第五百四十二話:力を取り戻して
その後、何度も転びながら進み、山に辿り着いて、そこでもまた転びながら登ること数日。ようやっと力が封印されているという場所までやってきた。
そこにあったのは、巨大な長方形の光の壁だった。
クーリャと同じく、青を基調とした光で、壁の中心には赤い丸が一つ描かれている。
そして、重要なのが、壁の中には俺達と同じような光の玉が存在するということだ。
一瞬、誰かが閉じ込められているのかな? とも思ったけど、クーリャが言うには、あれこそが封印された力なのだという。
見た目一緒なんだけど、そんな雑な分け方でいいんだろうか。いや、ファーラーからしたら、閉じ込めておけるだけでいいんだから、わざわざこうやって封印されてるだけでも丁寧ではあるか。
『それで、取れそうですか?』
『ちょっと待ってくださいね……多分、ここに……』
そう言って、クーリャは壁に描かれている赤い丸に手を当てる。
しばらくうんうん唸っていたが、唐突に光の壁がはじけ飛んだ。
『うわ、びっくりした』
『あ、すいません、ちょっと調整に手間取ってしまいました。でも、よかった、ちゃんと開きましたね』
『そ、そうですね』
クーリャのことだから、てっきり下手打って防犯装置でも作動するのかと思っていたけど、案外あっさりと開いてびっくりである。
クーリャは壁があった場所に歩みを進めると、中にあった光の玉に触れる。
その瞬間、光の玉はクーリャの方に吸い込まれるようにして消えていった。
『それで力が戻ったんですか?』
『はい、多少は。でも、流石にこれだけではないみたいですね』
『まあ、でしょうね』
力を一定以下に分割するような場所らしいから、これで全部の力が戻ったなら、クーリャはどれほど貧弱だったのかと言わざるを得ない。
そういう意味では、俺の方は一つで済みそうだなとか思ったけど、ゲームマスターの力ってどういう扱いになるんだろう?
あの力は、別に俺の力ってわけではない。俺がたまたま、ゲームマスターをしていたから持っていただけの力だ。
今はシナリオを進めているわけではないし、仮にこの冒険がシナリオだとしても、俺はゲームマスターではないと思うんだけど、ちゃんと貰えるのかな?
もしかしたら、このままゲームマスターの力は失われてしまう可能性もあるかもしれない。
そうなったら残念ではあるけど、まあ、元の世界に戻れるならそれでもいいかな。
今はとにかく、カイン達と一緒にいる得体のしれない奴からコントロールを取り返したい。
『でも、これで多少は身体能力も戻るはずです。もうこけませんよ!』
『そうだといいですねー』
本当に身体能力が原因ならそうかもしれないが、なんとなく、素の能力な気がするんだよなぁ。
まあ、言っても変わらないのでそこらへんはちゃんとこける頻度が減ることを期待しよう。
『次はどこですか?』
『あちらの方角ですね。どんどん行きましょう』
そう言って、クーリャはその場を後にする。
さて、あとどれほどかかることやら。
愚痴を言いつつも、その後も力を取り戻す旅を続ける。
一番よかったのは、クーリャが空を飛ぶ能力を取り戻したことだろう。
今の俺達の姿は光の玉で、傍から見れば浮いているように見えるのだけど、だからと言って空を飛べるかと言われたらそんなことはなかった。
ちゃんと地に足つけて歩いている感覚があるし、ジャンプしたところでそのまま浮けるわけでもない。
だから、移動はかなり大変だったわけだけど、空を飛ぶ能力に目覚めたことで、移動がだいぶスムーズになった。
まあ、空を飛んでたら、こけるなんてこともないしね。これは予想外の形で裏切られた。
おかげで、力の回収はかなりサクサク進むことになる。
二か所、三か所と回る度に、クーリャは元の力を取り戻し、今となっては八割くらい力を取り戻せたようだった。
それだけあるならもうこの世界から出れそうだけど、一応、俺の力も封印されているようなので、それも回収してからと言うことになっている。
ただ出たいって聞いた時はちょっと疑ってたけど、ちゃんと俺を助ける気があったんだね。
『次はアリスの力のようですよ』
『ようやくですか。俺の力って、そんなに多くないんですかね?』
『さあ、それはわかりませんが、気配的にはそう多くはありませんね』
まあ、俺の力なんて後付けされたゲームマスターの力くらいだしな。
後はアリスの力もあるかもしれないけど、アリスの能力は今は画面の向こうでそのまま残っているし、俺自身に残っている力はそんなものなんだろう。
『ほら、見えてきましたよ』
『おー』
やってきたのはどこかの森の中だった。
現実では行ったことのない場所で、どこら辺にあるのかもよくわからない。
なにせ、空飛んで一直線に進んでるからな。たまに見知った場所も見える時があるけど、それも簡略化されているので下手すると見逃す時がある。
他の場所と同じように、光の壁に覆われていて、壁の中心に赤い丸が描かれている。
これ、何のマークかと思ってたんだけど、多分ダイスの1の目だな。
『スターダストファンタジー』において、判定には六面ダイスを二つ振ることが多いのだけど、そのどちらもが1の目だった場合、ファンブルとなる。
正確には、判定で振ったダイスの目がすべて1だったらファンブル、と言うことなのだけど、1の目はダイスの中で唯一赤く塗られていることもあり、赤い丸はファンブル、そして、赤い丸が太陽に見えることから、そこから転じて太陽神とも呼ばれることがあるようだ。
ファーラーが太陽神と呼ばれているのはそのせいかもしれないね。
『今開けますね』
クーリャは、もう慣れた様子で壁に触れ、壁を解除していく。
壁がはじけ飛び、中にある光の玉があらわになると、クーリャは俺を押し出した。
なんだかんだ、俺がこれを吸収するのは初めてだな。一体どんな感覚なのか。
恐る恐ると言った感覚でそっと近づいてみると、その瞬間、凄い勢いで俺の中に光の玉が吸収されていく。
特に痛みはないし、力が漲ると言った感覚もない。ただ、頭の中で、忘れられていた何かが思い出されたような感覚がした。
恐らく、これが力を取り戻すという感覚なのだろう。ちょっと、新鮮な感覚かもしれない。
『無事に力を取り戻せたようですね』
『これでいいんですか?』
『はい。頭の中で思い浮かべてみてください。使えるようになった能力がわかるはずですよ』
そう言われ、頭の中に能力を思い浮かべてみる。
浮かんできたのは、キャラシ閲覧と鑑定だった。きちんと、ゲームマスターの能力の一部である。
一回ですべて取り戻せるわけではないのかと思ったけど、クーリャもそうだったのだから、それ自体は不思議でもないか。
とにかく、俺でもきちんと力を取り戻せるとわかっただけでも収穫である。
この調子で、すべての力を取り戻したいものだ。
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