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第五百四十九話:ファンブルの神

 主人公の親友、カインの視点です。

「怖い顔してるわねぇ。ちょっと体を借りようとしただけじゃない」


「だけ、だと? 貴様はそれでアリスさんがどれだけ苦しんだかわかるか!? 偽の目的を植え付けられ、あまつさえ世界中の人々から命を狙われることになったのは、貴様のせいだろうが!」


 挑発に乗ってはいけないと思いつつも、ついつい声を荒げて反論してしまう。

 ファーラーからしたら、ただ単に時代の粛正を起こすために、たまたま選んだのがアリスさんなだけで、それがうまく行かなかったからじゃあ別の奴でいいやと邪魔な奴を消そうとしているだけなのかもしれない。

 けれど、それがいかに自分勝手なのかは誰が見てもわかることだろう。

 そもそも、時代の粛正はそう何度も起こしていいものじゃない。

 時代の粛正が起こるのは、あくまで世界中の人々がそう望んだ時だ。こんな世界は間違っている、こんな世界は嫌だ、そうした願いが時代の粛正を引き起こすのである。

 それなのに、こいつは人々が絶望し、そこから乗り越える姿を見たいという完全な私利私欲で世界を滅ぼそうとしている。

 そのためには、他の神すら犠牲にする超自己中。もはやそれは神ではなく、邪神と呼んで差し支えないものだと思う。


「それの何が問題なの? 元々、この世界は私のものなんだし、仮にあなた達が別世界の神みたいな立場なのだとしても、この世界に来た時点で私の方が権限は上。そちらの世界で言うところの、ゲームマスターなのだから、何をしようが自由でしょう?」


「ゲームマスターは自分のために何をやってもいい存在ではない! むしろ、その世界を預かるものとしてプレイヤーを導き、無事にシナリオを終えられるように寄り添うものだ! 貴様のような奴が、ゲームマスターを語るな!」


「そんなに怒ると眉間にしわが寄るわよ?」


「黙れ! 貴様だけは許さん!」


 あまりに身勝手な言い分に、俺は思わず手が出てしまった。

 力任せに振り下ろされた剣は、あと一歩のところでファーラーには届かず、地面を抉る。

 流石に、神と言うだけあってステータスは高そうだ。

 しかし、こちらも十分にレベルは上げている。戦えないわけではないはず。


「怖い怖い。そんなに遊びたいの?」


「貴様はここで殺す。誰が何と言おうとな」


「それじゃあ、少し遊んであげましょうか。久しぶりでなまってるだろうしね」


 そう言って、ファーラーは杖を構えた。

 やる気になったのなら、その上からたたき潰すまでだ。

 俺は盾を構えつつ、ファーラーに向かって突撃する。


「【スマッシュ】、【シールドバッシュ】!」


「ふふ、私に戦いを挑むなんて、無謀なことを」


 今の俺のレベルは600以上。これは、普通にシナリオをやってたら到底辿り着けない領域である。

 当然ながら、能力値を参照する判定は達成値が跳ね上がり、命中率も回避率も、イベントボスでもなければ避けられないし当てられない、なんてことになるだろう。

 実際、このレベルになる前、レベル100辺りですらも、攻撃を外したりしたことは一度もなかった。あったとすれば、同レベルのプレイヤー達との模擬戦くらいである。

 だから、攻撃が外れることなど、まずありえない。そう思っていたのだけど……。


「ぐっ!?」


 突如、足元がぐらりと揺れたかと思うと、訳も分からぬまま俺は転倒してしまった。

 足場が悪かった? いや、ここはそこまで足場が悪いわけではない。石畳の道とは行かないまでも、きちんと平らな地面である。

 ではバランスを崩したのか? いや、この世界に来た当初ならまだしも、ここまで来て自分の体のバランスを把握していないなんてことはありえない。

 そもそも、敵の目の前で転倒なんて一番やっちゃいけない失敗だし、いくら怒りに任せて突っ込んだとは言っても、そんな馬鹿な真似は絶対にしないはず。

 しかし、結果的には転倒し、ファーラーの足元に転がる形となった。

 今攻撃を受ければ、まず避けることはできないだろう、そんな体勢である。

 一瞬思考が止まったが、即座に危機感を感じ、盾を構えつつ飛び起き、即座に距離を取る。

 しかし、これだけの隙を晒しておきながら、ファーラーは攻撃することはしなかった。


「あらあら、随分とカッコ悪いんじゃない?」


「黙れ!」


 今度は足元に注意を払いつつ、剣を構えて突撃する。

 しかし、またしても足元がぐらつき、ファーラーの近くで転倒することになった。

 ここまでくれば、偶然ではないだろう。何かしらのスキルを使われている。

 一体なんだと考えて、すぐに自分の馬鹿さ加減を悟った。

 相手はファンブルの神である。そして、その能力は、相手をファンブルさせることだ。

 ファンブル、すなわち致命的失敗をするということは、攻撃は当たらず、逆に相手の攻撃のチャンスとなるような行動を取るということである。

 俺は気づかぬうちに、そのスキルを食らっていた。だから、攻撃がことごとく失敗に終わるんだ。


「ふふ、気が付いた? 私に戦闘を挑むのが、どれだけ無謀なのか」


「くっ……」


 どれだけ達成値が高くても、ファンブルしてしまったら攻撃は絶対に当たらない。そして、攻撃できなければ相手を倒すことはできない。

 もちろん、全く希望がないわけではない。

 ファーラーの能力は相手をファンブルさせることではあるが、その裁定は明確に決められているものではない。

 『スターダストファンタジー』では、元々、神自体の能力値が決められておらず、ただ名前だけ登場する存在だったから、戦うことを想定されていない。それは、粛正の魔王よりも、もっと想定されていないことだ。

 だから、能力の説明も、少しふわっとした形になっているんだと思うけど、この世界にもそれが適用されているかどうかはまだわからない。

 実際、オールドは一度神を殺している。それはつまり、攻撃が当たったということで、ダメージが通ったということだ。

 もっと単純に言えば、ステータスが存在しているはずなのである。

 同じ負けイベントでも、能力値が設定されていない相手と通常ではありえないめちゃくちゃ高い能力値に設定されているのだったら、まだ後者の方が勝てる可能性がある。

 つまり、ファーラーもまた、一人のキャラとして能力値が設定されており、そこにはスキルなんかもあるはず。そして、そのスキルの中に、相手をファンブルさせる能力があるはずだ。

 全く戦わないならともかく、戦う機会がある以上、スキルには使用制限がある可能性もある。強力なスキルになるほど、シーン一回とか、シナリオ一回とかの制限がかかるものだから。

 相手をファンブルさせる、つまり、相手の判定を必ず失敗させるって言うのは、どう考えてもチートスキルである。

 もし仮に、ゲームマスターがこのスキルを作ったとしたら、必ず何かしらの制限はかけるはずだ。

 だから、そう何度も使えるものではない可能性も、ゼロではない。

 ただ、これはただの希望的観測だ。神である以上、そんな制限を無視している可能性もあるし、そもそもゲームマスター自身だというなら、世界を所有物発言するほどの自己中なのだから、自分を最強のキャラに仕立て上げるのに躊躇なんてしないだろう。

 どれだけ攻撃しても、すべての攻撃をファンブルにされるって言う可能性もまた、ゼロではない。むしろ、こちらの方が圧倒的に可能性が高い。

 そうなったら、流石に勝ち目はない。


「どうする……」


 俺はなるべく気取られないように平静を保ちながら、ファーラーと相対した。

 感想ありがとうございます。

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