第六十話:王様の快復と情報
エリクサーの効き目は抜群だった。
元々、飲めばHP、MPを全回復した上、状態異常などもすべて回復する最上級のポーションなのだから当たり前と言えば当たり前だが、【キュア・ポイズン】で治せない特殊な毒と言うことを鑑みると、もしかしたら治せないんじゃないかという不安もあった。
一応、【プリースト】のスキルで【リザレクション】という、死んだ者を蘇生させるスキルがあるので、最悪それでどうにかしようと思っていたのだが、無事に効いてくれたようで何よりだ。
だが、やはり一年も床に伏せっていた影響で筋力の衰えはどうしようもなく、まだ立ち上がるのは難しそうだった。
それでも、王様は今までの事を覚えているようで、宰相が毒を食わせていることも気づいていたようだ。しかし、抵抗しようにも体が動かず、声もうまく出せず、されるがままに毒を食らわされ続けていたということらしい。
回復した王様の姿に、フローラ様は泣きながら抱き付き、エミリオ様も涙していたが、俺がいる手前弱い姿は見れられなかったのか、必死に堪えている様子だった。
まあ、王子だもんね。下手に隙を晒せないって言うのは大変だ。
「アリス・エールライト。我が病の回復に一役買ってくれたこと、誠に大義であった」
それから数週間後、俺は今謁見の間にて王様と相対している。その傍らにはエミリオ様とフローラ様の姿もあり、病み上がりの王様を気遣っているようだ。
この数週間、宰相やそれに加担した騎士達には調査が入った。時には拷問にもかけられ、王様の暗殺に関与していた人物を洗い出し、それらを捕まえていたらしい。
王宮関係者のみならず、地方で権力を持っていた一部の上級貴族や、大商会の会頭などまで関係していらしく、かなり根の深い問題だったようだ。
宰相の作戦としては、王様を殺害後エミリオ様を王座に就かせ、それを裏から操ることによって国を乗っ取るつもりだったらしい。協力していた上級貴族は娘をエミリオ様とくっつけて後に王族の末席に加わろうとしていたり、領地や支援金の増額などを約束してもらっていたらしい。商会の方も似たような理由で、王家との優先的な取引を持ち掛ける代わりに毒を始めとした暗殺の道具を手配していたのだとか。
てっきり宰相が一人先走ったのかと思っていたんだけど、まさかそんなに多くの人が関係しているとはね。びっくりだ。
「この功績を称え、そなたには褒美を取らせたい。何か希望はあるか?」
「それなら、一つ調べて欲しいことがあります……なの」
「ふむ、申してみよ」
王様の手前、敬語を心がけてみたがやっぱり駄目だったようだ。
なのってなんだよ。たまたまそういう語尾になってしまうことはあるかもしれないけど、終始それが語尾っておかしいだろ!
ただ、俺の口調については王様もエミリオ様から事前に知らされていたようで、特に突っ込まれることはなかったのが幸いか。
俺は少しドキドキしながら要求を言う。
「私はある人物を探しています、なの。ですので、その人物について何か情報があれば教えて欲しいのです……なの」
「そんなことでよいのか? 金でも地位でも、なんならエミリオの婚約者として王宮に迎えてもよいのだぞ?」
「ち、父上!?」
「そ、それは遠慮するの!」
誰が婚約者だ、俺は男じゃい! ……まあ、今は女の子だけどさ。
と言うか王様、獣人嫌いじゃなかったの? いくら俺が命の恩人とはいえ、大事な跡取り息子とくっつけようとするって態度が軟化しすぎでは?
エミリオ様も顔を赤くしてまんざらでもなさそうなのがちょっと怖い。え? 俺に気があるの? 確かにアリスは可愛いけど、あんたが毛嫌いしていた獣人だよ?
王様を助けたことによるつり橋効果的なものだろうか。だとしたら今すぐにでも立ち去りたいのだけど。
「そうか。では、その探している人物と言うのは?」
「一人はカイン・ホーネットと言う人間の男です……なの」
カインは夏樹のキャラの名前だ。
設定としてはパーティのリーダーであり、前に出て敵の攻撃を受け止めながら戦うタンク的な役割。キャラの年齢はパーティの中で断トツで高かったな。それでも24歳だが。
「聞いたことのない名だな。その男は何者なのだ?」
「一応、冒険者なの。元々別の地域で活動をしていたのですが、ここに来る際にはぐれてしまったの……」
間違いではないはず。『キャラクターシート閲覧』で彼らの情報が見れるということは、俺と同じようにこの世界に来ている可能性は高い。
そして、彼らはシナリオにおいて同じパーティを組み、冒険をしていた仲間だ。活動していたのはこことは似ているようで違う世界のため別の地域で活動していたと言えるし、はぐれてしまったのも嘘じゃない。
俺が妙な経緯でこの世界に来たことを隠蔽するならこれくらいが無難だろう。
「なるほど、パーティメンバーと言うわけか。して、他にも仲間がいるのか?」
「はいなの。他には二人、一人はシリウス・ヴァレンタインと言うホビット、もう一人はサクラと言うエルフなの」
「皆違う種族なのか。珍しいな」
まあ、せっかくやるんだからみんな被らないようにしたいじゃん? 分けた方がバランスもいいしね。
ちなみに、シリウスは冬真の、サクラは春斗のキャラだ。
そういえば、サクラって設定的には女じゃなかったっけ? それだと俺を同じように性別変わっちゃってるのか。
春斗は確かに元々小動物的と言うか、可愛らしい一面があったが、女になったらショックだろうなぁ。それでも、俺の強制なの口調よりはましだと思うけど。
「ふむ、私はこれまで床に伏せっていたからな、すまないが聞き覚えがない」
「そうなの……」
まあ、そりゃそうだ。俺と同じタイミングでこの世界に来たのだとしたら、来たのは大体……四か月くらい前か? 一年もの間床に伏せっていた王様が知っているわけない。
だが、仮にも王様なのだから、諜報部員的なものを持っているだろう。それらに頼んで調べてもらえばいずれは見つかるんじゃないだろうか。
そういう意味では、諦めるのはまだ早い。
「エミリオ、聞き覚えはあるか?」
「はい、カインとサクラと言う名前に聞き覚えはありませんが、シリウスと言う男には聞き覚えがあります」
「ほんとなの!?」
まさかのエミリオ様には聞き覚えがあるという。
え、これ凄い奇跡じゃない? 本当に彼らがこの世界に来ているというのも驚きだが、まさかエミリオ様が知っているとは思わなかった。
「ど、どこで聞いたの!?」
「陛下の病を治療できる治癒術師を探している時に、ヘスティア王国に腕のいい治癒術師がいるという話を聞いたのだ。ただ、各地を転々としているようで捕まらず、結局呼ぶことはなかったが」
「おおー!」
ヘスティア王国、と言うのがどこにあるかは知らないが、治癒術師として活躍しているってことは間違いなく冬真だろう。
冬真のキャラであるシリウスは【アコライト】だからな。スキルの効果が俺と同じく即座に傷を回復させる効果を持つとしたら、腕のいい治癒術師と言われるものわかる。この世界の治癒魔法はじわじわと少しずつ治していくのが普通みたいだからな。
各地を転々としているのは、向こうも俺達を探しているってことだろうか。とにかく、早く行って会わなければならない。
「エミリオ様、ありがとうなの! 早速会いに行ってみるの!」
「も、もう行ってしまうのか? エリクサーを作れるだけの技術があるなら宮廷治癒術師として雇用してもいいんだぞ?」
「私は元々流れ者なの。それに、早く仲間に会いたいの」
向こうからしたら俺の技術は喉から手が出るほど欲しいだろうが、だからと言って立ち止まっているわけにはいかない。
本当はもう少し滞在する予定だったけど、友達の情報があるなら行かないわけにはいないのだ。
俺はまだレベルが高かったけど、向こうはまだレベル5だ。いくら冒険者としてのレベル5がこの世界ではなかなか強いとは言っても、無双できるほど強いわけではない。特に、シリウスは回復役だけあって攻撃スキルを持っていないから自力では戦えない。
きっと不安がっていることだろう。俺が行って助けてあげなければいけないのだ。
「そうか……だが、困ったことがあればいつでも寄ってくれ。力になる」
「ありがとうなの!」
さて、そうと決まれば早速準備をするとしよう。
少し心配だからエリクサーを少し置いていくとして、後はエクスポーションも少し置いていった方がいいかな? エリクサーほどではないとしても、HPを全回復してくれる最上級ポーションだ、腐ることはないだろう。
廊下を壊した詫びと言う意味もあるが、ここで誠意を見せておけば後で他の二人の情報も調べてくれるかもしれないしな。
宿へと戻りながら、今後の予定を組み立てていく。さて、無事に会えるといいけどな。
感想ありがとうございます。
これにて第二章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第三章に続きます。




