第五百七十話:破滅の一撃
それは宇宙の始まりが如くだった。
星空のようなきらきらとした光を放つ闇がギュッと凝縮されたかと思うと、この空間一面に爆発音とともに広がっていく。
闇に飲み込まれた場所はそのまま闇に溶け、天井や足場でさえも、その対象となり、逃げ場なんて一つもなかった。
粛正の魔王が持つ大技の一つ【ワールドエンド】。
その名の通り、世界に終焉をもたらす闇色の爆発によって、辺り一帯を闇に返す久遠の一撃。
一応、システム的には避けられるはずなのだけど、どう考えても避ける隙間があるようには思えない。
ただ、俺はクーリャの能力によってクリティカルしたこともあり、なぜだか無傷でその場に立っていた。
辺りは一面の闇である。今まで洞窟の中にいたと思うのだが、今はまるで夜空に浮かんでいるかのようだ。
足場もない状態で、浮遊スキルもないのに、どうやって浮かんでいるのかはよくわからないけど、まあ、多分クーリャが何かしてくれたんだろう。
これが後最低でも4回飛んでくるってまじ? 普通に世界が終わる気がするんだけど。
「ふふ、ふふふ、いや、楽しいねぇ」
「いや、全然楽しくないの」
「そうかい? 君だって、割と楽しそうにしていたと思うんだけど?」
「それは……まあ……」
確かに、戦闘自体は楽しくないわけじゃない。
最初こそ、元粛正の魔王に挑まなくてはならないというプレッシャーから尻込みしていたけれど、戦っているうちに、あ、この人なら何やっても大丈夫だと気づいて、色々とスキルを試せたのは面白かった。
覚えただけで全く使っていなかったスキルもあるし、使ったら仮に【手加減】があっても間違って殺してしまいそうなスキルを試せたのは素直に楽しいと言えた。
でも、それとこれとは話が別である。
こんな、文字通り世界を破滅させるようなスキルを連発されたんじゃ堪ったものではない。
これ、本当に大丈夫? 洞窟の外大変なことになってない?
「安心してほしい。この洞窟は、特殊な場所だから、戦闘が終わったら元通りになるよ。外の世界にも影響はないから」
「それならいいんだけど……」
「ほら、まだ試練は残ってるよ? もっと楽しもうよ」
そう言って、本来なら洞窟が消し飛びそうな威力の爆発魔法を放ってくる。
挨拶でやっていい規模じゃないけど、まあ確かに挨拶の時間は過ぎたし、いいのかな。
俺も、だんだん相手の攻撃の癖が読めてきたおかげか、回避するのが簡単になってきている。
範囲攻撃をどうやって回避するんだって話だけど、探せば案外隙間はあるものだ。
流石に、【ワールドエンド】の隙間は初見で見つけることはできなかったけど、クリティカルで避けられる以上、どこかに隙間はあるんだろう。
次までに、どうにか考察していかないといけないね。
「アリス、大丈夫ですか?」
「まあ、まだ何とかなるの。クーリャは大丈夫なの?」
「これでも神ですからね。耐えるだけなら簡単ですよ」
クーリャも俺の巻き添えで結構食らっているはずだけど、確かにまだまだ余裕そうだ。
即座に回復しているのもあると思うけど、自分にもクリティカルする能力を使っているのかもしれない。
そろそろ回数を使いつくす気がしないでもないけど、せめて大技を受けきるまでは持ってほしいな。
「とりあえず、次が来る前に他のバフも剥がしておくの」
幸い、すでに攻撃自体は何回も行っている。攻撃回数とダメージに関してはそろそろ達成できるだろう。
問題は、そこから先だ。
試練を突破した後は、褒美としてこちらに色々とバフが貰える。
HP全回復にスキルの使用回数の復活、戦闘時限定の永続の攻撃力アップバフなど、ここから畳みかけろと言ったラインナップである。
実際に戦ったことがないから詳しいことはよくわからないけど、データだけ見ると、試練を乗り越えた後は行動ルーチンが変化し、剣を持ち出してくる。
最初が魔法主体だったのに対し、近接も絡めてくるってことだね。
で、この剣を使ったスキルの中に、面倒なスキルがいくつかあって、個人的に面倒だと思うのが、裂傷状態と言う状態異常を付与してくるスキルである。
裂傷状態は、何か行動や判定を行う度に、HPを減少させる状態異常だ。
つまり、攻撃しても回避してもなにしても、それを行う度にHPが減っていくのである。
これの厄介なところは、回復手段がかなり乏しいというところ。
基本的に、状態異常は【キュア】系のスキルで治すことができるが、裂傷状態に対応するスキルはない。
だから治すには、すべての状態異常を治す【キュア・オール】や、エリクサーなどのアイテムを使用する必要がある。
俺のように、レベルが三桁超えるほど育てているなら覚えていたり、持っていたりしてもおかしくないものではあるけど、普通はそこまで辿り着ける人はそうそういない。
だから、実質回復不可の状態異常と言うことになるため、相当面倒くさいのだ。
特に、味方へのダメージを軽減する役割を持つ【プロテクション】役にこれがかかると、【プロテクション】を打つたびにダメージが入ってしまい、あっという間にHPがゼロになってしまうと思う。
だから、基本的には避ける立ち回りが要求される。支援役はタンクに守られること前提だろうね。
「……っと、次なの」
ダメージが届いたのか、もう一度【ワールドエンド】が飛んでくる。
もはや空間内に俺達以外で夜空じゃない場所を探すのが難しい。
これで戦闘終わったら元通りって、どんな構造してるんだろうかこの洞窟は。
二回目も、クーリャの能力でクリティカルで避ける。
相変わらず、隙間は見つからない。
一応、一回目の攻撃では、多少なりとも洞窟の部分が残っていたから、多少の隙間はあるとは思うんだけど、攻撃が爆発属性な上、闇色をしているせいで非常に見づらい。
二回目なんて、最初の闇色と合わさって、どこから攻撃が来るのかわからなかったくらいである。
もう、素で回避するのは諦めた方がいいかもしれない。絶対無理だって。
「一回くらいは当たって欲しいんだけどな?」
「いや、当たったら消し飛ぶの」
即死属性がないだけで、ダメージ自体が即死級ダメージである。
相手のダメージが最低値で、【ハイプロテクション】で最大値を出したとしても、ほぼ即死だ。
一応、ガチガチに固めたタンクであれば、ワンチャン生き残れるかもしれないけど、俺はタンクではなくサブアタッカーである。
通常シナリオを回っただけの冒険者よりはよっぽど高いけど、カインと比べたらかなり低いと思う。
多分、受けたら塵も残らないんじゃないだろうか。
「大丈夫、手加減はしてるから」
「手加減してても食らいたくないの」
「けちー」
「ケチで命が繋がるならいくらでもケチになるの」
まるで子供のような無邪気さだけど、やってることは極悪なんだよなぁ。
まあ、プレイヤーの気持ちを考えるなら、確かに大技は当たって欲しいと思うし、そのダメージダイスを振りたいのはよくわかるけど、俺だってそれで死にたくはない。
せめて、絶対に大丈夫だという保証を用意してほしい。それなら、まだ考えないことはない。
と言っても、仮に出されたとしてもごねる自信はあるが。
あと三回。どうにか凌ぐしかない。
俺は冷や汗を流しながら、戦いを続けた。
感想ありがとうございます。




