第五百五十二話:スキルの作り方
とりあえず、『この世界から脱出する』という効果を書き込んでみた。
これが通るなら、確実にこの世界から脱出することができるし、なんならこの世界どころか元の世界にだって帰れるかもしれない。
そういう期待も込めてやってみたわけだけど、そうしたら『この効果は適用できません』と出てきた。
流石に、好きな効果を作れるとは言っても、明らかに無理なものや、行き過ぎた効果のものはできないんだろうか。あるいは、この世界、とか、脱出する、と言うのが具体的ではなかったせいだろうか?
今、俺はファーラーが造った異空間にいるわけだけど、別の場所でこの効果のままだったら、その時にいる世界から脱出するという意味になってしまう。もし、きちんとした効果にするなら、ちゃんとした具体名が必要なのかもしれない。
ただ、具体名と言われても、この世界の具体名なんて知らないんだよな。
せいぜい、ファーラーが作り出した異空間、くらいなものだけど、流石にそれじゃ無理か?
とりあえずやってみたけど、やっぱりだめだって表示された。一筋縄ではいかないようである。
「どうですか?」
『何となくいけそうな気はしますけど、調整が難しいです。クーリャ、この世界の正式名称とか知りませんか?』
「正式名称と言われても……私も聞かされたわけでもないし、姉が作ったとしかわからないですよ?」
『ですよねぇ……』
仮に、大きく定義して『ファーラーが作った空間』と言う風にすればもしかしたら行けないことはないかもしれないけど、今カイン達がいる現実世界も大きく解釈すれば、神であるファーラーが作ったと言えなくもない。
だから、最悪ここでも現実世界でもない、全く別の場所に脱出することになる可能性もある。
脱出の先のことも、きちんと定義しないとだめだよな。
『なら、自分が思った場所に転移するスキルとか』
このスキル自体は【テレポート】がそのまんま当てはまりそうだけど、あれは自分一人しか対象に取れない。
だから、それをちょっといじくって、対象を任意の数にすることで、クーリャと共に脱出できないかと言うプランである。
『お、行けた?』
先程と違って、だめだという表示が出なかったので、これは行けるようだ。
これならいけそうだと他の項目も設定し、スキルとして完成させていく。
だが、項目を埋めていくに従って、異変に気が付いた。
『……コストがめちゃくちゃ重い?』
コストの欄は設定すらしていなかったはずなのだけど、気が付いたら記入されていて、しかもそのコストがめちゃくちゃ高かった。
同じような効果である【テレポート】は、自分しか転移できないという点と、似たスキルに上位互換である【ワープポータル】が存在しているから、コスト自体はそこまで高くなかったはず。
それなのに、対象の範囲を変えただけで、ここまでコストが重くなるのか。
その部分を書き換えようと手を伸ばすと、『この項目を変更すると他人への付与ができなくなります、よろしいですか?』と出てきた。
他人への付与? と思ったが、確かに元々スキルはキャラに付与するものである。それがプレイヤーにせよ敵にせよ、こんなスキルを持っていたらぶっ壊れになるから、コストを重くすることで何度も使えないように調整した。けれど、その調整を無視するのなら、そもそも付与できないようにする、と言うことなんだろう。
でも、この書き方だと、他の人への付与ができなくなるだけで、自分にはできるんだろうか?
だって、そうじゃなければそもそも変更できません、と書くだろうし、わざわざ他の人と明記しているってことは、自分にはできるということでもあると思う。
つまり、ゲームマスターである俺は好きにスキルを使えると。何それチート?
と言うか、コストをいくら重くしたところで、アリスが持っている【無限の魔力】を同時に使えば、コストは踏み倒せる。
どっちにしろぶっ壊れスキルだな。
『まあ、とりあえずコストはいじらずに完成させるとして……こんなもんかな?』
とりあえず、コストはどうにでもなると考えて、スキルを完成させる。
名前も決めてやると、『スキル一覧に追加されました』と言う表示が出た。
なるほど、スキル自体は作れるけど、取得はまた別に行わなければならないということなのか。
まあ、当たり前っちゃ当たり前だけど。
『ならさっそく覚えて……あれ?』
『レベルアップ処理』から自分をレベルアップさせていこうと思ったんだけど、そもそも自分のキャラシが表示されなかった。
いや、アリスのキャラシはある。これが俺のキャラシであることは間違いない。
けれど、いつもキャラシを開く時は、真っ先にアリスのキャラシが表示されていたのに対し、今は何も表示されていない状態がデフォルトとなっている。
ただのバグかと思いもしたけど、これは多分、今は俺は魂だけの状態であり、アリスの体とは別人扱いされているんじゃないだろうか?
俺はゲームマスターではあるけど、本来はゲームマスターと言うキャラは存在しない。キャラの時点で駒であり、ゲームマスターの管理する何かなのだから。
つまり、最上位に存在するゲームマスターはキャラとして存在できない。
その抜け穴となっているのが、お助けNPCと言う形でゲームマスターがゲームに干渉することなんだろうけど、今はその体すら離れてしまっている状態である。
だから、今は俺自身に何かをするってことはできないんだろうと思う。これは困った。
「どうしました?」
『いや、脱出できそうなスキルはあるんですが、覚えられなくて』
「どんなスキルなんですか?」
『今作ったんですよ。一応【マルチテレポート】と言う名前にしました』
「スキルを、作った?」
クーリャはきょとんとして目を丸くしていた。
神様であるなら、似たようなことをできてもおかしくないと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
スキルを作るというのは、神様ですらできない偉業のようだ。ますます異常性がわかる。
『えっと、覚えてみますか?』
「私でも覚えられるものなんですか?」
『多分?』
自分で覚えられない以上、ここはクーリャに頼むしかない。
いや、一応奥の手として『NPC作成』で適当なNPCを作って、そいつに覚えさせるというのも手ではあるけど、あんまりしたいとは思わない。
そもそも、『スキル作成』すら、初めてだらけで緊張していたのに、この期に及んでさらに初めてのことをしたくない。
もしやるとしても、ちゃんと落ち着いた場所で丁寧に検証していきたいところだ。
「ならお願いします。ちょっと興味ありますし」
『では、ちょっと失礼しますよ』
俺はキャラシからクーリャを開いて、『レベルアップ処理』を選択する。
ナチュラルにやったけど、クーリャもきちんとキャラシあるんだな。
確か、神様って設定だけで、データは存在していなかったような?
まあ、ここは似てるってだけで、別に『スターダストファンタジー』の世界と言うわけではないんだし、そういうこともあるのかな。
あるいは、これが依り代だからステータスあるだけで、本当の姿ではデータは存在しないとか。
実際、クーリャもこの姿が本当の姿とは言ってないしね。
若干疑問に思いつつも、レベルアップさせ、先ほど作ったスキルを覚えさせる。
案外すんなりと完了し、クーリャは無事に【マルチテレポート】のスキルを習得することに成功した。
意外と簡単だったなと思いつつ、クーリャにきちんと覚えられたかどうかを聞いてみた。
感想ありがとうございます。




