第五百三十九話:今行きたい場所
主人公の親友、カインの視点です。
各地に残ったポータルは、今も残っている。
元々、意図的に消さない限りはずっと残り続けるものなので、アリスさんが意識を乗っ取られようが、使えるものなのだ。
だから、俺は遠慮なくそれを使わせてもらい、今はラズリーの下へとやってきていた。
「なるほど、話はわかりまちた。とびっきりいいナイフを作ればいいんでちね?」
「はい、できますか?」
「そりゃあ、仕事をするからには常に最高のものを提供するでちが、それでどうにかなるかはわからないでち」
ラズリーは、この世界では珍しい【ブラックスミス】のクラスに就いている。
武器作製に特化したクラスだけあって、その品質は高いし、何なら追加効果だってつけることができる。
アリスさんなら、同じようなことはできるだろうけど、そのアリスさんがあんな状態であることを考えると、ラズリーに依頼するほかない。
ただ心配なことがあるとすれば、ラズリーのレベルだ。
ラズリーのレベルは3。今の俺達と比べると、かなり低い。
もちろん、武器作製スキルは最低限取っているし、それさえ使えればそこまで品質に差はできないけど、レベルを十分に上げた【ブラックスミス】と比べたら、少し見劣りする。
あのレベル上げの時に一緒に上げていればよかったのかもしれないけど、ラズリー自身が、戦う気はないと言っているから、仕方なかったことだろう。
「それでもかまいません。今、私達の伝手で最もいいものを作れる職人はあなたしかいないのですから」
「大げさでち。あちきはただのしがない職人でち」
しがない職人はミスリル武器を大量に売って他の鍛冶屋と敵対はしないと思うけどね。
まあ、それはともかく、現状いい武器を手に入れるとなったら、ここに頼む以外に方法がない。
一応、レベル上げの副産物で手に入った武器があるっちゃあるけど、多分作った方が強い。
今なら、覚醒の石もたくさん手に入っているし、武器覚醒をすれば強力な武器を量産することもできるだろう。
「ナイフに関しては、了解したでち。他に作るものはあるでちか?」
「今のところはそれだけで。ただ、できるだけ多く作って欲しいです」
「わかりまちた。お代は……そんなこと言ってる場合でもないでちね」
「アリスさんがあんな調子ですからね……事件が解決したら、必ずお支払いしますので、どうかよろしくお願いします」
「ツケにはしない、とは言いまちたが、これは仕方ないでちょう。後で割増金を請求してやるでち」
割増金は怖いが、まあ、これでナイフに関しては問題ないだろう。
俺はラズリーに礼を言いつつ、城へと戻る。
「あ、戻ってきたか」
戻ると、なぜかポータルの前にシリウスがいた。
このポータルはいたるところに繋がっているから、どこかへ行こうとしていたのだろうか。
いや、戻ってきた、と言っていたから、俺を待っていたのか?
何か急用でもできたんだろうか。
「戻りました。何かありましたか?」
「アリスが姿を消した」
「……それは穏やかじゃないですね」
村の破壊を断念してから約一週間。
ずっと部屋に引きこもっていて、食事も部屋に運ばせていたようだけど、つい先ほど食事を持っていくと、部屋にアリスさんの姿はなかったようだ。
窓が開け放たれていたので、恐らくそこから飛び降りて行ったんだろうとのこと。
食事を運んでいたメイドは即座にシリウスに相談し、シリウスはサクラにひとまず城の人達への聞き込みを任せ、自分は俺が帰るのを待っていたとのことだった。
今の時間は昼過ぎ。朝はいたはずだから、いなくなったのはその後か。
窓から飛び降りたからと言って、今更アリスさんが飛び降り自殺したなんて考える人はいないけれど、どこかに行きたいなら堂々と出ればいいところを、わざわざ窓から出たということは、何か理由があるんだろう。
しかし、どんな理由だ? 俺達に隠れてやりたいことでもあったってこと?
でも、アリスさんの設定的に、俺達に隠し事をするとは考えにくい。いや、こちらの隠し事を黙ってくれる度量の広さはあるけど、こちらが不利になるような隠し事はしないはず。
そうなってくると、まじで理由がわからない。
「カイン、お前はアリスのことについてはよく理解しているはずだろ? 行先に何か心当たりはないか?」
「そう言われましても……」
アリスさんは【ワープポータル】が使えるし、なんだったら【テレポート】も使えるから、行先には無限の選択肢がある。
いくらカインがアリスさんのことを崇拝に近い感情で見ているとしても、流石にこの状況では……。
……いや、落ち着け。何のための設定なんだ。
俺は設定をする際に、アリスさんのことを尊敬していて、アリスさんのことなら知らないことはないと書き込んだ。
もちろん、知らないことはないと言っても、ニュアンス的にはお互いに隠し事なんてないくらいのことだけど、カインがアリスさんのことを日頃からよく見ているのは確かだ。
カインの気持ちになって考えてみれば、答えは見えてくるんじゃないだろうか?
「ちょっと待ってください……」
俺は目を閉じて集中する。
カインから見て、最近のアリスさんはどうだった?
アリスさんは、人々を助けることに何のためらいもなかった。それは、時代の粛正をするという目的を持っていたとしても変わらない。
その精神はとても強く、俺達に見本として村を破壊して見せるということすら中断して、引き下がったほどだ。
アリスさんの中で、優先順位が一番高いのは俺達を、誰かを助けることである。これは間違いない。
では、時代の粛正をするという目的はどうか?
言動からして、アリスさんは時代の粛正をすることを、世界を正すためと称している。世界を破壊することで、間違っていることを正し、元の形に修正する、それがアリスさんの考える時代の粛正だ。
しかし、それはアリスさんの行動原理と真っ向から対立する。
言っていることのニュアンスとしては、多分そこそこ同じ方向を向いている。けれど、手段を考えた時、世界を破壊する行為は、誰かに悩みを生ませる行為でもある。
中には、あの村の村人のように、平和に暮らすことを願う人も少なくないだろう。
こうなってくると、誰かを助けることと、世界を破壊することを同時に行うことはできない。
アリスさんの中で、誰かを助けることが優先順位の高いことに間違いはないが、同じように世界の破壊も優先順位が高いとしたら、アリスさんはどう思うだろうか。
きっと、どうすればいいのかと葛藤するはずである。
アリスとしての行動理念と、粛正の魔王としての行動理念、その二つがぶつかり合って、どうしたらいいかわからなくなっている。
そう考えれば、ここまで引きこもっていたことにも納得できるし、いきなりいなくなったことにも説明がつく。
もし、この仮定が合っているとするなら、アリスさんが向かうのは、人が少ない場所だろう。
どちらにも縛られることのない場所に自分を閉じ込める。それが、現状できる最も効果的な策だろうから。
今のアリスさんが知っている場所で、人気が少なく、誰の干渉も受けない場所。思い至る場所としては、一つしかない。
「……シリウス、サクラを呼び戻してください。恐らく、場所がわかりました」
「ほんとか!? よし、今すぐ呼んでくる」
シリウスは足早にこの場を去っていく。
アリスさん、あなたはどこまでも優しい人ですよ……。
そんなことを思いながら、シリウス達が戻ってくるのを待っていた。
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