から赤色へと変化した。
それと同時に、ゴゴゴと大きな音が聞こえてくる。何事かと思っていると、次第に霧が晴れていき、目の前には巨大な神殿のような建物が出現していた。
「ようやく正解に辿り着いたみたいなの」
「流石ですね、アリス。私は全然わかりませんでしたよ」
恐らくこれが隠したかったものだろう。
神殿と言うことは、やっぱり神様関連の何かなんだろうか?
とにかく、入って見ればわかるだろう。俺はクーリャに確認を取った後、神殿の中に踏み込んでいった。
「これは……」
そこは、不可思議な空間だった。
石造りの柱に囲まれた荘厳な空間。しかし、そこにあったのは、青色のバリアによって囲われている、大量の死体だった。
それぞれ一人ごとに個別にバリアに覆われているし、血が流れたりもしていないので、一見してそれが死体であることはわからなかったが、その身に刻まれた痛々しい傷跡や、生気のない顔を見て、この人達は死んでいるんだとすぐにわかった。
それが、等間隔に並べられている。ここは神殿だと思っていたが、カタコンベだったんだろうか。
「これは、みんな神ですね」
「神? この人達神様なの?」
「そのようです。皆さん見覚えがあります」
ただの死体が保存されているだけでも狂気なのに、まさか神様だとは思わなかった。
と言うことはあれか、この神様達は、以前オールドさんに殺された神様ってことなのかな?
確か、ファーラーはそうやって神様を殺させた後、復活できないように封印したという話だったはず。となると、ここは封印の場所だったということなのかもしれない。
これは、思った以上に重要なものを発見してしまったかもしれないな。
「この封印、解けるの?」
「うーん、ちょっと難しそうですね。あの時のようにはいかないみたいです」
クーリャは適当なバリアに触れていたが、解除はできない様子だった。
封印したのがファーラーであるなら、封印のやり方は同じような気がするけど、流石にここは重要だからより厳しいセキュリティにしたってところだろうか。
だったらメモなんて残すなと言いたいところだが、確かにあそこが見つかることはほぼないだろうし、万が一のために残しておくことは間違っちゃいないか。
神様がそんな大事なことを忘れるのかと言われたらちょっとおかしい気もするけど。
「さて、これはどうしたものか……」
恐らく、これをやったのはファーラーで間違いない。つまり、ファーラーにとっては、この場所は絶対に知られてはいけない場所だったはずである。
ファーラーを出し抜けたのはいいとして、問題はこの神様達をどうするかだよな。
封印されている影響で復活できないのであれば、封印さえ解いてしまえば復活してくれそうではあるけど、流石にそこまでやったらファーラーに感づかれる可能性がある。
それで復活して戦力を得られるならともかく、そうでないならリスクが大きすぎる。
ただでさえ、信仰の力がそのまま力になるのに、今まで封印されてきた神様達がいきなり万全の状態で戦えるとも思えないし、余計に怒らせるだけの結果になる可能性が高い。
まあ、そもそも封印を解く方法がないわけだけど。
とにかく、この場所に関しては、慎重に扱う必要があるだろう。
俺はこの場所をどうしようかと、思案した。
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