第五百十五話:レベル上げ完了
そうしてレベル上げを続けること二週間。ついにレベル上げが終了した。
まずみんなのレベルだけど、カイン達プレイヤーが約600ほどになった。
まさかの目標である500をオーバーである。来る日も来る日もひたすらダンジョンに挑み続け、レベル上げをし続けた結果、とんでもないことになってしまった。
レベルアップに必要な経験値量が多い、シュライグ君やアスターさんなんかもおよそ150程度になった。
プレイヤー達に比べるとかなり低いように感じるが、一度のレベルアップに必要な経験値が数千や数万と言う単位なことを考えると、十分レベルアップしたと考えられるだろう。
ここまでレベルが上がると、能力値もとんでもないことになっている。
プレイヤー一人いるだけで、この世界の人が数百人レベルになっているんじゃないだろうか?
その上、スキルも大量に取得し、特にその人物が持つクラスのスキルはほぼすべて習得できたと言っていい。
セカンドクラスでメインのクラスを引き立てるようなクラスを取り、火力も十分上げることができた。
これだけあれば、たとえ粛正の魔王相手でも戦うことができるだろう。
ここまで必死にレベル上げした甲斐があるというものである。
「ただ、ちょっと問題もあるの」
今まで、レベル上げはコツコツしてきたつもりだが、ここまで急激にレベルアップしたことはなかった。
レベル上げを担う俺もいつも暇と言うわけではなかったし、時間のある時にちまちまとレベルアップを繰り返し、それなりのレベルになっていたのである。
それを、今回は集中的にレベル上げをすることによって、一気に段階を飛ばしてしまった。
それにより、力の制御が難しくなるという問題が浮上したわけである。
まあ、そりゃそうだよなって感じだ。
今まで普通の握力しかなかった人が、いきなりリンゴを握り潰せるくらいの握力を手に入れたら、私生活にも影響が出てくるだろう。
今までは、このスキルを使っていればよかったのに、レベルアップした影響でやりすぎてしまう。
急激に強くなるってことは、それだけ慣れるまでの時間が必要になるってことだ。
と言っても、これは予期していないわけではなかった。
俺だって、いきなりレベル30の状態でこの世界にやって来て、魔物を木っ端みじんに爆散させた経験がある。それを考えれば、強すぎる力は身を滅ぼすということも何となくわかっていた。
だから、それに慣れるための時間を設けたのだ。
レベル上げだけに力を注いでいれば、恐らくもう少しレベルアップはできただろう。しかし、レベルだけ上がって、その力を使いこなせなければ意味がない。
本当なら、何か月かの時間を取る必要があるんだろうけど、今回はそんな時間ないので、悪いけど二日で慣れてもらった。
完全に慣れるような時間ではないと思うけど、レベル上げを疎かにしすぎるわけにもいかなかったし、これは仕方のないことである。
おかげで、完全に使いこなせているわけではないものの、基本的な動きはばっちりと言う状況にはこぎつけることができた。
後は、みんなで霊峰ミストルに向かうだけである。
「それにしても、ほんとに全員で行くのか?」
「一応、何人かは残していくけど、大体は連れていくつもりなの」
出発前夜、いつものメンバーで集まって、そんなことを話す。
正直、グレンがどう出てくるかは未だに未知数だ。
一応、戦うことを前提に考えているが、それはただの想像だし、もしかしたら本当にスターコアを渡すためだけに待っている可能性もある。
そう考えると、全員を連れて行くのは過剰戦力すぎる気がしないでもない。
しかし、もしグレンが戦うことを選択し、その流れで万が一にも粛正の魔王が復活するようなことがあれば、俺達四人だけではかなりきつい。
少なくとも、俺達四人は粛正の魔王と真っ向から戦えるような状況を作らなければならないだろうし、そのためには周りの雑魚散らしをする役が必要になる。
だから、少なくとも数人は一緒に来て欲しいところだ。
「そうか。いや、いいんだけど、なんか心配なんだよな」
「これはグレンの読み通りだって言いたいの?」
「読み通りかは知らないが、行くのはあっちが指定した場所だぞ? どんなトラップがあるかわからないだろ?」
まあ、それは確かに。
グレンが指定した霊峰ミストルは、常に霧に覆われている深き山である。
その気象条件の関係上、そこにいる人々には暗闇状態の状態異常がつくわけだけど、一応、それだけだったら何とかなる。
【スキルスロット】を使って、防具には暗闇無効を付与してある。単なる【暗視】と違って、これさえあれば、たとえどんなに深い霧の中だろうと見通すことができるだろう。
もし、ただ単に山を越えろと言うのが試練だとするなら、後は魔物を蹴散らしていけば簡単に突破することができるはずである。
だが、それはあくまでそれだけだったらの話だ。
もし、グレンがこちらのスターコアを狙っていて、罠にかける場合、十中八九その霧に紛れて何か仕掛けていることだろう。
元々、罠は擬態させることが可能だし、ただでさえ霧で視界が悪い中にそんなものを仕掛けられたら、確実にひっかかる。
【トラップサーチ】があったとしても、視界が悪ければうっかり踏んでしまう可能性もあるだろうしね。
人数を多く連れて行けば、それだけ誰かがうっかりをする可能性が上がっていく。
その罠が、その人一人だけを対象にする罠ならまだいいけど、全員を巻き込むような罠だったなら、大人数は逆にデメリットになりかねない。
「せめて、連れて行くにしても二人とかじゃないか?」
「グレンのことだけを考えるならそれでもいいけど、魔王のことまで考えると、それだとちょっと心もとないの」
グレンがボスらしい行動を取り、粛正の魔王を復活させてしまった場合、少人数は相当不利だ。
いや、全体攻撃持ちだからあんまり多すぎてもあれかもしれないけど、庇うという行動がある関係上、人は多いに越したことはない。
それに、こちらは防具をガチガチに固めているし、通常攻撃で一撃で落ちるとも考えにくいしね。
ヒーラーであるシリウスを守りながら、時にはアイテムなどで支援しながら戦う。それが一番理想だと思う。
ただ、シリウスの言うこともわからないわけではない。
お守りで無効化できるような罠ならともかく、策略としての罠があった場合は大人数ではまずいかもしれない。
一応、耐性系のスキルはみんな取得させたし、状態異常は大丈夫だとは思うけど、絶対ではない。
下手に洗脳とか受けて、同士討ちとかされても困るし、【ボディスワップ】の対象が増えるというデメリットもある。
他にもどんなスキルを持っているかわからないし、大人数で挑むことが必ずしもメリットになるとは考えにくい。
グレンや罠のことを考えて少人数で挑むか、魔王のことを考えて大人数で挑むか。これは悩みどころだと思う。
「ポータルで繋いで、その時々で呼び出すって言うのはダメなの?」
「まあ、ポータルが使えるならそれでもいいけど……」
あれってどうなんだろうな?
基本的に、瞬間移動系のスキルってその戦闘で有利な立ち位置に移動するって言う目的で使われるんだけど、後から他のキャラが登場するっていいんだろうか。
それが許されるなら、即座に戦闘から離脱することも可能になるんだけど、ボス戦って基本的に逃げられないよね?
いやでも、別にボス戦で逃げてはならないとは書いてないか? ちょっと裁定がわからない。
まあ、ここはリアル寄りな世界なんだし、多分行ける気はする。魔王がトンデモスキルでも使ってこない限りは。
「なら、一度マスカニア大陸にポータルで皆さんに来てもらって、近くの町で待機してもらい、必要なら【テレパシー】で呼び出すというのはどうですか?」
「まあ、それならポータルを使う必要も薄いし、何とかなりそうではあるの」
場所が問題ではあるけど、最悪みんなには【ドラゴンウィング】を覚えてもらい、空から挑めるようにすれば、霊峰ミストルの山頂だってすぐに辿りつくことができるだろう。
なんか、ここまでレベル上げしたのに出番がないかもしれないというのはちょっと可哀そうかもしれないけど、いずれにしてもどこかのタイミングで魔王と戦うことになるだろうし、今回出番がなかったとしてもそれで我慢してもらうしかない。
できれば、オールドさんも助けたいけどね。
その後も色々話しあい、その日は眠りにつくことになった。
さて、無事に済むといいのだけど。
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