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第五百四十一話:亀の歩み

 まずは封印された力を取り戻す。それはいいのだけど、この神様本当に大丈夫だろうか?

 色のない世界で、俺はクリティカルを司る神、クーリャと出会った。

 そのクーリャから、ここはファーラーが作り出した異空間であり、脱出のためにはまず力を取り戻す必要があると教えられて、今はその力が封印されている場所まで歩いて向かっている最中である。

 ただ、その足取りは遅い。なぜかと言うと、とにかくクーリャがポンコツなのだ。

 足を躓かせて転ぶ、何もないところでこけるなんて当たり前で、体力がないのかすぐに休憩したがるし、挙句の果てには方向すら間違えるという。

 そもそも、この体は疲労と言う概念がないのではなかったのか。実際、俺は何日も歩いているはずなのに疲れとは無縁である。

 眠気すら起きないので、すでに正確な日数は覚えていないが、クーリャがちゃんと寝るので、おおよそそれと同じだけ日数が経っているのだろう。

 人間であるはずの俺より人間らしい神様ってなんだよ。


『すいません、まだ力が戻り切ってないようで……』


『まあ、別に構いませんけど、そんなんでこの先大丈夫ですか?』


 クーリャのおかげでだいぶ鈍い進行ではあるが、すでに結構な日数を進んでいる。

 どうやら、一つ目の力が封印されているのは、山の頂上のようだ。

 歩いていてわかったけど、この世界は現実の世界と似ているようで微妙に違う。

 最初にいたのは、俺が最初に降り立った場所である、クリング王国南部の未開拓地域と同等の場所のようだったが、進んでいってもコクロン砦はなく、ただ道が続いているだけだった。

 流石にマリクスの町はあったけど、それも家の数が少なかったりとだいぶ簡素になっていて、現実の世界を簡略化した世界なのかなと言う印象である。

 何となく、道も均されているところが多い気がするし、現実世界よりは歩きやすい地形な気がするけど、流石に山となれば起伏が激しいのは当たり前で、現状のクーリャのこけ率を見ると、まともに登れる気がしない。

 一回こけただけで麓まで転がり落ちるとかないよな? あったら俺はクーリャを殴るかもしれない。


『大丈夫です。今向かっているのは、私の力が封印されている場所。力さえ取り戻せば、こんな不調もきれいさっぱりなくなりますよ』


『そんな簡単だといいんですけどね』


 そもそも、封印ってどんな形なんだろうか。

 バリアみたいなものに守られているとか? 戦闘はないと言っていたから、何かボス的なものに守られているってわけではなさそうだけど。

 いい加減、この亀の歩みも疲れてきたので、早く力を取り戻して普通になって欲しい。


『それより、あっちはなんか妙なことになってるみたいですね?』


『え? ああ、そうですね。なんだか葛藤している感じです』


 ちらりと画面を見てみるが、そこにはアリスが頭を抱えて蹲っているのを、カイン達が慰めているって感じの光景が映し出されていた。

 今まで、アリスの演技に集中していて、ほとんど破壊活動を行ってこなかったファーラーだけど、やっぱりカイン達には怪しまれて気づかれたってことなんだろうか。

 それで、それを糾弾されて苦しんでる、と言ったところかな?

 だとしたらざまぁないが、そうなるともうアリスの演技など関係なく、世界を破壊しようと動き出すのではないかと言うのが心配である。

 一応、画面の向こうの世界とこちらの世界では時間の進み方が違うのか、それとも俺の感覚がおかしいのかわからないけど、あちらの世界の方が時の流れが遅いように感じる。

 だから、こちらで数日経過しても、あちらでは一日も経ってないってことがよくあった。

 おかげで見逃してもそこまで時間が進んでないってことが多くて助かっているけど、それはそれで戻った時に大変そうだなと思わなくもない。

 まあ、それはいいとして、早いところ力を取り戻して戻らなければ、ファーラーによる時代の粛正が始まってしまう。

 仮に始まっても、一日や二日でどうにかなるわけではないと思うが、それでも犠牲者は出てしまうだろうし、早いところ戻って止めないとまずいことになる。

 そういう意味では、カイン達には今まで通りアリスとして接してほしかったというのはあるけど、ちゃんと俺ではないと気づいてくれたという嬉しさもあってちょっと複雑な気持ちである。


『うーん、あれって本当に姉なんでしょうか』


『違うんですか?』


『なんというか、姉にしては純粋すぎるというか、もしこれが正体がばれて糾弾されているシーンだとしたら、こんな悩まずに正体を明かして襲い掛かってきそうなものですけど』


『まあ、それは確かに』


 ファーラーの性格を完全に熟知しているわけではないが、ファーラーは誰かが苦しむ様を見るのが好きな神様だ。

 まあ、その後に困難を乗り越える姿を見るのがセットではあるようだけど、であるなら、正体がばれてしまったのなら、カイン達を襲ってぼこぼこにし、適当なところで逃げて世界を破壊して回り、何とか生き残ったカイン達が這いあがって止めに来る、みたいな展開を望んでいそうな気がする。

 それを踏まえると、確かに純粋すぎる気がしないでもない。

 こんな、自分は何者なんだ? みたいな絶望顔しないだろう。そう考えると、これは本当にファーラーなのか怪しくなってくる。


『ファーラー以外にこんなことする人に心当たりは?』


『うーん、確かに姉に同調していた神は何人かいましたけど、大体は前回の粛正の魔王に殺害されました。そして、姉はそんな彼らを生き返らすことなく、人々に自分を崇めさせるために封印しているようですから、わざわざアリスの体を乗っ取ろうとする神はいませんね』


『じゃあ、あれはいったい誰なんだ』


『さ、さあ……』


 ファーラーであったなら、まだ納得はできるんだけど、ファーラーですらないのなら、一体誰がアリスの体を操作しているんだろうか。

 考えられる可能性としては、俺の残留思念的なものがあって、それが操作してるとか?

 でもそれなら、カイン達はアリスのことを俺だと認識しそうだし、こうして葛藤しているのはおかしい。

 この葛藤は、どう見てもカイン達に時代の粛正について咎められたからって感じがするし、いくら残留思念とは言っても、俺の意思を反映しているならそんなことするはずがない。

 それとも、俺のブラックな部分が出たとか? 全く覚えがないけど、心の底ではこんな世界壊れちまえとか思ってたりする? だとしたら怖いな……。

 クーリャが言うことだから、もしかしたら誰かしらの神様が操作しているという可能性もなくはないけど、目的がわからないし、それはそれで怖いところ。

 誰が操作しているかはわからないけど、早いところ力を取り戻して戻らないといけないって言うのは確かだな。


『とにかく、先を急ぎましょう。何されるかわかったもんじゃない』


『そうですね。私も早くここから出たいですし、あちらの世界のことは戻ってから考えましょう』


 まずはやれることを一つずつやっていこう。

 そう思いながら、山を目指していくのだった。

 感想ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] もしかしたら粛正前の世界を模した世界なのかもしれない [一言] 神様ポンコツだった……
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