第五百二十七話:助けるためには
主人公の親友、カインの視点です。
アリスさんがオールドと同じことをされようとしている。つまり、粛正の魔王に仕立て上げられ、世界を粛正する立場になるということだ。
アリスさんがそうやすやすと操られるとは思わない。けれど、相手は神だ。言うなれば、ゲームマスターと同等の権力を持っていると言っても過言ではない。
そんな奴が相手であれば、アリスさんだってただでは済まないかもしれない。
これが本当だとしたら、アリスさんは粛正の魔王として、世界を滅ぼしにかかることになる。以前オールドが受けた、世界中を敵にするという行為を背負うことになる。
世界が滅ぼされてしまうというのも問題だが、何より、アリスさんが敵にされてしまうのが許せなかった。
アリスさんは、誰よりも優しく、誰よりも強く、俺達のことを見守ってくれる太陽のような人である。
それが、太陽神だか何だか知らないが、偽物の太陽によって好きにされるなんて許容できるわけがない。
なにがなんでも、アリスさんを止めなければ!
「なら、早く止めに行かないと!」
「まあ、そう慌てない。いくら粛正の魔王が強力とは言っても、一日二日で世界をどうこうできるだけの力はないよ。それに、粛正の魔王になったことによって、レベルも跳ね上がっているはず。闇雲に挑んでも、返り討ちに遭うのがおちだ」
「じゃあどうしろと」
「大丈夫、手はある」
そう言って、オールドはグレンの方に目配せする。
グレンはすたすたと歩いていくと、その手にあるものを持って戻ってきた。
それは、先ほども持っていたものと同じ色のスターコアだった。
「恐らくだけど、君達が霊峰スタルで見つけた祭壇は、アリスを粛正の魔王にするための儀式に用いられるものだ。そこにスターコアを七つ嵌めることで儀式が完成し、アリスは粛正の魔王へと生まれ変わることになる」
「なら、それを阻止すれば!」
「いや、それはもう手遅れだろう。仮に、アリスがワープしてから即座に場所を特定できたとしても、間に合いはしないはずだ。だから、アリスが粛正の魔王になるのは止められない」
「くっ……!」
「だけど、こんな時のために、俺は一つ細工をしておいた。いや、本来はこういう目的のためにしたものではないけど、それが役に立った」
「なんのことですか?」
「これを見てもまだわからないかな? 君達が集めたスターコアの内、俺に関係するものがあっただろう?」
「……あっ」
確かに、スターコアの内、一つは幻獣の島で見つけた巨大なスターコアもどきの欠片だった。
誰が作ったものかは不明だったが、通信できる相手を考えれば、オールドが持ち主だと考えるのが妥当だろう。
つまり、あのスターコアはオールドの力が宿っているということになる。
「元々、スターコアを集めてほしいと書いたのは俺だ。スターコアは、元々は俺の力の一部のようなものだった。それを、身を隠す際に分割して放出し、世界中に隠す形にしたわけだ」
「なら、集めたら魔王が復活するという予想は、あながち間違っていなかったんですね」
「まあ、そうだね。身を隠すためとはいえ、力を分散させすぎて、俺はほとんど動けない状況になってしまった。ある程度力を取り戻すためには、最低でも七つのスターコアが必要だったというわけさ」
もちろん、自分で集めるのは禁止でね、と付け加える。
ファーラーに見つからないように、と言うのもあるんだろうが、多分、そういう縛りを課せられていたってことなんだろう。
何とか出来たのが、目的を隠して、とりあえず七つ集めてほしいと曖昧に提示することだけだった。
まあ、途中でしびれを切らして、グレンに手伝わせていたようだけど、それでも何とか七つ揃わせることはできた。
今考えれば、渡してから返してほしいと言ったのは、スターコアがオールドの力の一部だったからかもしれない。復活させるだけなら集めるだけでいいが、より力を手に入れるには手元に欲しかったってことなんだろう。
だったら初めから自分の下に集めればとも思うけど、それを禁止されていたなら、あの意味不明な行動も頷ける。
「まあ、それはいいとして、あのスターコアは、直接俺が力を分けて作ったものだ。だから、純粋な願いの力を持つスターコアと比べると少し勝手が違う。わかりやすく言うなら、ある程度なら干渉できるだろうってことだね」
「干渉と言うと、正気に戻すとか?」
「そこまでは無理だね。ただ、しばらくの間意識を封印することはできる。ファーラーが関わっているなら、体を操作さえさせなければ、アリスが世界を破壊することはない」
確かに、いくら強大な力を持っていても、動けなければ何の災害も起こらない。
だけど、意識を封印って、そんな簡単にできるんだろうか?
いや、元粛正の魔王ができるというならできるんだろうけども。
「なら、その間に体を回収すればいいんですね」
「そういうこと。まあ、完全に開放するにはファーラー自身を倒す必要があると思うけど、それにはちょっと準備がいると思う。なにせ、相手は神界にいるわけだしね」
「そう、ですね。大本を潰さなければ意味ないですよね」
元凶である神を殺さなければ、アリスさんが元に戻ることはない。
いや、オールドの例を考えるなら、何かしら正気に戻す方法はあるのかもしれないけど、それは悪手なんだろうか。
「どうにかして、正気に戻す方法はないんですか?」
「あるにはあるよ? ただ、お勧めはしない。命に関わるからね」
「私は、アリスさんを助けるなら、この命惜しくはありません」
「それは知ってるよ。でも考えてみて? アリスが正気に戻った時、君が死んでいたらどう思うかな?」
「うっ……」
それを言われると弱い。
残された人々がどう思うかなんてわかり切っている。特に、俺のことを気にかけてくれているアリスさんなら、それはもう悲しむことだろう。
アリスさんのためなら、命を捨てても惜しくはないけど、それでアリスさんが苦しむのはだめだ。
やるならハッピーエンドを目指さなければならない。アリスさんを助けて、俺達も生き残る結末を。
「とにかく、まずやるべきことは、アリスの体の確保。それが終わったら、神界に乗り込んで、ファーラーの撃破。これが目的だね」
「アリスさんは今どこにいるかわかってるんですか?」
「多分、霊峰スタルの山頂にいると思うよ。すでに意識は封印したから、倒れてるんじゃないかな」
「なら、まずはそちらですね。今行ってきても?」
「いいけど、ポータル使うなら最低でも大穴の外まで戻ってね。ここに作られると流石に特定されかねないから」
「力を取り戻したなら、問題ないのでは?」
「万が一があるし、俺の存在はできる限り隠しておいた方がいいと思うんだよね。もちろん、サポートはするよ。粛正の魔王としての力が使えるから、ある程度のことはできるからね」
元粛正の魔王が味方とか心強すぎるな。
もちろん、すべてを信じていいかはまだわからないけど、わざわざこんなところまで案内する意味がないし、グレンの実力があれば、俺達を全滅させることなどたやすいはず。
まあ、何かに利用しようとしている可能性はあるけど、しばらくは味方と考えてもいいだろう。
とにかく、今はアリスさんを回収することが先決だ。
連絡用にスターコアもどきを受け取り、その場を後にする。
さて、無事に回収できるといいけど。
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