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第五百四十六話:知らない力

 力を取り戻す作業は順調である。

 空を飛べるようになった今、移動の時間は圧倒的に短縮されたし、封印された力も、特に苦も無く解除できる。

 簡単に言えば、チェックポイントの決められたマラソンのようなものだ。

 何日も歩くことになるという問題も、ほとんど疲れない関係上、ただ時間がかかるだけでそこまで問題にならないし、この調子で行けば、すべての力を取り戻すのも時間の問題だろう。


『それにしても、力を取り戻すのはいいんですけど、そのあとどうやってここから出るんですか?』


『そこまで考えてないですね』


『おい』


 この世界は、ファーラーが作り出した異空間らしい。だから、現実世界に戻るためには、どうにかしてこの空間から脱出しないといけないわけだ。

 クーリャは、ずいぶん昔にこの空間に閉じ込められていて、ここから出るために俺を待っていたらしい。

 そうして、まずは力を取り戻そうということで各地を回っているわけなんだけど……まさか何も考えてないとは思わなかった。


『ふざけてるんですか?』


『ふ、ふざけてはいませんよ? でも、力を取り戻せば神の力で何とかなるかなぁって……』


『そんな簡単なものなんですかね……』


 まあ、言いたいことはわかる。

 力を失った状態よりは、力を取り戻した状態の方が何とか出来る可能性は高いだろうし、まずは力を取り戻すのが先決だというのは理解できる。

 何らかの拍子に出られるとしても、その時に力を置いていきたくはないしね。

 だけど、仮にもここは神が作った空間である。同じ神だとしても、そう簡単に突破できるとは思えない。

 てっきり何か考えがあるのかと思っていたから、思わずジト目をしてしまった。


『……まあ、今はいいですけど、何か考えてくださいよ?』


『わ、わかってますとも。腐っても私は神ですよ? できないことはありません!』


『自分で神と名乗る資格はないみたいなこと言ってませんでしたっけ?』


『それは力がなかった時の話です。力を取り戻せるなら、私はれっきとした神ですよ』


 随分と調子のいいことだ。

 まあ、俺自身も何か思い浮かんでいるわけではない。

 どうやってここに来たのかも覚えていないし、空を見上げたところで出入り口のようなものがあるわけでもない。

 異空間の壁を破壊するとか、そのくらいか? それにしたって、この世界がどこまで広いのかわからないし、攻撃でどうにかなるものなのかもわからない。

 移動も封印の解除もすべてクーリャに任せている今、俺の方が役立たずなのだ。


『さて、力の回収を急ぎましょう』


 そう言って、次の封印の場所まで向かう。

 もうすでに、結構な力を取り戻したはずだ。

 今の俺が使える能力は、キャラシ閲覧、アイテム鑑定、レベルアップ処理、リビルドなど、おおよそ今まで使ってきたものばかりである。

 むしろ、俺の力はもうこれ以上ないと言っていい。あと残っているのは、クーリャの力だけだろう。

 そういう意味では、俺はもう必要ない気もするが、クーリャが降ろしてくれないので一緒について行くしかない。

 まあ、置いていかれても困るけどさ。


『よし、これで全部取り返せましたよ!』


『あれ、もう終わりですか?』


 次の封印場所まで来て、力を取り戻すと、クーリャはそう言って嬉しそうな声を上げた。

 その瞬間、クーリャの本体であった光の玉が弾け、新たな形を作り出していく。

 光が再構成されて現れたのは、一人の女性だった。

 きらきらと輝く銀髪に、夜の闇を切り取ったかのような宵闇色の瞳。青を基調としたドレスのような衣服を身にまとい、手にした杖にはまった宝石が、淡い青い光を迸らせる。

 太陽神ファーラーと対を成す神。その黒の目から、月の神、あるいは夜の神とも呼ばれる存在。クリティカルの神、クーリャの姿がそこにはあった。


「おお、姿も元に戻りましたね」


『それが、クーリャの本当の姿ですか?』


「本当の姿か、と言われると微妙なところですが、よく使っている姿ではありますよ」


 そう言って、クーリャは見せつけるようにその場でくるりと回って見せた。

 まあ、神様が人の姿をしているかどうかなんてわからないし、これが真の姿でもそうでなくても、大した問題にはならないだろう。

 力を取り戻して真っ先になるのがこの姿ってことは、よく使っている姿と言うのは本当だろうし。


「後はアリスだけですね。この調子でお互い元の姿に戻りましょう!」


『はぁ、まあ、それはありがたいんですが……』


 俺の力ってもう全部取り返したんじゃなかったのか?

 少なくとも、俺が自覚している能力はすべて取り返しているはずである。これ以上、どんな力があるというのか。

 いやまあ、ゲームマスターの力、という見方をすると、確かに足りないものはいくつかある。

 けれど、それは現実世界であっちゃいけないような能力だろう。

 例えば、好きな能力を持ったNPCを登場させるとか、ルールブックに載っていないオリジナルのスキルを生み出すとか。

 それができてしまったら、世界のバランスを崩すことになる。俺の手一つで、世界を掌握できると言っているようなものだ。

 だから、そういう力はないはずである。

 しかしそうなると、もう取り戻せそうな能力が思いつかない。他に何かあったっけ?


「しかしおかしいですね。もう反応が感じられないです」


『そうなんですか?』


「はい。さっきから探してるんですけど、うんともすんとも言いません」


 それは、もうないってことでいいんじゃないか?

 力をすべて取り戻したクーリャが元の姿に戻ったなら、俺もすべての力を取り戻した時点で元の姿に戻ってもおかしくはない。

 ただ、俺の今の元の姿はアリスの姿である。そして、アリスは現実世界にいて、きちんと体がある状態だ。

 もちろん、本当の姿である、高校生の姿になってもおかしくはないけど、俺はこの世界に来た時から、すでにアリスの姿だった。

 であるなら、俺の元の姿もまた、元の世界に存在している可能性もなくはない。

 要は、意識だけがこの世界に来てアリスの体に宿り、体の方は意識がなくなって植物状態、みたいな感じになっている可能性もあるということだ。

 正直、そんな状況にはなっていてほしくないけど、もしそうなら、どちらも元の姿はすでにある状態である。そこで、意識だけの俺が元の姿に戻ってはおかしいだろう。

 だから、元の姿に戻らないのではないか。


「そう、なんですかね?」


『俺にもよくはわかりませんよ。けど、もうない可能性は高いと思います』


「うーん、そんなことはないと思いますけど……」


 クーリャは少し不満そうに口をへの字に曲げながら、頬に手を当てて考え込んでいる。

 クーリャの中では、何かしらの確信があるってことだろうか。俺のまだ知らない能力がもしかしたらあるのか?

 そうだとしたら面白いが、ではその力はどこにあるのか。

 俺は一緒になって、考え込んだ。

 感想ありがとうございます。

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[一言] 本人も把握してない力かぁなんだろう
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