幕間:対を成す神
クリティカルを司る神様、クーリャの視点です。
私とファーラーは、姉妹の神である。姉がファーラーで、私は妹だ。
まあ、どちらかと言うと姉妹と言うよりは、対を成す神と言われる方が多いのだけど、私としては、姉妹の方が収まりがいいと思っている。
私達が司る能力は、それぞれ、致命的な失敗と決定的な成功である。
姉であるファーラーは、取り返しのつかないような大失敗を意図的に引き起こす能力を持っている。
この能力を発動すると、攻撃しようとしていた者なら、足を取られて転んだり、武器を落としたりして逆に相手の攻撃のチャンスとなるし、交渉事をしていたなら、相手を激怒させてもう二度と交渉に応じてくれなくなったりする。
姉はそんな風に大失敗した者を見るのが好きで、時たま地上に降りては適当に荒らして行っていた。
まあ、それと同じくらい、失敗した者が這い上がってくる姿が好きなので、完全に潰すということをしないだけましかもしれないけど、私としては仕事が増えるからあまりやってほしくはない。
対する私の能力は、奇跡的とも思える大成功を意図的に引き起こす能力である。
さっきの例でいうなら、攻撃しようとしていた者なら、相手に回避の隙を与えず攻撃できたり、交渉事なら、相手がたまたま機嫌が良くてスムーズに事が運んだり、そういうことができるわけだ。
そういう、大成功をした人を見るのが私は好きなのである。
このことからわかるように、私と姉は全く逆の嗜好を持っているのだ。
それゆえか、対立することもよくあったし、仲はそんなに良くなかったと思う。
それでも、大失敗から大成功を収めるというのが姉的にはそれなりに刺さるのか、時たま褒められることはあったので、仲違いするほどではなかったはずだだった。
それが崩れたのは、約三千年前。
姉は、時代の粛正に興味を持ち、実際に見てみたいと言った。
私達はそんなに古い神ではないので、以前の時代の粛正のことを知らない。ただ、情報としては知っており、それが世界をリセットするためのシステムの一つだということを理解していた。
だから、当然見たいからと言う安直な理由で起こせるものではないし、そもそもそれが起こるのは人々が切に願った時である。いつ発生するかなんてわかるはずもない。
姉もそれはわかっているのか、言ってからしばらくは大人しかったのだけど、しばらくすると、その態度が豹変した。
姉は、別世界から神を呼び、その神を粛正の魔王に仕立て上げることで、疑似的な時代の粛正を引き起こした。
それによって、世界中の人々の大半は死滅し、文明も廃れ、まさに荒廃した世界になってしまった。
もちろん、それに反対する神はいた。と言うか、それが大半だった。
自分達の勝手な欲望で、管理している世界を破壊するなどあってはならない。
事が事だけに、すぐさま姉は捕らえられる羽目になり、世界も最高神の一存で再興することが決まっていた。
しかし、そこに現れたのがオールド、粛正の魔王に選ばれた、別世界の神である。
オールドは自分をこんな目に遭わせた神に怒りを抱いており、神界に乗り込み、多くの神を殺害した。
今思えば、あれも姉の策略だったのだろう。それによって、姉は拘束を逃れ、オールドを利用して多くの反対派の神を黙らせた。
残った神も、弱ったところを封印され、神界は姉の手中に落ちてしまった。
その時、私も当然反対していた。そんなこと許されるべきことではないと。
しかし、姉はそんな私の言葉を聞き入れず、逆に私を異空間に封印してしまった。
あまりに準備が良すぎたし、もしかしたら初めからこうするつもりだったのかもしれない。
その後どうなったかはわからないが、今の神界の様子を見る限り、恐らく姉がすべてを牛耳っているのだろう。
この世界は、最高神スターダストすら失い、太陽神ファーラーによって統べられることになってしまった。
「いやぁ、見れば見るほど畜生ですね」
アリスを送り出し、神託を下した後、私は軽く神界で調べ物をした後、すぐに地上に降りた。
あの異空間を抜け出したことに気づいているかどうかはわからないが、流石に神託まで下したのだから、私が何らかの理由で声を届けることができる状況にあることはわかっているだろう。
そこであの異空間を確認すれば、私が居ないことにもすぐに気づくはず。
できることなら、久しぶりの実家帰りなのだし、ゆっくりしていきたいと思っていたけど、また見つかって封印されるのはごめんなので、さっさと地上に降りて隠れることにしたわけだ。
「人が失敗しているところを見て、何が楽しいんですかね?」
確かに、人の不幸は蜜の味とも言うし、いけ好かない相手が思い通りにいかなくていら立っている姿は、見る人によってはスカッとするものなのかもしれない。
だけど、私としては、そんな風に相手が落ちていく様を見るくらいなら、自分がのし上がって相手を悔しがらせる方がよっぽどいいと思ってしまう。
そこらへんも、姉とは考え方が合わない部分だ。
特に、時代の粛正を起こした理由が訳がわからない。
世界を滅ぼして、そこから再興する人類を見たい? 何を言っているのやら。
確かに、姉の嗜好を考えれば、それはいい見世物なのかもしれないけど、そのためだけに頑張って管理していた世界を破壊するとか頭おかしいんじゃないかと思う。
特に、自分が作り出した、限りある異空間とかならともかく、多くの神々が共同で運営している世界を、自分の一存だけで破壊するのだからヤバイ。
楽しむのは勝手だけど、せめて節度を守って欲しい。子供じゃないんだから。
「さて、私がこちらに戻って来た以上、姉もうかうかはしてられないでしょう。必ず、次の手を打ってくるはず」
私の神託によって、アリスの無事は保障されたはずだ。
仮に、この後姉がもう一度神託を出してアリスを殺すように差し向けたところで、今回のように全世界を敵に回す、なんてことにはならないだろう。
そもそも、人だけではアリスを殺すなんて到底不可能だったはずだし、姉としては、追い詰められたアリスが自主的に死んでくれるか、あるいはアリスによって多くの人々が犠牲になれば、とでも思っていたんだろう。
結局、アリスを操っていたのが誰だったのかはわからなかったけれど、きちんとした持ち主を得た今のアリスだったら自死はありえないし、いざとなったら私が引っ張って上げれば人々が同士討ちをすることもないはず。
だから、次はもっと直接的な手を打ってくる気がする。
「いずれにしても、姉の蛮行を許すわけにはいかないし、ここは一つ、頑張って見ましょうか」
姉によって復活を封じられた神も助けないといけないし、スターダスト様も見つけないといけない。
これ以上、私達の管理する世界を独り占めにはさせませんよ。
そのためにも、まずは現状の把握からですかね。
そう考えて、アリスの下へと向かった。
感想ありがとうございます。




