幕間:アリスの体に2
主人公、アリス(秋一)の視点です。
『そんなに気に病んでいるなら、俺がアリスは間違っていないってことを証明するよ』
「しょう、めい……?」
今のアリスは、自分が悪いと思い込んでしまっている。
でもそれは、完全に犯罪者に騙された時の思考だ。
例えば、ある組織に所属していた人物が敵対組織に拉致され、情報を吐けと脅された。そして、吐かなければ家族を殺すと言われたとしよう。
この時、その人物が情報を話さなかったことによって家族が死んだことを、お前が喋らなかったせいで家族は死んだんだと吹き込んだなら、その人物は自分のせいで家族が死んだと思い込むだろう。
でも、これって誰が悪いかと言われたら、家族を殺害した敵対組織であって、その人物は自分の組織を裏切らないために任務を全うした素晴らしい人物ってことにならないだろうか?
仮に情報を喋ったところで家族が殺されない保障はないし、喋らないのが正解なのは確かだろう。それを、あたかもお前のせいで死んだんだと装うのは、完全に悪党のやり方である。
だから、それを教えてあげなければならない。悪いのはアリスではなく、ファーラーであると。
「あなたが、そんなことを証明できるの? そもそも、私のせいでみんなが不幸になったのは事実で……」
『確か、神託が出されたんだよね? アリスを殺すようにって言う』
「うん……。神様が言うなら、悪いのは私で間違いないの」
『なら、その言葉は俺が撤回させる』
「そんな、何の権限があってそんなことを……」
『言ったでしょ? 俺は神様みたいな存在だって。神様が言ったことでアリスが苦しんでいるなら、同じ神様である俺がアリスを助ける』
「……」
アリスは訝しげな眼でこちらを見ている。
アリスは別に特定の神様を信仰しているというわけではないけれど、神様は自分では到底及ばない場所にいる存在であり、敬うべき存在だと認識している。
もちろん、どんな神様がいるのかも把握しているし、時には祈りを捧げることもある。
だから、秋一と言う神様が存在しないことも知っている。だからこそ、俺が神様だって言うことを信じられないでいるのだろう。
『俺のことが信じられないならそれでもいい。でも、俺と同じようなことを、皆は言ってなかったかな?』
「みんな……確かに、言ってたの」
『なら、皆を信じてあげて欲しい。アリスがいなくなって欲しいなんて思っている仲間は、一人もいないはずだからね』
まあ、正直声は聞こえてなかったし、カイン達はともかく、他のプレイヤー達はもしかしたら裏切ったりする可能性もあるかなと思わなくもない。
けれど、仮にそうだったとしても、アリスが最も信頼しているカイン達が信じてくれているなら、それを裏切ることはないはずである。
「……わかったの。信じるの」
『その言葉が聞けて安心した』
「……ねぇ、あなたは、本当に神様なの?」
さっきとは違い、探るような視線である。
俺が神様かと言われたら、俺的には違うと言いたいけれど、ここで違うと言ってしまったら、今までかけてきた言葉が薄っぺらくなってしまう。
一応、ゲームマスターと言う意味では神様に近しい存在だし、アリスの中においては、その認識でもいいとは思っている。
ただ、アリスに嘘は通じない。露骨に神様だと宣言したところで、嘘だと言われるだけだ。
であるなら、ある程度の真実を混ぜ込むしかない。
『厳密には神様ではないかもしれない。けれど、神様に等しい力は与えられているよ』
「いったい何者なの?」
『うーん……アリスは、こことは違う、異世界があるって言ったら信じる?』
「異世界?」
俺が別の世界から来たことは、この世界の住人に話す気はなかったんだけど、アリスなら別にいいだろう。
そもそも、アリスは俺が作り出したキャラである。その思考は確かにこの世界寄りかもしれないが、少なからず共感はしてくれるはずだ。
「神界とか、幻獣界とか、そんな感じの?」
『そう。俺は別の世界から、この世界の神様によって連れてこられた。アリスの体を与えられてね』
「私の体を? じゃあ、この体の持ち主って言うのは……」
『そう、元々その体は俺が使っていたってこと。わけあって、追い出されちゃったけどね』
アリスはしげしげとこちらを見ている。
信じていないわけではなさそうだけど、恐らく探っているんだろう。
俺はなるべくぼろが出ないように続ける。
『俺は元々、とある世界の進行役をしていた。そこでは俺は神様に等しい力を扱うことができていた。その能力が、こっちの世界に来た時に引き継がれたようで、そのまま扱うことができていた』
「で、でも、私にはそんな記憶ないの」
『恐らくだけど、俺がアリスの体を操っている間は眠っている状態だったんだと思う。だから、俺が設定した始まりの記憶、カイン達と出会った時から始まったんじゃないかな』
「俺が設定したって……まさか!」
『そう。アリスは俺の分身だった。カイン達を助けるために俺が作ったんだ』
「そんな……」
アリスはなんだかショックを受けたような顔をしている。
まあ、自分が作られた存在だったなんて知ったら、そんな反応にもなるか。
別に、アリスの意識がまがい物だとか、そういうことを言いたいわけじゃない。ただ、アリスは俺の分身であり、俺がその操作を担っていたということを確認してほしかったのだ。
ちょっと酷かもしれないが、アリスはこれで折れるような性格じゃない。多分、大丈夫。
「……あなたが神様に近い存在であり、この体の持ち主であるってことは何となくわかったの」
『わかってくれたなら何より』
「なら、私は、やっぱり消えるべき存在なの……?」
『なんでそうなる』
いやまあ、わからないことはないよ?
自分は作られた存在で、それを操る神様に等しい存在がいるわけだし、自分の意識は邪魔なんじゃないかと思うのは仕方ないことかもしれない。
でも、俺は散々アリスを助けようとしている発言をしているのに、どうしてそんな思考に辿り着くのかわからない。
設定通りのアリスだったら、さっさと出てけと言うような気がするけど、やはり心が弱っているからだろうか。
まあ、死を覚悟するほどだから仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないけど。
『俺は、アリスを消そうだなんて思っちゃいない。まあ、体は返してほしいとは思うけど……』
「それじゃあ、私は邪魔じゃないの?」
『邪魔じゃない邪魔じゃない。んー……あ、ほら、もう一人の僕的な存在になるのはどうだろう』
「私の体を、二人で使うってことなの?」
『そうそう。ダメかな?』
ほんとは主導権を取り戻したらもう手放したくはないけど……こんな状態のアリスから奪って後は知らないって言うのもちょっと可哀そうな気がする。
一応、別案としては、新しいNPCを作って、俺かアリスのどちらかがそのキャラを操作するって言うのも考えたけど、アリスの体には思い入れもあるし、アリスだって自分の体なんだから手放したくはないだろう。
だったら、某闇のゲームの主人公みたいに、一つの体に二つの意識、って形でもいいんじゃないかなとは思う。
「……まあ、ちょっと気持ち悪いけど、それでみんなと一緒にいられるのなら、構わないの」
『ありがとう。これからよろしくね、アリス』
「よろしくなの、シューイチ」
手はないけど、握手のようなものを交わし、ここに契約は成った。
今後ちょっと大変になるかもだけど……まあ、何とかなるだろう。
そんなことを思いながら、現実の世界へと帰っていった。
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