表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
620/677

第五百六十七話:ファーラーの策

「君の予想通り、ファーラーは別の魔王を使って世界の滅亡を企てた可能性が高い。実際、友人も世界中を見て回っているが、その兆候は出始めているようだ」


「やっぱり、そうなるの」


 グレンがどうやって世界を回っているのか知らないが、まあ、神出鬼没な奴だし、それも可能なんだろう。

 魔王の出現には、それなりの兆候がある。その一つが、魔物の増加だ。

 魔王には、それぞれ出現する理由がある。

 それは、特定の魔物が貶められただとか、多くの人々が亡くなる災害が起こった時だとか、大まかに言うなら、負の感情が溜まった時と言うのが多いと思う。

 魔物自体は、別にそんな感情とは無縁な存在ではあるが、魔王から生まれる、魔王直属の眷属、いわゆる魔族はその影響を強く受ける。

 彼らは魔物の指揮を取り、意図的に町を襲わせるなどの行動を取らせることがある。それ故に、人里では魔物が多くなったと感じるようになるわけだ。

 こうなってくると、魔王はすでに出現している、あるいは出現間近と言っていい。それぞれの思惑の下に、町を蹂躙し、世界を破滅に導くのが魔王だ。

 すでにその兆候が見られているということは、やはり、この空白の期間は、魔王の出現のために手を回していた可能性が高いだろう。


「ただ、魔王が出てくるだけだったら、正直そんなに怖くはない。君達の手にかかれば、魔王がいくら出てこようが、倒すことはできるだろう」


「それは、まあ。でも、いろんな場所に同時に出てこられたら……」


「だとしても、最終的な防衛地点は残る。ファーラーは何も、世界の滅亡そのものを目的としているわけじゃない。そうやって滅びた後、どのようにして人々が復興するのかが見たいだけだ。つまり、ある程度人々や建物を破壊できれば、目的は達成される」


「確かに……」


 どん底から這い上がる人々を見たいなら、少なくともある程度の数は残しておかなければならない。

 仮に、俺達が必死に守らなくても、ファーラーがいいと判断したタイミングで、魔王の攻撃はやむことになるだろう。

 もちろん、だからと言って、守ることを放棄したいわけではないが、少なくとも、完全に世界が終わることはない。


「ただ、ただね。ファーラーは、恐らく君に強い恨みを抱いている」


「私に? なんで」


「君のおかげで、粛正の魔王による時代の粛正はほぼなくなった。しかし、いくら他の魔王で代用できるとは言っても、やはりファーラーとしては、時代の粛正を見たかったんだと思う。それを邪魔した君、そして俺には、強い恨みを抱いていてもおかしくない」


「まあ、それなら確かにそうなの」


 目論見通りに進んでいたのに、一番おいしいタイミングで邪魔されたら萎えるのは当然だ。

 逆恨みもいいところだけど、気持ちはわからないでもない。

 そうなってくると、他の魔王を使って、どうやってか俺を殺そうと企んでいる可能性があるか。

 いくら粛正の魔王の力が強大とは言っても、他の魔王も決して弱いわけではない。何かしらファーラーの加護があれば、互角の戦いになるかもしれない。


「正直、君が戻ってきてくれるとは思っていなかった。だから、元凶であるファーラーを倒すために、色々と策を考えてきた。けれど、君と一緒にクーリャが戻ってきたことによって、その策を考える必要はなくなった。後は、神界でファーラーを倒せばいいだけだ」


「オールドさんも協力してくれるの?」


「それはもちろんそのつもりだよ。ただね、ファーラーも、ちょっとした思い付きなんだろうけど、面倒なことをしてくれた」


「面倒なこと……?」


 そこで、俺はオールドさんが震えていることに気が付いた。

 寒さによる震えじゃない、どちらかと言うと、何かを我慢しているかのような、そんな震えだ。


「俺は、神界への道をこじ開けるために、以前持っていた力、粛正の魔王の力の一部である、スターコアを回収しようとした。全部取り戻すのは無理だろうけど、それでも半分くらいは取り戻せる気でいたんだ」


「そ、それで?」


「でもね、その中にいくつか、偽物が混ざっていたみたいで……正直に言うと、今俺は、ファーラーに操られかけてる」


「ッ!?」


 その瞬間、抑えられていた殺気が解放されたのか、辺り一面にオーラのようなものが舞い散った。

 考えてみれば、オールドさんは、元とは言え粛正の魔王である。

 今現在は、ファーラーの手から逃れて、この拠点で静かに暮らしているけれど、その力の一端はまだ残されている。

 全盛期の粛正の魔王とはいかずとも、他の魔王と遜色ない、いや、それ以上の力が。

 そんな力を持った魔王を、ファーラーが放っておくとは思えない。


「スターコアは、俺の力が込められている。俺はそれを使って、君の体にファーラーが降りられないようにした。だが、ファーラーも、同じように、自分の力が込められたスターコアを俺に取り込ませることによって、自分の支配下に置こうとした」


「だ、大丈夫なの?」


「一応、これでも対策はしてきたつもりだ。古くなったおもちゃに用はないと思っていたとはいえ、また操られたんじゃ堪ったものじゃないからね。だから、完全に支配下に置かせはしない。だけど、代わりに、衝動が抑えきれなくなってしまってね」


 ファーラーは静かに立ち上がる。

 その表情はとても穏やかなものだったが、目だけは、雄弁にその闘志を物語っていた。

 支配されない代わりに、溢れ出る戦闘衝動を抑えきれなくなった。それは、他の魔王も持つ、基本的な本能の一つ。


「この通り、一度発散しないと収まらないようになってしまった。いくらこの空間が特別とはいっても、限度はあってね。おかげで、まともに思考するのもやっとなんだ」


「オールドさん……」


「悪いんだけど、止めてくれると嬉しい。一度暴れれば収まると思うから、その時は頑張って力を貸そう」


 そう言って、両手を広げるオールドさん。もはや、戦う以外に選択肢はないようだ。

 まさか、ただ確認に来ただけで、元粛正の魔王と戦うことになるとは思わなかった。

 こちらの戦力は、俺とクーリャ、後もしかしたら、グレンも戦ってくれるかもしれない。

 流石に全盛期の粛正の魔王と同等まではいかないだろうけど、それでも元の力は同じである。

 どこまでのスキルを使えるかはわからないが、決して嘗めてかかっていい相手ではないだろう。

 こんな形で粛清の魔王と戦うことになるとは思わなかったが……やるしかないか。

 俺は背中の弓を手に取り、矢を構える。

 元粛正の魔王、ここで止めて見せる。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 抑え込むスキル作って付与したら良いんじゃ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ