第五百六十五話:経験値問題
『NPC作成』でないとしたら、『スキル作成』の方だろうか。
『スキル作成』は、自由に効果を決めて新しいスキルを作ることができる。
ただし、あまりに無茶なスキル内容にすると、コストがとんでもないことになるし、コストを下げようとすると、他のキャラに付与することができなくなるというデメリットがある。
それを考えると、例えばめちゃくちゃ強いスキルを付与して、それを使って効率的にレベル上げをする、と言うことはできない。
もちろん、ほどほどのスキル内容、それこそ、それぞれのクラスで覚えられるのと全く同じ内容のスキルであれば、そこまでコストはかからないはずである。
同じスキルなのに、片やほどほどのコストで、片やめちゃくちゃ重いコストなんてことにはならないだろうし。
だから、クラススキルを付与することはできるだろうけど、そうだとしても足りない気がする。
俺と同じように、【アローレイン】とかで大量の魔物を一気に倒す、ってことをしたとしても、そもそもの必要経験値が多すぎる。
こちらが一体二体程度倒しただけでレベルアップできるのに、同じことをするのに数十体や数百体要求されるわけだからね。多少効率が良くなったところでって話だ。
この問題を解決できない限り、仮にレベル上げに協力的であっても、そう簡単にレベルは上げられない。
「アリス様、あなたはゲームマスターなのです。変にルールに囚われる必要はない。そのルールが邪魔なら、取っ払ってしまえばいいのですよ」
「ルールを、取っ払う……」
そう言われて、俺はとっさに『スキル作成』の画面を開いた。
スキルには、大きく分けて二つの種類がある。それは、アクティブスキルとパッシブスキルだ。
アクティブスキルは、そのスキルを使用すると宣言して発動するタイプのスキルである。例を挙げるなら、俺の【アローレイン】とかがそうだろう。
そして、パッシブスキルは、常時効果が発動しているタイプのスキルである。これは主に、持っていると何かしらの能力値を高めてくれるバフ効果を持つスキルが基本だ。
サクラとかは、このパッシブスキルを大量に所持しているし、俺達全員が持っている耐性系のスキルも基本はパッシブスキルである。
俺が持っている、【無限の魔力】や【状態異常無効】なんかもパッシブスキルだ。
これらの違いは、さっきも言ったように、宣言して発動するか、常時発動しているかの違いである。
基本的には、アクティブスキルは宣言と同時にコストを消費して強力な攻撃を叩き込む攻撃スキル。パッシブスキルは、その攻撃の威力を高めるバフスキルが多い。
だが、違いはもう一つあって、それが、パッシブスキルにはコストが必要ないということだ。
宣言して発動するアクティブスキルと違って、パッシブスキルは常時発動しているが故に、コストを払うタイミングがない。
一応、所持しているだけでMPの上限が減ってしまうとか、そういうデメリット付きのものもあるにはあるけど、基本的には一度取ってしまえば意図的にオフにしない限りはずっと恩恵があるものである。
コストがないということは、どんなに無茶な効果にしても、コストを気にする必要がないということ。すなわち、強力な効果でも、簡単に他人に付与できるのではないかと思ったのだ。
「……やっぱり、行けそうなの」
パッシブスキルにしてしまえば、コストを気にする必要はなくなる。
これなら、この世界の人達でも、強力なスキルを覚えることは可能だ。
しかし、まだ膨大な経験値をどうするかが決まっていない。いくら強力なスキルを手に入れたとしても、それが解決できなければ意味がない。
でも、これに関しても、ガイゼンの言葉で何となく解法が見えた。
「【獲得経験値上昇】ってところなの?」
そう、必要な経験値が多いなら、手に入る経験値も多くしてしまえばいいじゃない、と言うことだ。
元々、クラススキルの中にも、貰える経験値を増やすって言うスキルは存在していた。つまり、獲得経験値を上昇させることは、『スターダストファンタジー』的にも、想定されていることだったのだ。
これを付与できれば、俺達と同じように、魔物を一体二体倒しただけでレベルアップできるだけの経験値が貯まるだろう。
「あとは、これをどうやってみんなに付与するかなの」
この世界の人々は、NPC扱いなのか、レベルアップをさせることで、様々なスキルを覚えさせることができる。
つまり、このスキルを付与するためには、最低でも1レベルは上げてもらわないと困るんだけど、今はその時間すら惜しい。
兵士とか、戦うことを生業としている人達なら、今までに貯めた経験値が残っているかもしれないが、それだって確実ではないし、一気に付与するのは難しい。
これも、どうにか『スキル作成』で何とかできないだろうか?
「うーん……スキルを、強制的に付与するスキル、とか?」
状態異常を付与するように、スキルを付与するスキルを作れば、行けるだろうか。
レベルアップをさせるには、その人の同意が必要になるけど、今はそれをいちいち考えている時間はない。
とにかく早く、経験値を稼いで、レベルを上げなければならない以上、そういうものを省くスキルは必須となる。
しかし、こんなことできるんだろうか。
さっきのはまだ前例があったからできたけど、これには前例がない。できなかったとしても、何ら違和感はない。
まあ、その時はみんなで知恵を絞るしかないかな。今はガイゼンもいるし、何とかなるだろう。
「……っと、できたの」
そう思っていたんだけど、どうやらできたようだ。
一応、これはアクティブスキルになるので、コストはお察しだけど、これに関しては俺が覚えられればそれでいいから問題はない。
と言うか、これを使えば、カイン達にもNPCスキルを付与できるのでは?
【無限の魔力】さえ覚えられれば、コストは踏み倒せる。そうなれば、みんなも同じように対処することができるだろう。
「答えは見えたようですね」
「流石なの、ガイゼン。助かったの」
「いえいえ、アリス様のご慧眼があってこそです」
ガイゼンは特に照れた様子もなく、恭しく頭を下げている。
さて、あとはこれをみんなに付与すればいいだけだ。
もしかしたら、もっと効率のいい方法があるかもしれないけど、今はそれを考えるより、少しでも多くの人のレベル上げをすることが先決だろう。
と言うか、レベル上げはどのみち俺がしなくちゃいけないのだから、一気に付与できたところでそこまで意味はない。
「あと残る問題は……」
経験値問題は何とかなる算段が付いた。となると、残る問題は、どう周知するかである。
魔王が出現するからみんな今すぐ鍛えるんだ、なんて言っても聞く耳を持つ人は少ないだろう。
神託でもあれば別だが、流石のクーリャも、もう一度神界に戻ったらどうなるかわからないので、神託で伝えることは難しい。
ヘスティア王国だけが声高々に言ったところで、敵対していた周辺諸国は耳を貸さないだろうし、協力してくれてもほんの一握りにしかならないだろう。
俺達だって、必ず魔王が出てくるとわかっているわけではないし、ファーラーが機転を利かせて出現を遅らせるとかしたら、こっちが悪者扱いされそうだ。
さて、どうしたものかね。
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