第五百十八話:準備を整えて
翌日。俺は町から少し離れたところでポータルを繋ぎ、みんなを呼び出した。
みんなには、俺達が移動している間にも訓練をしていてもらったので、力の制御に関しては問題ないだろう。
みんなやる気満々であり、近くまで迫っている魔王との戦いにある意味で期待をしているようだった。
「みんな、来てくれてありがとうなの。今日は、いよいよ霊峰ミストルに挑む日なの」
俺は、今一度今回の目的を説明する。
今回の目的は、グレンからスターコアを奪取することだ。
あちらから呼ばれたというのもあるが、今探している最中のスターコアを見せびらかされて、取りに行かないという選択肢はない。
もちろん、罠の可能性も十分あるし、場合によってはこちらのスターコアを奪われたり、あるいは魔王が復活してしまったりする可能性もなくはない。
だが、もしそうなってもいいように準備は整えてきたつもりだ。
今のレベルであれば、たとえ粛正の魔王であっても十分に相手にすることができる。
元の世界に帰る条件が粛正の魔王を倒すことな以上、これは元の世界に帰れるチャンスと言うことでもある。
だが、だからと言って全員で挑むのは悪手だ。
さっきも言ったように、罠の可能性もある。それにグレンは色々と厄介なスキルを持っていそうだし、魔王と戦う前に消耗しすぎてもまずい。
だから、まず、グレンに挑むのは俺達四人に加え、あと二人にすることにした。
「グレンとの戦いに連れて行くのは、シュエ、そしてクリーさんで行くの」
この二人を選んだ理由は、対応力を考えてのことである。
シュエは普段は少女の姿ではあるが、その正体はリヴァイアサンの幼体である。
その戦闘力はすさまじく、レベル5の時点でも、相手に割合ダメージを与えるというぶっ壊れスキルを持っていた。
現在は、レベルも大幅に上がり、できることも増えてきている。特に、シュエのメインクラスである【マリオネッター】は、対象を操ることができるクラスでもある。
何らかの洗脳系のスキルを食らって行動できなくなったとしても、シュエならその人を操って動かすことも容易だ。
他にも色々とトリッキーな動きができるし、搦め手を使ってくる相手にはかなり優位に立ちまわることができるのではないかとの予想である。
クリーさんは、火力要員と罠解除要因としての採用だ。
クリーさんは武器を破壊する代わりに威力を激増させるスキルを多用するから、瞬間火力が非常に高い。
下手をすれば、俺以上に火力が出るし、メインクラスの関係上、器用と敏捷が非常に高い。
一応、お守りを持っていくから関係ないと言えばないけど、罠は解除できるならしておいた方がいいし、攻撃のターゲットにされにくいスキルを持っているから、いざと言う時の回復要員になれる。
本当なら、もっと連れて行きたいところだけど、仮に連戦で魔王と戦うことになる場合、消耗はできる限り抑えたいし、グレンがどう出てくるかわからない以上、あまり大人数で行くのは危険も大きい。
合計六人であれば、仮に仲間が呼べなくても魔王戦で何とか戦えるくらいの人数ではあるし、他の仲間を呼ぶにしても時間を稼ぐ意味でもこれくらいは必要。
だからこその、この采配である。
もちろん、もっといい組み合わせはあるかもしれないけど、悩みすぎでもいい考えは浮かびそうにないので、これで行くことにする。
「他の人は、この町で待機していてほしいの。何かあれば、【テレパシー】で連絡することにするの」
まあ、仮に俺達が全滅したとしても、これだけのプレイヤーがいるなら、誰かしらが魔王を倒してくれるだろう。
死ぬつもりは毛頭ないが、最悪のパターンも覚悟しておかなければならない。
「みんな、これまで鍛えてきた成果を見せるの」
「「「おおー!」」」
みんなで声を上げ、士気を高める。
シュエとクリーさんをパーティに加え、俺達は霊峰ミストルへと足を踏み入れた。
「流石に、霧が深いの」
常に霧に覆われている山と言うだけあって、入った瞬間周囲は霧に包まれてしまった。
本来なら、数メートル先すら見えない状況なんだろうけど、暗闇無効の影響なのか、ある程度は見通すことができている。
完全に霧が晴れたように見えているわけではないけどね。
「なんだか緊張するよ」
「俺もだ。まさかここで選ばれるなんて思ってなかったしな」
山を前に、シュエとクリーさんがそんなことを言っている。
まあ、正直連れて行かなくてもいいんじゃないかとは思ったんだけどね。
グレンが何かを仕掛けてくるにしても、俺達四人なら大抵のことは何とか出来る。
そういうスキルを大量に取ったし、【ボディスワップ】のようなスキルが飛んできたとしても、お互いの体をある程度操れるくらいには連携は取れると思う。
魔王が復活するかはわからないけど、もし復活したとしても、今のレベルであれば、撤退しながら戦うこともできるだろう。
足止め役が増えればそれだけ安定すると言えばそうだけど、いなくても何とかならないわけではない。
そういう意味では、連れて行かなくてもよかった気はする。
だけど、ここからは一つの油断が命取りになる可能性がある。
グレンだって何してくるかわからなくて怖いのに、粛正の魔王なんてデータは知っていても戦ったことなんて一度もない相手である。
本来なら、戦うこと自体が間違っていると言われるような相手を、初見で倒さなくてはならないのだ。
それだけでもめちゃくちゃ怖いし、ここまでレベルを上げていても、本当にうまく戦えるかどうかわからない。
目標は、全員一緒に帰ることではあるけど、最悪の場合、カイン達だけでも帰すって言う目標に変わるかもしれない。
言うなれば、肉壁だ。盾が増えれば、みんなが帰れる可能性が上がるかもしれないって言う考え方。
最低だとは思うけど、俺一人で守り切れるかわからない以上、そうすることもやむを得ないかもしれない。
だからこそ、連れてきたって言うのもある。
別に、二人の命がどうでもいいとか言ってるわけじゃないけど、最悪の場合はね。
できる限り、俺が守れればいいんだけど。
「二人とも、無理しない程度に頑張って欲しいの」
「選ばれたからには頑張るよ」
「ま、やるだけやってみるさ」
辺りを警戒しながら進んでいく。
山を登る際、空を飛んでいくか、それとも地道に登っていくかは悩むところだけど、一応普通に登っていくことにした。
なんというか、空を飛んでいくことは読まれていそうだし、もしこれが試練と言う意味合いなんだとしたら、空を飛んで楽をしたらダメなんじゃないかと思ったのだ。
別に、地道に登っていったところで時間は大して変わらない。せいぜい、出てくる魔物の対処をする時間が増えるくらいだ。
時間はぎりぎりではあるが、どちらのルートを取っても間に合う計算ではある。
なら、ずるしないでちゃんと進んでいった方が印象はいいだろう。
グレンがどう出てくるかは知らないけど、なるべく難易度は下げておきたい。
俺は周囲に気を配りつつ、先に待っているであろうグレンのことを考えた。
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