表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/677

第五十五話:王子との約束

 謁見の間には以前来た時と同じく数人の騎士や大臣らしき人々と共にエミリオ様が待っていた。

 みんな私の事を幽霊を見るかのような目で見つめてくる。どうやら本気で死んだと思われていたらしい。

 確かに、俺の実力は見せたことはないが、回避能力に限れば披露したはずなんだけどな。

 驚いているのはエミリオ様も同様であったが、他の人と違ってどこか安心したようなそんな表情だった。


「それで、各地の森を探し回ってようやく材料を見つけたと」


「そういうことになるの」


 俺はこの数日で起きたことをエミリオ様に報告する。

 もちろん、ルミナスさんやルミナスの森に関しては伏せさせてもらった。

 一応、魔女はこの世界では悪魔の使いなどとマイナスのイメージを持たれているようだし、せっかくルナサさんと再会できたのに魔女狩りみたいな組織が森に突っ込んでいったら笑えない。だから、いくつかの森を回って偶然見つけることが出来たという体で話した。


「殿下、騙されてはなりませんぞ。この短期間で複数の森を回るなど不可能です!」


「確かに信じられんが、アーノルドによればアリスは一日で奈落の森まで辿り着けるだけの足があるのだろう? それなら可能なのではないか?」


「よく考えてください。そもそも馬車で三日かかる道のりを徒歩で一日で辿り着くなど物理的に不可能です。大方、この小娘に唆されて途中で引き返したのでしょう。監視の目を欺こうとするとはとんだ逆賊ですな」


 馬車で三日、徒歩ならその倍くらいか? それくらいの時間をかけなければ本来は奈落の森に辿り着くことはできない。だから、時間的に考えれば今はちょうど奈落の森に着いた程度の日数だ。

 だから、アーノルドさんが言っていたという、俺が夜の奈落の森に入っていって死んだって言う証言は矛盾が生じる。時間的に言えば、途中まで歩いて引き返してきたくらいの期間なのだから。

 宰相は俺がアーノルドさんを唆して監視の目を取っ払ったと思っているようだが、だとしたらそれこそ矛盾が生じるだろう。

 そもそも、俺が監視の目を逃れたいというならその理由は何だ? 逃げるためだろう?

 俺が出発する前に言われていた通り、王様が臥せっているという情報を獣人の国に持ち帰り、弱っている今のうちに戦争を仕掛けるっていう目的があるのだから、監視の目を欺いたのならそのまま行方をくらませるべきだ。

 なのに、俺はこうして城に戻ってきている。死んだとまで報告されているのにわざわざ戻ってくるメリットなんて一つもないし、仮にもっと情報を得ようとする場合であっても、そうやって警戒されている場所にそのまま登場したら疑われるに決まっている。どう考えてもリスクが高すぎるのだ。

 宰相というからには頭がいいんだろうけど、俺にはそうは思えない。行き当たりばったりで発言しているようにしか思えないんだよなぁ。


「アーノルドを欺いたとして、ここに戻ってきた理由は何だ? わざわざ戻ってくる必要などないだろう」


「恐らく、欲が出たんでしょうなぁ。病で臥せっている陛下に毒でも盛って確実に息の根を止めておきたかったのでしょう。治癒術師なのにわざわざ薬師の真似事をしようとしたのもそのためでしょうな」


 確かに、病で臥せっているのと死んでいるのでは死んでいた方が攻めやすいのは確かだ。国王が死んだとなれば国は混乱するし、次の国王を立てるまでは無防備もいいところだ。

 ここで薬と称して毒を盛り、殺すことが出来れば圧倒的な隙を作り出すことが出来る。だからこそ、治癒術師でなく薬師の真似事をしようとしたとすれば筋が通る。

 そう思っているんだろうけど、そんな回りくどいことをするならそもそも初めから薬師を名乗ればいいだけの話だ。わざわざ治癒術師として潜入する必要なんてどこにもない。

 そもそも、俺を呼んだのは国王自身だ。呼ばれなければ俺はまだシュテファンさんのところで兵士育成に精を出していただろうし、国王と知り合うこともなかった。

 国に対して何も思うことはないし、国王がどんな人物であろうと知ったことではない。そんな俺がどうして国王を暗殺せねばならないのか。

 仮に俺が獣人の国の手先で、本当に国王を殺そうとしている暗殺者だとしたら、それは俺を呼び込んだ国王の不手際に他ならない。その程度で国王が死ぬくらいの軟弱な防備では、何もしなくてもいずれ攻め込まれていただろうよ。


「材料を見つけたなどという証言も真っ赤な嘘。初めから毒を忍ばせていたに違いありません。さあ殿下、躊躇うことなど何もありません、この逆賊をさっさと処刑してしまいましょう」


「……なあ、セレン」


「は、何でございましょう殿下」


「お前は何をそんなに焦っているんだ?」


 エミリオ様の冷めた視線が宰相に突き刺さる。

 そう、彼は明らかに焦っていた。俺が謁見の間に入った時に一番驚いていたのはこいつだし、今もこうして早口に捲し立てるように言葉を喋っている。

 最初の反応からして、こいつはアーノルドさんの報告を信じていたはずだ。言っていることは常識に当てはめればそんなに間違っちゃいないが、少なくとも俺が死んだということは信じていたように思える。

 恐らく、初めから俺を殺す気でいたんじゃないだろうか。アーノルドさんに適当なタイミングで俺を殺すように命じていたのかもしれない。アーノルドさんの言ったという報告はあくまで建前であり、本当は自らの手で殺したのだとそう思っていたわけだ。

 しかし、どういう言うわけか俺は生きてここに戻ってきてしまった。こうなると、どうにかして俺を追い出さなければいけなくなる。

 なにせ、俺はエリクサーを作れると公言しているのだ。それがどんなに荒唐無稽な話でも、もしかしたら王様の毒を治される方法があるかもしれないと考えたら排除しておくことに越したことはない。

 だからこうして俺の事を処刑しようとしているのだ。そして、そうして焦っているということ自体がある意味で自白しているようなものだとも言える。

 エミリオ様も薄々感づいたのだろう。信用していたはずの宰相にああいう視線を向けるということは、疑っているということに他ならないのだから。


「な、何をおっしゃいます。私はただ、国に仇名す逆賊を処刑した方が良いと進言しているだけでありまして」


「そうか」


「さあ殿下、ご決断を」


「そうだな。お前の話が本当ならアリスは処刑すべきかもしれない」


「おお、では!」


「だが、俺はアリスと一つ約束をしていてな。誓約書も書いている。アリス、内容は覚えているな?」


「はいなの」


 エミリオ様との間に結ばれた誓約書。俺としては単なる口約束でもよかったんだけど、それだとエミリオ様が安心できないだろうと思ってわざわざ誓約書まで書いたのだ。

 その内容は単純なこと。


「私はクラウス陛下を必ず回復させる。私はクラウス陛下を殺さない。もしクラウス陛下を助けられなかった時はこの命を差し出す、なの」


 この世界での誓約というのは結構重要な意味を持つらしい。誓約魔法という魔法の一種で、これを使用して結ばれた誓約は双方の同意がない限り破ることはできず、もし破った場合は想像を絶する痛みを味わった後に死ぬことになる。

 まあ、今回の場合は王様を助けられなかったらどのみち俺は死ぬことになるんだけど。

 つまり、俺はどうあがいても王様を救わなくてはならないわけだ。


「誓約がある限り、アリスは陛下を殺すことはできない。これから毒殺しようとしている相手にわざわざそんな誓約を立てると思うか?」


 静かに告げるエミリオ様に、宰相はごくりと息を飲むしかなかった。

 感想ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さーて!どんどん追いつめて行くぞぉ~!
[気になる点]  なかなか壮絶な誓約魔法(^皿^;)だけど令和の保険証書やらのクッソ細かい文言を知る身としてはザルみたいな契約ですよね、たぶんだけどこれなら王様が息を引き取ったとしてもアリス(様々な復…
[一言] 宰相が焦っている理由は次回以降で明らかになると思いますので エリクサーを作れる事と馬車以上に速い移動速度の証明をしてあげましょう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ