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幕間:思わぬ事態

 過去よりさまよいし魂、イグルンの視点です。

 なにやら、今はややこしい状況になっているようです。

 と言うのも、私達は、打倒粛正の魔王を掲げ、レベル上げを続けてきました。

 アリス様は、どうやらレベルを上げることができるらしく、それを利用してダンジョンへと潜り、魔物を数百体と倒すことによって、一気に未知の領域のレベルへとみんなを至らせました。

 正直言って、これだけでも、私はめまいがする思いでした。

 確かに、私が生きていた時代でも、高レベルの冒険者というものは存在しました。しかし、いくら高レベルと言っても、せいぜいがレベル20とか30程度のものです。

 もちろん、今の時代ではレベルアップの仕組みが変わったのか、その気になればレベル80とか行けるようになっているようですが、能力値的には過去の時代の方が圧倒的に上です。

 では、アリスさんの行うレベルアップはどうなのかと言うと、過去の高水準の能力値でありつつ、さらにレベルも100を超えるような、すさまじい数値を実現しているのです。

 二つの時代のいいとこどりをしたような形であり、しかも、それを誰もが実現できるという壊れっぷり。

 まさか、私ですらそんな領域に足を踏み入れることになるだなんて思っていませんでした。

 粛正の魔王は、文字通り時代を粛正する恐ろしい魔王だと聞いていますが、正直ここまでレベルを上げることができるなら、余裕で退けられるのではないかとも思いました。

 そうしてレベル上げを終え、決戦の日。私達は、後詰の部隊として、町で待機することになっていました。

 と言っても、これは万が一のためであり、もしかしたら粛正の魔王が出現しない可能性もあると聞かされていました。

 まあ、世界を滅ぼしかねない力を持った人が現れるかもしれないとなれば、こうして準備をしておくことは大切ですが、中には不満に思う人もいたようで、アリス様達が山へと向かった後、適当にぶらついている人もいました。

 そうしてしばらく待機していると、カイン様達が戻ってきました。

 途中、連絡があって、どうなることかとひやひやしておりましたが、この様子を見ると、無事に事を終えたようです。

 ひとまず安心し、ほっと息を吐きましたが、どうやら自体はそこまで単純ではない様子でした。何しろ、アリス様とサクラ様の姿が見えないのです。


「皆さん、ちょっと集まってもらえますか?」


 カイン様が私達をまとめ、一か所に集めます。

 いったい何事かと思っていると、カイン様の口から事の顛末が語られます。

 簡単に言えば、今のアリス様はアリス様ではなく、時代の粛正を目的としたただの冒険者、と言うことのようです。

 時代の粛正を目的としているのに、ただの冒険者ってことはないと思いますが、ともかく事件が起こり、アリス様の意識は別人のものとなってしまったようです。

 これをどうにかするために、協力者が神界へと行く術を探している様子。

 私からすると、神界へ入り込むなど、神への冒涜とも思える行為ですが、確かに今の信仰には疑問があります。それも、今回の事件の原因が、太陽神ファーラー様のせいかもしれないとなれば、行くのもやむを得ないのではないかとも思えました。


「今のアリスさんは、私達と冒険を始めた頃にまで記憶が戻っていると言っていいでしょう。そこに、時代の粛正と言う目的が加わったものと考えてください」


「それ、やばくない? 何かわかってないけど、とりあえず世界を壊そうとしているってことでしょ?」


「はい。これを解決するには、元凶を叩くしかありません。ですが、それには時間がかかる。なのでそれまで、どうにかしてアリスさんを留めておく必要があります」


「留めておくって言ったって……」


 ただたんに留めておくと言っても、それはとても難しいことです。

 例えば、眠らせて大人しくさせるという手を考えたとしても、アリス様は状態異常への耐性がとても高い、と言うより効かないらしいので、それは不可能でしょう。

 他にも、縄などで縛っておくというのも、力が強すぎて無理ですし、かといってアリス様の言うことをそのまま聞くのはそれはそれで問題があります。

 力に関しても、粛正の魔王としての力が宿っているようで、今の私達ですら足元にも及ばないようなレベルになっているのだとか。力でねじ伏せるのは無理があるでしょう。

 では、どうするのか。それは簡単なようで、意外と難しい内容でした。


「最初の依頼は、村を破壊しろ、らしいですね」


「村を破壊って……ここもまずいのでは?」


「その可能性もあります。なので一応、町の外で待機してもらっています。それも含めて、対策を立てたいのです」


「対策ねぇ……」


 村の破壊、いつものアリス様なら到底出ないであろう発言です。

 もしそれをカイン様達が実行するのを望んでいるのだとしたら、この町ももしかしたら危険かもしれません。

 仮に大丈夫だとしても、アリス様が望む依頼をクリアしなければ、アリス様の機嫌は悪くなる一方でしょう。

 下手をすれば、自分でやるとおっしゃって、一人で村を破壊してしまう可能性だってあります。

 そうなれば、罪のない人々が犠牲になるだけでなく、アリス様までもが悪者になってしまいます。

 アリス様はアリス様なのだとしても、それは別人と言ってもいい意識。それで悪者になって、後で苦労することになるのは避けたいでしょう。


「どうにかして、目的をすり替えるとか?」


「例えば?」


「うーん、破壊という言葉を別の意味として受け入れさせるとか」


 ノクト様が頭を捻ってそう答えられました。

 別の意味として受け入れさせる、つまり、破壊とは物を壊したりすることではなく、別のこと、例えば、ごみを取り除くこと、とかに変えるということでしょうか。

 確かに、言葉の定義がはっきりしていなければ、強引に別の意味にこじつけることは可能かもしれません。

 ただ、それをアリス様が素直に受け入れるのかと言うのが問題ですが。


「そんなので納得すると思う?」


「それはわからん。けど、他に方法あるか?」


「まあ、それはそうだけど……」


 私が思いつくところでは、初めから廃村となっている場所を破壊する、くらいでしょうか。

 破壊するというのは、人に使う言葉ではないと思いますし、指しているのは建物の破壊でしょう。

 であるなら、壊しても構わない場所でそれを実行すれば、目的も果たせていいのではないかと思います。

 まあ、そんな都合よく廃村があるかと言われたらわかりませんが。


「壊せって言うのはお前達が住んでいた村って話なんだろう? なら、ここは自分達の村ではない、と言い張れば引き延ばせるんじゃないか?」


「それはそうかもしれませんが、いずれどこかで妥協してしまいそうで……」


「ああ……」


 初めての依頼と言う形で村を破壊しろと言っているのなら、指定した村以外を破壊するのは間違っているかもしれませんが、いつまでも初依頼がクリアされないのは保護者の立場からしても不服なことでしょう。

 いきなり王都のような巨大な町を破壊しろとは言わないとは思いますが、別の手ごろな村が見つかったら、破壊しろを言ってもおかしくはないですよね。


「どうしたものか……」


 いずれの案も、確実に実行できるかはわかりません。

 まさかこんなことになるとは思っていませんでしたし、私も困ってしまいました。

 私は腕を組みながら悩む皆さんと一緒に、何かいい案が浮かばないものかと額にしわを寄せていました。

 感想、誤字報告ありがとうございます。

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[一言] 村という仕組みを破壊して町に昇格させよう
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