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第五百十七話:霊峰ミストルの噂

 それから一週間ちょっと。俺達はようやくマスカニア大陸へと足を踏み入れた。

 なんか、途中からこのままでは間に合わないんじゃないかと言う焦燥に駆られて、スピードを上げたんだけど、上げて正解だったかもしれない。

 マスカニア大陸に入った時点で、期限までは残り五日。仮に霊峰ミストルをギミックとかガン無視で空を飛んで攻略するとしても、二日はかかるだろうし、本当にぎりぎりだ。

 本当なら、こちらに着いてから色々と打ち合わせをしたいところではあったけど、これはもう皆を呼んだら即突するくらいじゃないと間に合わないね。

 そう考えると、レベル上げに時間をかけすぎたかと思わなくもないけど、あれは必要なことだったし仕方がない。

 最後に慌ただしくなってしまったけど、最低限のことは伝えてあるし、多分大丈夫だろう。


「無事着きましたけど、本当に竜人がたくさんいますね」


 ひとまず、霊峰ミストルの近くにある町に拠点を作ることにした。

 拠点と言っても、ただ宿に泊まるだけだが。

 一応、呼び出すのは明日と言うことにしている。

 今呼んでも、どうせやることがないし、無駄に宿の部屋数を増やすこともないだろう。

 一部の人は竜人を生で見たいと思っていそうだけど、それは明日にでも見れば問題ないと思うし、今はグレン戦に向けて英気を養っておきたい。


「てっきりよそ者だから嫌な顔されるかと思ったけど、そういうわけでもないんだな」


「そりゃ、少ないとはいえ交易はしてるもの。港町とかなら、他の種族もいるし、争う気がないなら別に嫌悪の視線を向けられることはないの」


 この大陸の種族はほとんどが竜人とエクスマキナが占めているが、他の種族が全くいないわけでもない。

 エルフのように、森に引きこもって、外の世界とはなるべく交流を断っているというならともかく、むしろ交易は積極的に行いたいと思っているようだし、外の人だからと言って邪険に扱うような真似はしない。

 まあ、あんまり内陸部に行き過ぎるとどうかわからないけど、霊峰ミストルがあるのは大陸の中心から端っこのちょうど間くらいの位置である。要は内陸ではあるけど、竜人やエクスマキナ以外全く見当たらない場所と言うわけでもない。

 まあ、仮に内陸だったとしても、多分大丈夫だと思うけどね。


「ま、それならよかった。これから決戦だって言うのに、居心地悪かったらもやもやするしな」


「その時はポータル繋いで、城に帰るというのも手だけど」


「そりゃそうだが、なるべく慣れておきたいだろ? 一応、初めて来る場所なんだし」


「まあ、それはそうなの」


 霊峰ミストルの情報くらいは知っているが、実際に行ったことはない。

 そもそも、冒険者がエルガリア大陸から出ること自体が稀だし、この大陸に来たとしても、わざわざ霊峰ミストルに行く用事がない。

 行くとしたら、本当にシナリオの都合上って感じになるだろうな。

 知識だけでは実際に見た時に違う可能性もあるし、今日一日だけでもこの地に留まって、慣れておくのに越したことはない。

 情報も欲しいしね。


「なら、夕食の時にでも色々話を聞いてみましょうか。そろそろですし」


「賛成なの」


 昼間に着いていたなら、そのまま直行でもよかったけれど、今の時間は夕方過ぎ。すでに日は落ちて、辺りは暗くなり始めている。

 いくら防具に暗闇無効がついているとはいえ、暗さの影響は多少は受ける。【暗視】を持っている俺以外は、ちょっと危ないだろう。

 それに、他のみんなに待機してもらう以上は、いつでも動けるように起きていてもらわなければならないのだから、夜に待たせるのはちょっと気が引ける。

 時間的にも、今日は休んで、明日行く方が都合がいいのだ。


「うまいこと行くといいけどね」


 スタミナはあるとはいえ、一週間以上も飛んで移動していたので疲れたというのもあるし、ここは万全を期しておこう。

 そんなことを考えながら、しばし休息するのだった。


 しばらくして夕食の時間となる。

 普段はあまり見ることのない珍しい料理に感嘆の息を漏らしつつ、周りにいる竜人達に話を聞いてみることにした。


「霊峰ミストルに行きたい? やめとけやめとけ、あんなところ行っても得られるものなんて何もないぞ」


「そうそう。単に登山を楽しみたいなら、もっとちょうどいい山がいくらでもあるだろう。山頂からの景色を楽しみたいとしても、霧で何も見えないしな」


 霊峰ミストルだけど、竜人達にとっては何のうまみもない場所なんだという。

 竜人達は翼を持っている関係上、その気になれば地に足をつけないまま山頂へと向かうこともできる。だから、彼らが山に向かう理由は、山頂からの景色を楽しみたいとかそれくらいのものなのだ。

 もちろん、中には純粋に登山を楽しみたいという竜人もいるようだが、だとしても霊峰ミストルに登るメリットが少なすぎるらしい。

 まあ、常に霧がかかっていて景色なんて見えないし、登るにしても危険すぎるしね。

 それに何より、あそこにははぐれ者の竜人達が住んでいる。

 外部との交流を断っている彼らは、日用雑貨や食料などを手に入れるために、山賊まがいのことをしている時があるようだ。

 霊峰ミストルに入るということは、彼らに物を貢ぐ行為であり、そういう意味でも推奨はされないらしい。


「最近は妙な儀式やってるらしいしな。近づかない方が身のためだ」


「妙な儀式?」


「ああ。詳しくは俺もよく知らないが、山頂近くにあるでっかい穴の前でなんかやってたって話を聞いたことがある」


 穴の前で行う儀式ねぇ。

 そもそも、霊峰ミストルにそんなでかい穴が開いているってこと自体初耳なんだけど、元々あったんだろうか?

 順当に考えるなら、その穴から何かが出てきて、それを崇めているとか? あるいは、穴に生贄とかを放り込むことで安全を祈願しているとか。

 よくわからないけど、これはグレンとは関係あるだろうか?

 わざわざここを指定したってことは、何かあるのは間違いないんだろうけど、まさか出てくるのが魔王とか言わないよね?

 でも、穴にスターコアを放り込むことによって魔王が復活するとか言われたら、なんかありそうという感想が浮かんでしまう。

 山の竜人達が魔王を信仰していると考えれば、儀式している辻褄も合うっちゃ合うし。

 もしそうだとしたら、穴にはなるべく近づきたくはないけど、多分そこにいるんだろうな。

 いっそのこと、スターコアを誰かに預けて、持ってない状態で挑むというのも手か?

 いや、相手は神出鬼没な奴だし、できるだけ戦闘力が高い人が持っていた方がいいよなぁ。

 レベルという観点なら、もう皆十分すぎるくらい強いけど、一人に任せるのは怖いし、迂闊なことはできない気がする。

 結局、自分が持っているのが一番いい気がするよね。

 他にも、色々と聞いてみたが、特に気になるような話は聞けなかった。

 グレンが前からこの大陸に行き来しているなら、何かしら情報があるかもと思っていたけど、そういうわけでもないらしい。

 相手の情報が完全にわからないのはちょっと怖いけど、できる限り準備は整えてきたつもりだし、なるようになると信じよう。

 そう考えて、今日のところは眠ることにした。

 感想ありがとうございます。

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