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第五百六十三話:新たなNPC

 画面と格闘すること数時間。ようやく立ち絵が完成した。

 いや、まじで疲れた……。

 一応、消しゴム機能と言うか、間違えたら一つ前に戻してくれる戻る機能みたいなものは搭載されていたから、一発描きで決めろってわけではなかったけど、それでも俺はそもそもそんなに絵がうまくない。

 全く描かないってわけではないけど、サクラと比べたら雲泥の差があるだろう。

 そんな中で、目の前にサクラがいるにもかかわらず、俺がすべて描き上げなければならないってどんな拷問だよ。

 途中、サクラからアドバイスとかを貰いつつ、描き進めていったわけだけど、最初の一時間くらいはともかく、それ以降はみんなも飽きちゃって、適当に雑談してたし、絵を描くって大変なんだなと思い知った。


「こ、これで、作れるの……?」


 すでに時間は夜である。

 画面を閉じたら最初からやり直しになるかもしれないと思って、夕食にもいかずにずっと描き続けていたわけだけど、こんなに苦労するならもう『NPC作成』なんていらないんじゃないだろうか。

 それとも、こんなに丁寧に描かなくても、ある程度は補正してくれるとかあるか?

 棒人間を描いたらリアルな棒人間が出てくるとかだったら怖いから試したくないけど。


「もう描きたくないから、頼むの……」


 俺は祈るような気持ちで、作成ボタンをタッチする。

 その瞬間、目の前がぱっと輝きだし、次の瞬間にはそこに一人の男性が立っていた。

 皴一つない艶やか肌、それに似つかわしくないぼさぼさとした髪、年齢に似つかわしくない少年のような顔つきではあるが、その瞳はどこか威厳を感じさせる。

 間違いなく、俺が先程描き上げた立ち絵と同じ姿だった。


「アリス様、お呼びと言うことで参上いたしました」


 恭しく頭を下げるその声はかなり低く、そこは年齢相応だなって感じがする。

 と言うのも、俺は設定の際に、年齢を80代にした。

 これは、ただ単純に、知識量が多いってことは人生経験も豊富だよねってことで、高めに設定しただけの話である。

 ただ、俺は老人など描いたことがない。そもそも、人間をそこまで描いたことがない。

 あるのは、大抵が青年とかであり、それ故にそれ以外の描き方をあまり知らないのである。

 だから、80代と言う老齢であるにも関わらず、肌は皴一つないし、腰も曲がっていないのである。

 もう少し画力があれば、賢者みたいなかっこいいおじいさんとか描けたんだろうけど……まあ、ないものねだりしてもしょうがないな。


「ガイゼン、私のことはわかるの?」


「はい。アリス様は、私の主。このヘスティアを治める王であらせられます」


 新たに生み出したキャラ、名前をガイゼンとしたけど、設定としては、俺に仕える相談役と言った感じ。

 別に、ただ賢いだけの人でも良かったけど、明確に設定していないせいで、こちらに協力してくれなかったり、敵対されても困るので、一応俺の仲間と言う風にしたわけである。

 これを見る限り、きちんとうまく行っているようだ。


「すげぇな、ほんとにできちゃったよ」


「好きなNPCを作り出せるって言うのは凄いですね」


「アリスも絵がうまければよかったのにね」


「うるさいの」


 別に、NPCの数の上限は決まっていないと思うけど、こんだけ作画コストがかかるなら、そうホイホイとは作れない。

 まあ、適当に描いたのを量産するとか、あるいは毎日続けてれば絵がうまくなっていくかもしれないとかはあるかもしれないけど、新たな命を生み出す以上は責任を持たないといけないし、あんまりむやみには使いたくない。

 そのうちそんなこと言ってられない状況になるかもしれないのがあれだけど。


「して、アリス様。どのようなご用件でしょうか?」


「あ、うん、少し知恵を貸してほしいの」


「なんなりと」


「あ、でも、一応確認しておくの」


 俺は、もう一度設定がきちんと機能しているのかどうかを確認する。

 設定上、ガイゼンは俺達を裏切ることはない。設定の欄に、アリスやその仲間達を裏切らないって書いたからね。

 まあ、わざわざそんなこと書かなくても、アリスに仕えている以上は裏切らないとは思うけど、万が一と言うこともある。

 NPCは確かにゲームマスターが作り出すキャラではあるが、キャラとして作られた時点で意思を持つ者になると思っている。

 アリスだって、俺の魂が離れたら目覚めたわけだし、他のNPCや、何ならカイン達にだってそれは言えることだろう。

 いくら自分が作り出したからと言っても、イコール絶対に敵対しないとは言い切れない。

 だからこそ、こうしてしっかりと明記したわけだ。

 確認した限りでは、設定はきちんと働いているように見える。

 まさか、これが演技だなんて言わないだろうし、確認はこのくらいでいいだろう。


「それじゃあ、本題なの」


 粗方聞いた後、俺は今後のファーラーの動きについて聞いてみる。

 ファーラーについての情報だけど、クーリャからの情報を基に、可能な限り知識として入れ込んだつもりである。

 流石に、ファーラー自身ではないから、完全な予測はできないだろうけど、次に何をするつもりなのかの指針くらいはわかるかもしれない。


「なるほど、太陽神ファーラーの次の行動ですか」


「うん。何かわかるの?」


「粛正の魔王を誕生させるべく動くというのであれば、アリス様を抹殺しに来るのが妥当でしょう」


「まあ、そうなるの」


 それはそうだ。時代の粛正を引き起こすためには粛正の魔王が必要で、その粛正の魔王は今のところ俺である。

 しかし、その俺自身が時代の粛正をするつもりが全くなく、新たに粛正の魔王を立てるには俺を消す必要がある。

 であるなら、次にファーラーがとるべき行動は、俺を消すという行動になる。

 ただ、それが物理的に難しいのはファーラー自身もわかっているだろう。

 いくら神様であっても、直接手出しができないのなら、対抗手段はいくらでもある。

 特に、今の俺は粛正の魔王としての力をそのまま持っている。

 以前オールドさんが神界で神様を殺しつくしたように、粛正の魔王自体が神様にも匹敵しうる強力なキャラだ。

 だから、よほど卑怯な手を使われない限りは、俺を倒すことは難しいと思う。


「ただ、世界を滅亡させる、と言う目的の下に動くのであれば、また違った道も存在すると思われます」


「どういうことなの?」


 時代の粛正も世界の滅亡も同じようなことだと思うんだけど。


「ファーラー神の目的は、時代の粛正を起こすことではありますが、その本質は、絶望から這い上がる人々の姿を見たいから、と言うことでしたね?」


「う、うん」


「ならば、世界が滅亡さえすれば、その手段は問わないわけです。滅ぼすのは、何も粛正の魔王でなくても構わない。世界が滅亡するほどの力さえあればいいのですから」


「なるほど……」


 確かに、言われてみればそうだ。

 ファーラーが時代の粛正にこだわったのは、実際に一回それで世界を終わらせ、そこから這い上がってきた人々を見たからだ。

 これをすれば、必ず面白いことが起こる。そう確信していたからこそ、時代の粛正と言う手段を取ったわけである。

 しかし、その手段が取れないのであれば、似たような手段で同じようなことをやればいいと考えるのは自然なことだろう。

 色々と手段を講じれば、あるいは俺を倒すことはできるかもしれない。しかし、それよりも簡単で、同じ状況に持ち込む手段があるのなら、そっちを選ぶだろう。

 少し、時代の粛正にとらわれ過ぎていたかもしれない。となると、次にファーラーがとるべき行動は……。


「ファーラー神がどこまでの権限を持っているのかはわかりませんが、世界を滅ぼしうる存在には、まだ心当たりがあるでしょう?」


「もしかして、他の魔王とか?」


「はい。粛正の魔王には及ばずとも、十分世界を滅ぼす素質があるのですから」


 他の魔王の復活。それをもくろんでいるとしたら、かなりの大事である。

 俺はその可能性を聞いて、静かに冷や汗をかいていた。

 感想ありがとうございます。

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[一言] 予想は合ってるのかねぇ
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