第五百三十六話:新たな仲間
『まずは自己紹介から始めましょうか』
そう言って、青色の光の玉は軽く会釈をした。
まあ、会釈したって言っても、見た目は光の玉だから、全く変化はないわけだけど、なんとなく、感覚的にそんな感じがした。
『私の名前はクーリャ。一応これでも、神と呼ばれていた存在です』
『クーリャ……様……』
クーリャと言えば、『スターダストファンタジー』においては結構有名な神様である。
なにせ、この人が司るのは決定的な成功。すなわち、クリティカルだからだ。
運を司る神と言ってもいいかもしれないね。
『スターダストファンタジー』におけるクリティカルの効果は色々あるが、大抵は絶対成功である。
例えば、達成値的にどうあがいても失敗になるような判定でも、クリティカルさえ出せば、それを無視して成功にすることができる。
単純な話、クリティカルを出し続けることができるのなら、どんなに回避が高い相手だろうが攻撃を当てられるし、どんなに命中率の高い相手が攻撃してこようが避けられるわけだ。
そんなクリティカルを司る神様だから、信仰まがいのことも起きていて、『スターダストファンタジー』をプレイするプレイヤーの中には、ダイスを振る前にクーリャ様に祈る人も少なからずいるらしい。
まさかこんなところでそんな大物に会えるとは思っていなかったが、なんでこんなところにいるんだろうか?
『様は結構です。私はもう、神と呼ばれるにふさわしい存在ではありませんから』
『どういうことですか?』
『アリス、あなたは、この世界における、時代の粛正について知っていますね?』
それは、一応知っている。
約三千年前に起こった時代の粛正。それによって文字通り時代が粛正され、わずかな生き残りによって今の文明が作り上げられた。
その際、粛正の魔王として選ばれてしまったのがオールドさんであり、オールドさんは自分の意思とは関係なく、神の意思によって時代を粛正し、その時代の人々すべてから恨まれる立場となった。
だが、オールドさんもタダでは終わらず、神界に進出し、自分を粛正の魔王に仕立て上げた神々を抹殺し、その後行方をくらませた。
詳しい事情はよくわからないけど、恐らくはグレンがオールドさんを正気に戻し、それで復讐のために神界に向かったってことなのかな?
詳しくは聞いてないのでここらへんは想像だけど、大体そんな感じだろう。
『その時代の粛正を引き起こしたのは、私の姉、ファーラーなのです』
『ああ、なるほど……』
ファーラーはクーリャとは対を成す神であり、致命的失敗を司る神である。すなわち、ファンブルを司る神様ってことだね。
判定の仕様上、クリティカルよりファンブルの方が出にくくはあるんだけど、それでも出る時は出る。
『スターダストファンタジー』におけるファンブルの扱いは、クリティカルの真逆で、絶対失敗だ。
たとえ最低値でも成功できる判定でも、ファンブルが出てしまうと失敗になってしまう。
春斗がクリティカルばかり出すクリティカラーと言われるのに対して、ファンブルばかり出す人はファンブラーと呼ばれたりもするね。
クリティカルと違って、出ては困るものだから、一部ではダイスの女神様と呼ばれて妙な宗教が出来上がったりしている。
もちろん、出るなと言う意味でね。
時代の粛正を引き起こしたのがファーラー様だとしたら、確かにその妹であるクーリャ様からしたら、責任を取りたくなる気持ちもわかる。
しかも、また新たに同じようなことをされようとしているんだから、自分が姉を止めていればこんなことにはならなかっただろうと思うのも当然だろう。
別にクーリャ様は悪くない気もするけど、なんとなく、そういうの気にしそうな性格だよね。
『前回の時代の粛正の時、私は姉を止められなかった。それどころか、姉に言われるがままに騙されて、こんなところに封印される形になってしまいました』
『封印って、ここはどんな場所なんですか?』
『姉が作った、異空間とでも言えばいいのでしょうか。世界から断絶された場所であるのに間違いはないです』
なるほど、死後の世界じゃなかったわけか。
つまり、どちらかと言うと、俺は閉じ込められたって感じなのかな?
あれ、でも、俺をこんな状況に陥れたのってアルメダだよな。
『アルメダは、姉があなたを騙すために演じていた偽りの姿です。本物のアルメダは、すでにいません』
『まじかぁ……』
最初っから騙されてたわけだ。
なんか、悔しいな。いや、わかるわけないんだけど、いいように掌の上で転がされていたのが気に食わない。
そもそも、世界を壊して、それを再建する様が見たいってなんだよ。
神々にとってはただの遊びかもしれないけど、ちゃんとこの世界の人達は生きてるんだぞ。
時たま、小学生とかがアリを捕まえて足をちぎりとっていったりするのを見るけど、あれとやってること変わらない気がする。いや、世界が滅ぶ分、こっちの方がスケールがでかい。
自分で楽しむ分にはいいけど、せめて誰にも迷惑が掛からない場所でやって欲しいものだ。
『それで、待っていたって言ってましたけど?』
『はい。あなたはこの世界を救うための最後のキー。なくてはならない存在なのです』
『そんな大げさな……』
そんなたいそうなこと言われても、俺自身は別に凄くもなんともない。
凄いのはアリスと、ゲームマスターの力であって、俺自身はただの高校生なのだから。
それで世界を救うための最後のキーとか言われても説得力がない。
それとも、俺には何か知らない力でも眠っているんだろうか? 中二病じゃあるまいし。
『私は、ここに捕らわれてから、何もすることができなかった。けれど、あなたがいれば……』
『つまり、ここから出るのに協力してほしいと?』
『端的に言えばそうなります』
なんか一気に重要度が下がった気がする。
いや、いいんだけどね? 俺だってここから出たいし、同じ目的を持った協力者がいるのは喜ばしいことである。
それに相手は神様だ。少なくとも、今の俺よりは役に立つだろう。
『いいですよ。ドジってここに来たけど、まだチャンスがあるなら、やり直したいです』
『ありがとうございます。よろしくお願いしますね』
女神クーリャが仲間に加わった、ってところかな。
神様を仲間にできるなんて、普通に凄いことだと思うけど、多分そんな簡単にはいかないんだろうなと言うことも理解している。
なにせ、クーリャ様自身が、何もできなかったと言っているのだ。
この異空間がどういう性質を持っているかは知らないけど、クーリャ様の力でも出られないほど強固なものか、あるいはクーリャ様自身が力を削がれてるかしていそうだ。
まだこの世界がどういうものなのかはっきりしていないから何とも言えないけど、まずは脱出する手段を探すのが先決だね。
そんなことを考えながら、まずはお互いにできることを確認することにした。
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