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第五百五十九話:神界の町

 恐る恐る目を開けてみると、そこには見たこともない光景が広がっていた。

 辺りは一面雲のような白いふわふわで覆われており、その上に石造りの建物が規則的に建っている。

 地面はどうなっているんだと思って下を見てみると、確かにふわふわはしているが、ある一定の深さになると固くなり、少し暗い色の白い地面が広がっている。

 辺りには人っ子一人おらず、まるで死後の世界にでも来てしまったのかと錯覚してしまうほどだった。


『あの、ここは……?』


「ここは私が住んでいた町ですよ。ぱっと思いついたところがここだったので、とりあえずここに転移しちゃいました」


『住んでいた町って……神界ってことですか?』


「そうなりますね」


 まじか……。

 神界とは、その名の通り、神様しか存在できない場所である。

 いや、正確には、神様と、神様に認められた者だけが入ることが許されるって場所らしいんだけど、俺はそんな場所に迷い込んでしまったのか。

 でも確かに、クーリャからすれば、たまにしか下りない地上より、住み慣れた神界の方に転移するのは当たり前と言えば当たり前か。

 なんだか居心地の悪さを感じながらも、自分の姿を確認してみる。

 俺の姿は、未だに光の玉のままだった。

 あの世界だからこそ、この姿だったのではないかと思ったんだけど、アリスと言う依り代を失ったことで、今の俺はこうして魂だけの状態でしか存在できないようである。

 まあ、やろうと思えば、『NPC作成』で作った適当なNPCに乗り移れそうな気がしないでもないけど……せっかく脱出できたんだし、普通にアリスに戻りたいよね。


『あ、画面が消えてる。……みんなの様子とかわかりますか?』


「ちょっと待ってくださいね。確かこうやって……」


 クーリャが何事か唱えると、その手に鏡のようなものが現れる。

 そこには地上の様子が映っており、形は違うが、あの画面と似たようなものだとわかった。


「これが現在のアリスの姿みたいですね」


『……なにこれ?』


 その姿を見て、俺は思わずぽかんとしてしまった。

 なぜなら、アリスはギロチンに繋がれており、周りから何事かを言われながら石を投げつけられている状態だったからだ。

 え、なにこれ、処刑風景?

 一応、この世界には公開処刑というものは存在する。ちょっと趣味が悪いけど、国民達はそれを娯楽として楽しんでいるところもあると聞いた。

 だから、こうした装置があること自体はわかるんだけど、なんでアリスがそれに繋がれてるんだ?

 確かに、今のアリスの体には、なぜだか俺でもファーラーでもない何者かが乗り移っているようだけど、一体何したらこうなるんだ。


「なんだかおもしろいことになってますね」


『いや、笑えないんですが……』


 まあ、今のアリスが取り返しのつかないことをしたって言うなら仕方ない気もするけど、その体は一応俺のなんだよな。

 本来なら、ファーラーが操って、時代の粛正を引き起こし、世界中を敵に回していただろうから、それと比べれば優しいのかもしれないけど、結局殺されてしまうんじゃ何にも変わらない。

 俺の知らないところでアリスを殺さないでほしいんだけど。


「ちょっと声を聞いてみましょうか。なになに?」


 鏡から声が聞こえてくるようになる。

 あの世界にいた時は、声すら聞こえなかったから、何が起こっているのか正確に把握することはできなかったけど、これなら少しはわかりそうだ。

 話を聞く限り、この処刑を望んだのはアリス自身らしい。アリスは自分のせいで世界中の人々を不幸にしてしまったことを悔いており、自ら敵に捕まった、と。

 どうしてそうなった。


「どうやら、姉が神託を出したみたいですね。アリスを滅せよ、みたいな」


『いや、ファーラーは俺の体を欲しがってたんでしょ? なんで殺すんですか』


「さあ? 目論見がうまくいなかったから、一回全部なかったことにしてやり直そうとか思ってるんじゃないですかね」


『なんですかそれ……』


 つまり、こうなった原因はファーラーであるということだ。

 いや、何してくれてんの?

 今のアリスを誰が操っているのかは知らないけど、その人にこんな決断をさせるくらい追い詰めるってどうかしてると思う。

 そもそも、時代の粛正を故意に起こそうとしている時点で、世界の癌であることは確定的に明らかだ。

 早急に、ファーラーは滅しなければならない。


『とにかく、このままだとアリスが殺されてしまいます。何とかしないと』


「そうですね。アリスの体がなくなるのは困ります。早いところ戻った方がいいでしょうね」


『そんな簡単に戻れるものなんですか?』


「自分の依り代なんですから、戻るのは簡単でしょう? あ、でも今戻ると、あれが痛いですか」


『痛いなんてもんじゃないと思いますが……』


 そりゃ確かに、アリスの防御力ならギロチンの刃くらい弾きそうではあるし、仮に即死属性を持っていたとしても、アリスの即死耐性はめちゃくちゃ高いから死なないとは思うけども。

 いくら死なないとわかっていても、流石にギロチンの刃の下に首を差し出したいとは思わない。

 もし、俺が戻った瞬間ギロチンが落ちて首が落ちるなんてことがあったら、普通に死ぬだろうし、死ななくてもトラウマ物である。

 だけど、戻らないとどのみち殺されてしまうのは事実。戻るならさっさとしなければいけないんだけど……。


「だったら、あれを破壊しちゃいましょう」


『そんなことできるんですか?』


「いいか悪いかで言われたら、ちょっとグレーな気はしますけど、こういうのよくないですか?」


 そう言って話してくれたのは、神様が地上に降りる際の演出についてだった。

 神様は本来なら、地上に干渉することはできないが、依り代を使って地上に降り、それを使って何かしらをすることはできる。

 まあそれでも、世界を根本から揺るがすようなことはしてはいけないらしいけど、多少の演出をするくらいは許されるのではないかと思っているらしい。

 演出と言うのは、例えば召喚陣がぱっと光りだし、そこから出現するとか、海が割れて、そこからすたすたと歩いてくるとか、そういうものだ。

 要は、いかにかっこよく地上に降りるかを追求したものと言うことである。

 もちろん、これは神様の中でも一般的ではない。普通の神様は、特に演出など用意せず、地上にぱっと現れるだけである。

 だけど、クーリャはそういうことに興味があるようで、あの空間に閉じ込められて暇な間、どうやったらかっこよく登場できるかを考えていたらしい。

 なんとも暢気なことだけど、でも確かにありかもしれないと思った。

 と言うのも、ギロチンは怖いけど、それさえ破壊してしまえば、特に怖いことはない。俺も心置きなく、アリスの体に戻ることができるだろう。

 それに加えて、そんな奇抜な登場の仕方をすれば、他の人から見れば、明らかに普通でない人と印象付けることができる。

 周りにいる人達は、ファーラーが行った神託によってアリス殺すべしと思っているようだけど、アリスが神様と同じような登場の仕方をすることができれば、少しは効果があるんじゃないだろうか。

 無事に戻れたとしても、その後ずっと神託があるから殺されろと言われ続けるのは嫌だしね。


『まあ、時間もなさそうですし、それでいきましょう』


「わかりました! いやぁ、腕がなりますねぇ」


 ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべるクーリャ。

 ちょっと心配ではあるけど、まあ、多分大丈夫だろう。

 俺は一度深呼吸をすると、アリスの体に戻る決意を固めた。

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[一言] クーリャノリが良いな……
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