第五百十六話:マスカニア大陸に向けて出発
翌日。俺達はマスカニア大陸に向けて出発した。
あの後色々話し合ったが、とりあえずは俺達だけで海を渡り、マスカニア大陸に着いたらポータルでみんなを呼び、近くの町で待機してもらって、必要があれば呼び出すという形を取ることになった。
可能性としては、グレンが敵である可能性はそれなりに高いと思ってる。
というか、魔王の関係者なんだし、敵であるのは間違いない。
ただ、俺達がスターコアを揃えることによって魔王を復活させたいのか、それとも俺達からスターコアを奪って魔王を復活させるつもりなのかはよくわからない。
どちらの可能性も十分あり得るし、いずれにしてもスターコアが七つ揃った時点で魔王が復活する可能性は高いだろう。
警戒すべきは、やはり盗られる方。俺達が持っているスターコアは今のところ五つ。仮に、ここでグレンから手に入れたとしても六つである。
であれば、どちらにしろ俺達が受け取ったとしてもその時点では魔王は復活することはないはずである。
一気に二つ渡してくるとか言うなら話は別だけど、そうなったら受け取らなければいいだけの話だし、受け取るにしても、しっかり準備を整えているから、特に問題はないだろう。
一番楽なのは、何事もなくスターコアの受け渡しが行われ、こちらの合計が六つになり、あと一つをゆっくり探せるようになることだろうか。
今までのレベル上げのペースを考えれば、もうちょっと集中すればレベル999も夢ではない気がするし、全員最強の状態で魔王に挑むこともできるかもしれないしね。
まあ、多分そうなる可能性は低いと思うけど。
もし、グレンと戦闘になった場合、脅威なのは【ボディスワップ】だけど、一応、対策はしてきた。
元に戻るためのポーションを全員に配布してあるというのもあるんだけど、そもそも、入れ替わりによって問題になるのは、自分の能力やスキルがまるで変ってしまって、思うように体を操れないからだ。
であるなら、同じような能力とスキルを持った者同士であれば、入れ替わっても最低限の戦いはできるのではないかと思ったのである。
俺のように、非力な兎に姿を変えられてしまうならともかく、俺達だけが入れ替わるなら特に問題はない。
まあ、入れ替わり用の生き物を事前に用意してるって可能性もあるけどね。そうなったら素直にポーション飲むしかないかな。
「そういえば、マスカニア大陸ってどんな場所なんですか?」
「簡単に言うと、主に竜人が住む大陸なの」
マスカニア大陸は、『スターダストファンタジー』の基本的な舞台であるエルガリア大陸と比べて小さな大陸である。
エルガリア大陸との間には巨大な渦巻きが発生しており、船で移動するには渦巻きが収まる一定の期間しかできない。
そのため、結構閉鎖的な環境であり、独特な文化を築いているとかなんとか。
住んでいるのは基本的に竜人であり、それに加えて、古代文明の産物である、『エクスマキナ』という人種がいる。
エクスマキナは、一言で言えばロボットだ。元々は円筒型に目となるカメラがついているだけのシンプルな形だったが、今の時代に復活したことで周囲の影響を強く受け、人型のエクスマキナも誕生している、と言う設定が『スターダストファンタジー』にはあった。
正直、こんな世界観にロボットがいるって言うのはおかしな話だし、仮に古代文明が優れていてそんなものがいたとしても、時代の粛正によって再び滅ぼされていそうである。
マスカニア大陸がどれほどの被害を被ったかは知らないけど、無傷ではなかっただろうし、今もいるかは微妙なところだな。
まあ、いたとしても彼らは温厚だし、多分問題はないと思うけどね。
「なんかそこだけ時代背景間違ってないか?」
「まあ、古代文明の遺産が新たな人種になるって言うのは面白いと思いますが」
「それもそうか。もしかして、俺の足もその技術が使われてたりするか?」
「もしかしたら?」
そう言えば、確かに【マシンボディ】の機械ってそこから着想を得て作られたものかもしれないよね。
この時代に義手があったかは知らないけど、これほど正確に動かせるものはなかっただろうし、古代文明の力と考えれば辻褄は合うかも。
まあ、フレーバーテキストにはそんなこと書いてないからわかんないけどさ。
「竜人はどんな種族なの?」
「うーん、温厚ではあるけど、宗教思想が強いの」
『スターダストファンタジー』には、数多くの神様が登場するが、その中でも竜人が信奉するのは、雷の神カンナである。
カンナ様は巨大な竜の姿をしていると言われており、特に竜人達のことを気に入っていて、よく導いてくれることから竜人達からは導きと試練の神として慕われているようだ。
俺達が住んでいるエルガリア大陸では、多くの神様の中から信仰する神様を選び、それによって加護を授かることができるが、マスカニア大陸で他の神様を信仰しているなんてことが知られたら、竜人達から白い目で見られることになる。
場合によっては、異端者として攻撃される可能性もあるので、竜人の前で宗教の話はNGなんだとか。
「なんか面倒くさそうだな」
「まあ、突かなければ問題はないの。間違って話題に上がっちゃったら、カンナ様のことを言えばいいの」
「気を付けておきましょうか」
竜人との接し方はそんなもんだろう。
宗教にさえ触れなければ、竜人もエクスマキナも非常に温厚な種族だ。下手なことをしなければ、邪険に扱われることはないと思う。
そう言えば、今ってそのカンナ様は生きてるのかな? 神界が襲撃を受けて、ほとんどの神様は再起不能に陥ったらしいけど、その中にカンナ様が居たら結構面倒そうな気がする。
いや、それでこちらに八つ当たりをしてくるわけじゃないだろうけど、竜人がどう動いているかが心配になって来た。
「そういえば、霊峰ミストルにも竜人が住んでるとか言ってなかったか?」
「ああ、うん、一応いるの」
「そいつらも他の竜人と同じなのか?」
「うーん、設定的には、戦争に敗れて山に隠れ住むことになった死にぞこないって感じだった気がするの」
「なんじゃそりゃ」
竜人は温厚な性格ではあるが、それにも例外がある。その最たる例が、宗教問題だ。
元々、マスカニア大陸では確かにカンナ様が信奉されていたが、それがすべてと言うわけではなかった。
いくら外界から隔離されているとはいっても、全く流通がないわけではない。その中で、エルガリア大陸の文化に触れた竜人達が、新たな宗教に目覚めることはよくあった。
それだけなら、特に問題はなかったんだけど、ちょっとしたきっかけで軋轢を生み、結果戦争に発展した。
その結果、敗れた竜人達は山に逃げ込まざるを得なくなり、肩身の狭い思いをしているというわけである。
「なんか、ちょっと可哀そうだな」
「そんなに認めてもらえないなら、いっそのことエルガリア大陸に移住すればいいのに」
「彼らにも意地があるんでしょうね。いつの日か、昔のように広い宗教を認めてもらいたいって気持ちがあるのかもしれません」
まあ、『スターダストファンタジー』の制作者がそこまで考えているかは知らないけど、竜人達の中でもはみ出し者が集っているのが霊峰ミストルと言うわけだ。
もしかしたら、会うこともあるのかな? グレンが彼らと知り合いとは思わないけど、ワンチャン言いくるめて敵としてけしかけてくるかもしれないし。
その時は可哀そうだけど、蹴散らさせてもらおう。そんなところで力を使ってる場合じゃないしね。
そんなことを話しつつ、海を渡っていくのだった。
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