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第五百三十話:脳裏に刻まれた目的

 主人公の親友、カインの視点です。

「ねぇ、さっきから何の話をしてるの?」


 ずっと話から置いてけぼりだったアリスさんが、ちょっと不満そうな顔をしながらそう聞いてくる。

 今のアリスさんからしたら、今の状況は意味不明だよな。

 最初の設定の通りだとすると、今のアリスさんは俺達が住む村を訪れて、俺達に出会っていざ冒険に行こうってところなのに、どこだかわからない洞窟の中に連れてこられて、誰だか知らない人と意味不明な会話をしているってことになる。

 いくらアリスさんが熟練冒険者だとしても、この状況を冷静に理解することは難しいだろう。

 今落ち着いていられるのは、俺達が近くにいるからだろうな。


「ああ、えっと、こちらの話ですから、お気になさらず」


「そうなの? そこにいる奴とか、なんか禍々しい雰囲気を感じるけど」


 そう言ってオールドの方に視線を向ける。

 アリスさんなりに、粛正の魔王の気配を感じ取っているんだろうか。

 今は敵意はないとはいえ、その邪悪な力は隠しきれるものではないのかもしれないね。


「一応味方ですよ。今のところは」


「ふーん。まあ、カインがそう言うならいいけど、いつまでも油売ってないでさっさと出発するの」


 アリスさんは早く冒険に出たくて仕方がないようだ。

 そう言えば、これが設定の通りだとすると、俺達の最初の依頼はアリスさんが選んでくれることになっている。

 内容としては、村の近くにいる魔物の討伐というシンプルなものだったはずだけど、それもその通りに記憶しているんだろうか?


「アリスさん、最初の依頼はなんでしたっけ?」


「もう忘れちゃったの? もう、冒険者になるならちゃんと覚えておかなきゃダメなの」


「すいません。もう一度教えていただけますか?」


「仕方ないの。カイン達の最初の依頼は……村の破壊なの」


「……え?」


 予想外の答えに思わずきょとんとしてしまう。

 村の破壊、おおよそ冒険者が請け負うとは思えない内容である。

 と言うか、恐らくこの村と言うのは俺達の住んでいた村ってことだよね? 自分で自分の住んでいた村を破壊するってどういうことなんだろうか。


「えっと、どういうことですか?」


「? だって、この世界を正すのが私達の目的なの。そのために、まずは手ごろな村を破壊して、更地にするの。自分達の住んでいた村だし、そこまで難しくはないでしょ?」


 ますます言っている意味がわからない。

 そもそも、俺達が冒険に出た目的は、一応それぞれに理由はあるが、大筋としては、冒険に憧れて、と言うことである。

 その中に、世界を正すため、なんて高尚な目的は入っていないし、その過程で村を破壊するなんて野蛮な行為をするつもりもない。

 もちろん、シナリオが進むにつれて、だんだんと目的が変化していくことはあるかもしれないが、ゲームマスターである秋一がそんなシナリオを持ってくるとも思えない。

 うっかり世界の危機くらいは起こるかもしれないが、だとしてもその発言とは結び付かないような気がする。


「アリスさん、何言ってるんですか?」


「そっちこそ何言ってるの? みんな、私と一緒に来てくれるって言ってたの」


「ああ、これは、ちょっと面倒なことになってるかもしれないね」


 意味不明な発言を繰り返すアリスさんを見て、オールドが口を開いた。

 何か心当たりでもあるんだろうか?


「恐らくだけど、意識を封印した影響で操作権が奪われることはなかったけど、目的である時代の粛正は強く印象に残る形で記憶に刻まれているんだろう。元が貧弱な自我だから、それが真の目的だと勘違いしているんじゃないかな?」


「つまり、今のアリスさんは時代の粛正を目的としていると?」


「そういうことになるね」


 それは、まずいんじゃないだろうか?

 本来は、ファーラーによって体の主導権を奪われ、跳ね上がったレベルとステータスの暴力によって世界を破壊しつくすはずだったけど、それは何とか阻止することができた。

 しかし、現在のアリスさんも、記憶が曖昧とはいえ、真の目的は時代の粛正だと思い込んでいる。

 仲間である俺達に敵対的ではないというのが救いではあるけど、これでは放っておいたら世界を破壊しつくしてしまう可能性もあるだろう。

 設定通りのアリスさんなら、ちゃんと事情を説明すれば大人しくしてくれると思っていたけど、これは予想外に面倒なことになりそうだ。


「記憶を正すことはできませんか?」


「元々、この状況自体がイレギュラーなものだしね。説得すればもしかしたら納得するかもしれないけど、それも難しいだろう。どうにか言いくるめて大人しくさせるくらいしかないんじゃないかな」


 確かに、今更記憶をどうこうするのは難しいか。

 となると、俺達は世界を破壊しようとするアリスさんを止めつつ、ファーラーを倒す準備を整えなければならないということになる。


「これは、どうしましょうか……」


 多少であれば、こちらの言うことは聞いてくれるだろう。

 別に、今の時点ではアリスさんは俺達のことを味方だと思っているし、何なら世界を破壊するのは自分ではなく、俺達の役目だと思っているようだ。

 であれば、俺達がうまい具合に理由をでっちあげて破壊しないようにしたり、破壊したことにして満足してもらったりすれば、しばらくの間は何とかなるはずである。

 もちろん、いつまでも持つ手ではないとは思うけど、それで時間を稼いで、その間に神界に行く手立てを整えてもらうしかないな。


「カインは、私と一緒に来てくれないの……?」


「そ、そんなことはありません! 一生アリスさんについて行きます!」


「ほんと? なら安心なの」


 思わず口をついてしまった本心。だが、今はこれでいい。

 とにかく、ここはみんなで口裏を合わせて、いい感じに満足してもらおう。

 俺はシリウスとサクラに目配せする。長い付き合いだからか、二人とも何となくこちらの意図を察したようで、小さく頷いていた。


「……では、そちらは任せました。こちらはこちらで何とかしてみます」


「うん、そうしてくれると助かる。健闘を祈るよ」


「わかりました。では、アリスさん、そろそろ戻りましょうか」


「やっと話が終わったの? なら、さっそく最初の依頼と行くの」


 ようやく依頼ができることが嬉しいのか、アリスさんは笑みを浮かべながら洞窟の出口へと向かっていく。

 ひとまず、あちらのことはオールドに任せておくしかない。俺はわずかな不安を抱きつつも、その後を追う。

 しかし、村の破壊か、どうしたものか。

 まさか、本当に村を破壊するわけにもいかないし、そもそも俺達が住んでいた村はこの世界にはないだろうし、どう納得させたものか。

 最悪、適当な村に入った途端に破壊しろと言われる可能性もあるし、しばらくは村には近寄らない方がいいかもしれない。

 王都は……流石に大丈夫だろうか?

 一応、これは初心者冒険者の門出となる依頼である。アリスさん自身も、サポート役に徹するような設定だったはずだし、いきなり初心者に王都を破壊しろとは言わないはず。

 まあ、実際のレベルは初心者どころか上級者ですら及ばないレベルではあるけど。

 でも、アリスさん自身、自分のレベルを30だと思い込んでいるようだし、であるならそこまでの無茶はしないはず。そう信じたい。

 とりあえず、何かいい言い訳がないかと考えながら、洞窟から出ることにした。

 感想ありがとうございます。


 今回で第十七章は終了です。数話の幕間を挟んだ後、第十八章に続きます。

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[一言] 面食いで惚れてるのを利用するしか……
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