第五百七十一話:死神騙し
攻撃を続けていくと、嫌でも解除トリガーに引っかかることになる。
本来なら、どんどんと解除していかないといけないものだから、解除できるのはありがたいことなんだけど、何事にもタイミングというものはある。
今、射撃攻撃のトリガーに届いたのか、三度目の【ワールドエンド】が飛んできた。
正直、このスキルに関しては、避けるのを諦めている。だって、どう考えても避ける場所が見つからないんだもの。
多分だけど、別次元に入り込むとかしないと回避不可能なんじゃないだろうか?
それを可能にしてくれるクリティカルの恩恵はどんな理屈なんだと言いたくなるけど、まあクリティカルなんだしそれくらいはあってもおかしくはないだろう。
これで後二回。スキルを受けるのと、受けて解除した後に飛んでくる【ワールドエンド】さえ超えれば、試練達成である。
ただ、ここまでの戦いで、クリティカルを消費しすぎたらしい。恐れていた事態が起きてしまった。
「この戦闘ではもう強制クリティカルは使えません。申し訳ないですが」
「きっついの……」
まあ、そりゃあんだけクリティカルを連発していたら、回数も尽きるだろう。むしろ、ここまで持ったことが奇跡である。
こうなってくると、大技を受けた後、解除時に飛んでくる【ワールドエンド】を回避クリティカルで避けることはできなくなった。つまり、二連続で大技を耐えなければならないというわけである。
もちろん、素の回避が成功する可能性もなくはないけど……まあ、無理だろうな。
せめて、【ハイプロテクション】でどこまで軽減できるかと言ったところだけど、その程度じゃ【ワールドエンド】は受けきれない。
受けるのなら、それに加えて何かしらのスキルが必要となる。
「ぼーっとするな、来るぞ」
「まだ考えてるのに……」
そう言っているうちに、【ワールドエンド】が飛んでくる。
これに関しては、一応何とか出来るスキルはある。ただ、本当に発動してくれるかわからないからちょっと心配だけど、やるしかない。
「【ワールドエンド】」
「くっ、【デスサイズコン】!」
俺はスキルを発動し、闇色の爆発に飲まれる。
攻撃らしい攻撃を受けたのはこれが初めてだっただろうか。思ったよりも、痛みはない。
いや、これはこのスキルが特別なだけだろう。
一応、爆発属性ではあるが、その性質は融解である。すべてを溶かし、染め上げ、一つにする。
そこに痛みを伴う必要はなく、ただただ万物と融合するのみ。それが【ワールドエンド】である。
痛くないのはよかったけど、ふと視線を動かしてみれば、体はとんでもないことになっていることに気づく。
なにせ、手先や足先から、文字通り消滅していっているのだから。
あと数瞬もすれば、このまま俺は闇に溶け、周りの夜空と一体化することになるだろう。
しかし、実際にはそうはならない。
「……はっ」
闇色に染め上げられて行っていたはずの俺の体は、いつの間にか元に戻っていた。
どうやら、上手くスキルが発動してくれたらしい。
と言うのも、食らう直前に発動していたスキル【デスサイズコン】は、いわゆる食いしばりスキルである。
死した魂を回収しに来た死神を騙し、命を繋ぐスキル。効果は、HPがゼロになった時、その時に食らったダメージの分だけ回復するというものだ。
基本的には、HPがゼロになった以上は死亡扱いではあるが、その段階ではまだスキルの処理の途中であり、その後すぐにHPが1以上に回復するので、死亡した扱いにはならない。
この辺は、ちゃんとルールを理解していないと難しいところだけど、簡単に言えば、最後に食らった攻撃をなかったことにするスキルである。
これのいいところは、きちんとダメージを食らっているから、解除トリガーをきちんと達成できるということ。
ただ耐えるだけだったら、他にもいくつか候補はあるが、ダメージの完全無効化とかをしてしまうと、そもそも受けていない判定になってしまう。
逆に言えば、1ダメージでも受ければ受けた判定になるので、受けてからその分を丸々回復するこのスキルは適役と言えるのだ。
「っと、そんなこと考えてる場合じゃないの」
きちんと受けきったため、解除トリガーが達成され、再び【ワールドエンド】が飛んでくる。
しかし、今回はまだ楽な方だった。
なにせ、これで試練はすべて達成である。ダメージ軽減不可も解除されているので、後は耐えればいいだけだ。
なので、ここはダメージを極限まで軽減するスキルで対抗することにする。
「【インヴァルネラブル】」
このスキルは、いわゆる無敵スキルである。
シナリオ中に一回しか使えないが、相手の攻撃を無効化し、ダメージをゼロにする効果がある。
ダメージ軽減系のスキルのため、このバフを解除できていないと使えなかったが、逆に言えば、ここで使うべきスキルであることに違いはないだろう。
まあ、できることなら使わずに、ファーラーのために残しておきたい気がしないでもないけど、最悪俺だけだったら新しく同じようなスキルを作ればいいし、いいかなって思った。
スキルを発動した瞬間、俺の周りに光のバリアが発生し、闇色の爆発を弾いていく。
いくら世界を滅亡させるような一撃だとしても、システムの壁は超えられないようだ。いや、なんだかミシミシ音がしているからぎりぎりなのかもしれないけど。
やがて攻撃が終わり、光のバリアも消える。
目の前には、心底楽しそうなオールドさんの笑みがあった。
「素晴らしい。よくぞ試練を耐えきった。褒美として、回復してあげよう」
「あ、うん、ありがとなの」
演出なのか、それともノリなのか、オールドさんは俺達にバフをかけてくれる。
試練達成のご褒美だ。後は、この先の剣モードを何とか出来ればクリアのはずである。
「いやぁ、楽しいねぇ。俺とここまで対等に戦える奴なんて、グレンくらいしかいなかったからさ」
「グレンはどれだけ化け物なの」
確か、粛正の魔王として暴走していたオールドさんを、グレンさんが止めたんだっけ?
一人でやったのか、複数でやったのかはよくわからないけど、どっちにしても、暴走状態の粛正の魔王を止められるってだけで相当凄いことだ。
見る限り、グレンはおかしなスキルを大量に所持しているようだけど、だとしてもデバフはほとんど通らないだろうし、どうやって止めたのかはちょっと気になる。
「……ふぅ、ちょっと落ち着いた。ここまでで大丈夫だよ」
「あれ、最後までやらなくていいの?」
「やってもいいけど、それで君のスキルを使いつくしても困るしね。ちゃんと理性を取り戻せるくらいには発散できたから、ここまででいいよ」
そう言って、オールドさんは殺気を収めた。
なんだか、ちょっと拍子抜けだけど、確かにこれ以上戦って、シナリオ一回のスキルを大量に使わされても困る。
結局、それらのスキルがこの世界でどういう扱いになっているのかはよくわかっていないし、いくら新しくスキルを作れるとは言っても、むやみに使っていいものでもないだろう。
それに、もう精神的に疲れた。
痛みはなかったけど、自分の体が溶けていく感覚なんてもう二度と味わいたくない。ここで終わってくれるなら、俺としても嬉しい。
俺はしばらく警戒したけど、周囲の景色が戻り始めたことをきっかけに、もう完全に戦闘は終わったんだと理解した。
俺はようやく、安堵の息を吐くことができた。
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