第五百六十四話:対抗策
魔王と言う存在は、『スターダストファンタジー』の中でもかなりの数が存在している。
その能力はピンからキリまであり、かなりばらつきはあるものの、最低レベルでも、国一つを滅ぼせるくらいには強力なキャラである。
魔王の能力はそれぞれ異なるが、共通しているのが、魔物を生み出し、操れるという点。
魔王自体が、魔物達の王と言う存在であり、魔物は本能的に魔王に従い、尽くすのである。
これは、魔王自身が生み出したものではない、野生の魔物も同様であり、魔王の意思一つで、徒党を組んで町を襲わせる、と言ったことも可能である。
これが仮に、一体だけで現れたというなら、その魔王さえ倒してしまえば何とかなるかもしれない。
しかし、もし魔王が複数現れたりしたら?
粛正の魔王は規格外だから除外するが、他の強力な魔王が何体も同時に出現なんてしたら、世界は終わるだろう。
ファーラーにそこまでの権限があるかはわからない。しかし、仮にも神様なのである。ごり押しでやってきてもおかしくない。
そう考えると、この一か月ちょっとの間、なにも音沙汰がなかったのは、そのための準備をしているという可能性もある。
「何か対策はあるの?」
「それは難しいでしょう。あらかじめ、出現する場所や人数がわかっているならともかく、何も情報がない今、あらかじめ現地に戦力を送っておくということもできない。対応は後手に回らざるを得ないでしょうね」
「何とかならないの?」
「予測をする、と言うだけならある程度は」
他の魔王が複数出現するとして、まず出現するのは、人のいる場所の近くであるということが挙げられるだろう。
ファーラーの狙いを考えると、とにかく人々を減らさなければならない。
いや、必ずしも減らす必要はないけれど、町を破壊し、文明を破壊し、人々が絶望するような状況に持ち込まなければならない以上、どこかの辺境で暴れたところで意味はない。
であるなら、人の多い場所の近くに出現する可能性は高いだろう。
さらに言うなら、俺が関わった国の近くと言う可能性もある。
ファーラー自身、俺のことをどうにかできるならどうにかしたいと思っているだろうし、俺のことを揺さぶりに来る可能性は高い。
直接俺に手を出せないのなら、その周りからと考えるのはある意味当然だろう。
俺が関わってきた国はそこまで多くはないけど、だからこそそれに関係があるなら候補はそれなりに絞れるはず。
「魔王を相手にするのであれば、戦力が足りませんか?」
「何体出現するかにもよるな。俺達や他のプレイヤーで対処できる数でないと、どこかしらは被害が出ちまうだろう」
「すべてを救うのは難しいのかな?」
「行ったことある場所ならポータルが繋がってるだろうが、流石に一度も行ったことない場所に出られたら対処すらできないだろ」
「そっかぁ」
一応、魔王は粛正の魔王が規格外なだけで、他の魔王は比較的相手にできる部類である。
特に、レベル600越えのプレイヤー達にかかれば、一人でも勝てるくらいには戦力差があるだろう。
ただ、肝心のプレイヤーの数が少なすぎる。
ファーラーの話を信じるなら、この世界には約100人ほどのプレイヤーがいたはずだが、今俺達が仲間に加えているのは、せいぜい10人程度。
ほとんどは、この世界に適合できずに死んだんだとしても、まだもう少し残っていてもおかしくはないはずだ。
そんな彼らを仲間にできれば、多少はましではあるが、それは現状叶いそうにない。
つまり、10人程度の戦力で迎え撃たなければならないというわけだ。
もちろん、シュライグ君とか、プレイヤー並みに強い人達も加えれば、もう少し戦力は増えるけど、それを加えてもあまりに戦力が少なすぎる。
魔王がそれよりも少ない数で来る可能性を信じるか? いや、それはないか。
仮にあったとしても、魔王には魔物を生み出す能力がある。それを用いれば、自分は安全な場所で引きこもりつつ、魔物に延々と町を襲わせ続けることも可能である。
魔王自身が割と知性の高い存在であるし、そういうことをしてきても何ら不思議はない。
「いったいどうすれば……」
「対抗策はないこともありません」
「ほんと? どんな方法なの?」
「実にシンプルなものです。レベル上げ、ですよ」
「は、はぁ」
確かに、レベルを上げれば戦力は増加していく。
しかし、現状のレベルでも、魔王自体は何とかなるだろう。問題なのは、魔王の数が恐らくこちらを上回ってくるであろうということであり、必要なのは質ではなく数である。
流石に、兵士達を魔王にぶつけるにはレベルが足りな……まさか?
「そう、レベル上げをするのは、アリス様の配下である兵士達。いえ、それだけではありません。戦いを希望する一般市民や、友好国の人々、それらのレベルを底上げするのです」
「いや、確かにそれなら数は揃うけど……流石にそんな大量にレベル上げはできないの」
一応、ヘスティアの兵士達は、日頃の訓練もあるので、レベルは元々それなりに高い。
途中から上げ始めたから能力値的にはあれだけど、レベルだけを見れば、レベル50を超えている者も多い。
しかし、普段から訓練している兵士ですらそれなのだ。他の、一般市民や、ヘスティアのような文化がない他の国の人々をレベル上げしようってなったら、相当な時間がかかる。
そもそも、魔王が出現するかどうかもはっきりとわかっていない今、いずれ来る戦いのためにレベル上げをしましょうなんて言っても、協力してくれるかわからない。
いや、ヘスティアの人達ならワンチャンあるかもしれないが、例えばクリング王国とかは無理だろう。
信じてもらうには、実際にそれが起こってからと言うことになるけど、それでは遅すぎる。
一瞬でレベル上げができるならともかく、それを対策にするのは少し無謀じゃないだろうか。
「この世界の人達は、レベル上げに必要な経験値が多すぎるの。私達みたいに、魔物を一体二体倒しただけでレベルアップと言う風にはいかないの」
「存じ上げております。では、その垣根を取っ払ってみてはいかがでしょう?」
「どういうことなの?」
「アリス様には、そう言ったことを可能にする能力があるはずです」
瞬時にレベルアップを可能にする能力? そんなのあっただろうか。
確かに、ゲームマスターはNPCの作成時に、そのキャラのレベルアップに必要な経験値を配ることができる。
本来レベル1からスタートするところを、今回みたいにレベル20からスタートと言う風にするには、レベル19分の経験値が必要となる。
だから、無理矢理レベル20から始めるために、足りない分の経験値を補填することができるわけだ。
ただ、これはあくまでNPCを作成する時にできることであり、すでにできているキャラに経験値を配る方法ではない。
つまり、兵士達や他の人達にいきなり経験値を配れるわけではないのだ。
「柔軟に考えてみましょう。アリス様は、新たに力を手に入れたのでしょう?」
「『スキル作成』と『NPC作成』なの?」
「そうです。それらを用いれば、十分に可能だと考えます」
「ふむ……」
例えば、『NPC作成』でキャラを作りまくるとか?
さっきも言ったように、NPCの作成時にはそのレベルから始めるために、足りない分の経験値を補填することができる。
つまり、『NPC作成』で初めから高レベルのキャラを作れば、いきなり戦力として活用できないことはない。
ただ、これには問題がある。それは、作画コストの問題だ。
いや、仮に立ち絵を全く凝らずに適当に描いて量産するとしても、『NPC作成』で作成できるキャラのレベルには上限がある。
いきなりレベル100とか200とか作れたらそりゃ戦力になるけど、そこまでは上げられないようだし、せいぜい雑魚掃除役くらいにしかなれないような気がする。
まあ、それでも役には立つだろうけど、それだけのために生み出していいんだろうか。
俺は腕を組み、他にどんな方法があるかを考えた。
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