幕間:力を取り戻しても
元粛正の魔王、オールドの視点です。
「さて、と。どうしたものかな」
カイン達が去った後、静かになった洞窟の中で、俺はこれからのことを考えていた。
元々は、こんなことになる予定はなかった。
ファーラーが再び時代の粛正を起こそうとしていたことは何となくわかっていたし、そのために俺の存在が邪魔になり、消そうとしてくることもわかっていた。
だからこそ、なるべく見つからないように慎重に動き、ファーラーに見初められそうなプレイヤー、すなわちアリスをどうにか助けられないかと思っていた。
今の俺では、到底ファーラーには敵わないが、俺の力の一部であるスターコアを回収することができれば、多少の抵抗はできる。しかし、それらを自分で集めることは禁止されていた。
力を隠すために、わざわざスターコアと言う別のアイテムの形にして拡散したのに、それすらも封じてくるとか本当に意地が悪い神だが、逆に言えば、どうにかして集めることさえできれば、十分に力を取り戻せる可能性はあった。
結果的に、最後はこちらが手助けする形になってしまったけれど、アリスは見事にスターコアを七つ集め、俺の力を取り戻してくれた。
後は、アリスからスターコアを回収し、ファーラーの目をこちらに向けさせれば、他のプレイヤーが巻き込まれる心配はない。
力を取り戻した俺ならば、再び操られる心配はないだろうし、もし万が一操られてしまうとしても、アリスならば恐らく何とかしてくれるという自信もあった。
粛正の魔王となる犠牲者は俺だけで十分である。だから、こうして色々と手を回していたわけだけど、詰めが甘かった。
霊峰スタルに祭壇があると聞いた時、ファーラーの方も何かしらの準備を整えているとは思っていたけど、まさか強制的に転移させてくるとは思わなかった。
何のために危険を冒して自らの根城に誘い込んだのか。あの時だって、気づかれないように結界で身を守っていたというのに。
結果として、アリスは粛正の魔王になってしまった。
だが、何とか間一髪、意識を封印することに成功し、すぐさま時代の粛正が起きるという事態は避けることができた。
後は、元凶であるファーラーをどうにかして倒すことができれば、一応の解決である。
しかし、さらに予想外は続き、今度はアリスの設定としての意識が芽生え、さらにその目的が時代の粛正と言う意味不明な状況。
幸いにも、元の設定と記憶がごっちゃになっているせいか、時代の粛正を行うのはあくまで仲間であるカイン達であるという認識らしく、自分から動くことはなさそうだったが、それでも何かの拍子に暴れ出す可能性はある。
ファーラーの対策に集中したいのに、これでは全力を出すことも難しい。
「すぐさま世界が破壊されることはなくなった。が、これはいつ爆発するかもわからない爆弾を抱えているような状況。早いところどうにかしなくちゃいけないのは確かなんだけど……」
力を取り戻したとは言っても、それは最低限のものである。
うざったい言葉や行動の制限が多少緩和されたくらいで、本調子には程遠い。
もっと力を取り戻すためには、さらにスターコアが必要になってくるけど、いくら制限が緩和されたとは言っても、俺自身が動けばすぐに察知されて新たな制限を加えられてしまうかもしれない。
動くとしたら友人くらいなものだけど、それでも時間はかかるだろう。
「アリスを殺してしまえば、多少楽になると言えばなるけど、それは流石に可哀そうか」
今回、ファーラーはアリスを粛正の魔王にするためにだいぶ段階を踏んだようだ。
元々、粛正の魔王に選ばれるということ自体がかなりの低確率である。どのような基準で選んでいるかは知らないが、プレイヤーの中でも何かしらの適性を持つ奴じゃなければだめなんだろう。
今回はアリスが適正を持っていた。だったら、アリスがいなくなってしまえば、適性を持つ者はいなくなり、粛正の魔王は誕生しないのではないか?
もちろん、これはただの可能性の話で、もしかしたらアリスがいなくなっても、他のプレイヤーがその役目を引き継いでしまうかもしれない。安易にアリスを殺すのは、早計だろう。
それに、曲がりなりにもアリスは俺を助けてくれた恩人でもある。こちらの都合で、殺すのは流石に可哀そうすぎるだろう。
「念のために仕込んだ力も、今は役に立たないし、そうなってくると、カイン達の手腕に期待するしかないね」
俺は彼らがどんな設定を持っているのかはよく知らない。同じパーティであるということや、アリスがお助けキャラであることくらいはわかるけど、それくらいなものだ。
何かの拍子に爆発するかもしれない爆弾を、いかに爆発させないように処理するか。それは設定や判定などではなく、純粋な絆が重要になってくる。
TRPG風に言うなら、ロールプレイが大事かな。
いつかの俺に対するグレンのように、他人を思いやれるようなプレイヤーならいいんだけど。
「で、結局どうするんだ?」
「まあ、ひとまずスターコアの回収かな。ばれないように探してきて」
「国が持ってる奴はどうする?」
「うーん、世界の存亡をかけた勝負をするとなると回収したいところだけど、難しそうなら諦めていいよ」
「そんな調子で間に合うのか?」
「さあ? どのみち、俺にできることは、彼らを神界に導くことだけだろう。色々小細工はするかもしれないけど、どこまで通じるかわからないしね」
一番いいのは、クーリャを味方にすることだろう。
クーリャはファーラーとは対を成す神である。ファーラーがファンブルを司るなら、クーリャはクリティカルを司る。
相手がこちらをファンブルさせてくるなら、同じくクリティカルにする力で相殺してやれば、対等の勝負になるはずである。
ただ問題があるとすれば、クーリャはだいぶ前から消息不明なことだが。
流石に、ファーラーが健在な以上、クーリャを殺してしまったってことはないだろうが、それが見つからないなら、ファンブル地獄を耐えながら戦うしかないだろうな。
「まあいい、できるだけ早く集めよう。元々、こうなることを見越して当たりはつけているしな」
「ありがと。ついでにクーリャの捜索と、彼らのサポートも頼んでいい?」
「構わないが、効率は落ちると思うぞ」
「そっちは片手間でいいからさ。俺の方でも調べるけど、まだ派手に動くわけにはいかないし」
「わかった。できるだけ手助けはする」
「じゃ、お願いね」
俺の言葉に、友人はその場を去っていく。
世界中に散らばったスターコアをすべて回収することはできないだろう。そもそも、見つかったとしても、既に使用されているものが大半だろうし。
一応、使用されていたとしても、わずかにでも力が残っていれば力の回収は可能だが、力を使い切ったただの石ころを残しておく奴がいるかどうか。
仮に残していたとしても、それはスターコアなのである。譲ってくれと言われて、譲るとも思えない。
やはり、現在大国に回収されているスターコアの回収は難しいだろう。
他の、まだ国に回収されていないスターコアに関しては、まだ何とかなるか。たまにドラゴンが守っているけど、友人ならそんなの障害にならないし。
その他に関しては、まあ、運が良ければ何とかなるかな。
いずれにしても、アリスの力がどう作用するかがカギになってくると思う。
できることなら、いい方向に転んでほしいものだ。
感想ありがとうございます。




