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第五百七十六話:奇妙な夢

 夢の中で、俺は色のない空間に立っていた。

 草木も、空も、何もかもが真っ白で、現実味がない。

 ちょうど、以前まで捕らわれていた、あの異空間のようだった。

 また捕まってしまったのかとも思ったけど、俺はこれを夢だと自覚することができていた。

 恐らく、あの時の記憶が残滓となって夢に現れているのだろう。この夢に、特に意味はないと思われる。

 ただ、意味のない夢と片付けるには少し不可解なこともあった。

 と言うのも、そこには見知らぬ人物が歩いていたから。

 いや、正確にはどこかで見たことがある。どこで見たかは覚えていないけど。

 その人物は、何というか、とても薄い。影が薄いとかじゃなくて、存在が薄い。

 まるで幽霊のような存在であり、掴みどころがない。

 いったい、なぜこんな人物が現れるのだろうか。この夢は、一体何なのだろうか。


「……」


 その人物は、とある一点を指さしている。

 その場所は、ちょうど俺が新たな力を授かった場所。そう、あの地下に続く階段の場所だった。

 俺がそれを確認した直後、その人物は光となって消えて行ってしまう。そして、そこで夢は途切れた。


「んっ……」


 重い体を起こして、目を覚ます。

 何か、奇妙な夢を見た気がする。確か、あの異空間で、誰かが何かを示していたようだった。

 普段は、夢なんてほとんど見ない。もしかしたら見ているのかもしれないが、起きたら大抵の場合は忘れてしまっている。

 しかし、今日の夢は、嫌に頭の中に残っていた。


「お、目が覚めたか。おはようさん」


「おはようございます、アリスさん」


「体は大丈夫?」


「みんな、どうしてここにいるの?」


 周囲に目を向けると、そこにはクーリャの他に、シリウス、カイン、サクラの姿があった。

 みんな、ポータルを使えるから戻ってきていても不思議はないけど、今は各地を回っている最中じゃなかっただろうか?


「アリスが倒れたって聞いたから、心配で戻ってきたんだよ」


「かなり無茶をしていたようですけど、大丈夫ですか?」


「んー、まあ、だいぶ疲れは抜けたの」


 正直言うと、まだ少しだるい感覚はあるが、まあこのくらいなら特に支障はない。

 しかし、やっぱり倒れてしまったことは心配をかけてしまったか。

 一応、倒れたとは言っても、きちんと自力でベッドに潜りこんだわけだし、そこまで心配されるようなことでもないと思うけど、無茶したのは事実だし、ここは素直に謝っておこうか。


「心配かけてごめんなの」


「気にすんな。それだけ無茶をしなければならない理由もあるし、俺達だって最初はペース配分を間違えて寝不足になったしな」


 そう言って笑うシリウス。

 どうにも、時間に追われるということに慣れていないせいで、どうしても逸る気持ちが強くなってしまう。

 きちんと期限が決まっていれば、まだ計画を立てられるんだけどね。そういうわけでもないのが辛いところだ。


「今は、どういう状況なの?」


「とりあえず、お前が寝てから三日が経ってる。状況的には、この大陸はほぼ完了って感じだな」


「え、三日も経ってるの?」


 ちょっと寝るだけのつもりだったのに、まさかそんなに経っているとは思わなかった。

 そりゃ確かに、かなり疲れていたし、半日くらいは寝てしまうかもしれないとは覚悟していたけど、まさかの三日である。

 危機意識が足りないんじゃないか?


「そんだけ疲れてたってことだろうよ。あんまり無茶すると、いざと言う時に動けないぜ?」


「ご、ごめんなの」


 なんだか納得いかないけど、まあ実際経ってしまったのなら仕方ない。

 みんなの様子から、恐らくまだ魔王は出てきていないようだし、最悪のタイミングで寝ていたなんてことにならなくて何よりである。


「で、さっきも言ったが、他の奴らの協力もあって、この大陸はほぼスキルの付与が終わった。今は、ノクトとイグルンが中心になって、魔王の警告をしてもらってる」


「随分早いの」


「そりゃ、アリス一人で大陸の三分の一カバーしてるんだから、早いだろうよ」


 まあ、そう言われたら確かに?

 元々、俺一人だけでなく、他のみんなにも協力してもらっていたのだ。

 特に、ポータル近くに関してはみんなに任せて、俺は遠くの国に積極的に行っていたし、行きにくい場所はほぼカバーしていたから、皆の負担はそこまで大きくなかったのかもしれない。

 まあ、それでも大陸の三分の二は広すぎると思うが。


「後は、他の大陸にも手を伸ばし始めてる。流石に、行ったことない大陸は無理だが」


「まあ、それは仕方ないの」


 まあ、行ったことない大陸と言っても、『スターダストファンタジー』に登場する大陸はそこまで多くはないが。

 流石に、大陸を移動するのは時間がかかるし、行ったことのない大陸にこれから行くのは厳しいかもしれない。

 そこにも魔王が現れたら……諦めるしかないかな。


「現状はそんな感じだ。何か質問はあるか?」


「魔王の兆候はわかるの?」


「それに関しては、グレンが知らせに来た。恐らく、持って後三週間くらいだろうって話だ」


「三週間……」


 魔王の出現には兆候がある。いくらネームドと言えど、いや、魔王だからこそ、いきなりポンと現れるわけではない。

 だが、思ったよりも時間があるなと言う印象だ。

 すでに一か月以上は経過しているはずだし、てっきり今すぐにでも現れてもおかしくないと思ったんだけど。


「やはりというか、主に出現するのはこの大陸みたいだな。他の大陸にもちらほら兆候は見られるが、この大陸程じゃない」


「やっぱり、私を狙ってるの?」


「その可能性は高いでしょうね。姉にとって、アリスは邪魔な存在でしょうし」


 クーリャが同意を示す。

 オールドさんとも話したが、一応全く知らない場所に現れる可能性もなくはなかった。世界をほどほどに破壊するだけだったら、俺に構う必要はないのだから。

 しかし、あくまで俺を排除する方向なのに変わりはないらしい。

 それはそれで守りやすくてありがたいけど、逆に言えば、より戦力が必要になったとも言える。

 うまい具合に、【獲得経験値上昇】が機能してくれるといいんだけど。


「とにかく、後三週間で、できる限りスキルを広め、できれば魔王が現れることを警告する。それで動いてくれれば儲けもんだし、動かなくても、実害が出始めたら動くだろ」


「警告に従わないなら実際に見てもらうしかないからね」


 こういう時こそ、神託が役に立つ時ではあるが、クーリャは今のところ神界に戻れない。

 次に神界に行くのは、ファーラーを倒すべく、戦力を集中させた時である。

 だから、神託は使えない。自力で発信していくしかないのが辛いところだね。


「ま、大体そんな感じだ。アリスも元気になったみたいだし、俺達も手伝ってくるよ」


「アリスさん、まだ疲れているようなら、しっかり休んでくださいね。しばらくは、私達だけで何とか出来ますから」


「私達に任せておいて」


「ありがとうなの。でも、大丈夫なの」


 みんなが働くのに、俺だけ動かないわけにもいかない。

 あ、でも、一つ気になることがある。それは、さっき見た夢の話だ。

 ありふれた夢とも違う、よくわからない夢。もし、あの夢に意味があるのだとしたら、あの異空間には、まだ見つけていない何かがあるのかもしれない。

 それを確かめに行くくらいはした方がいいだろうな。

 そう思い、まずはクーリャにそのことを話すことにした。

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