第五百十二話:レベル上げの準備
一つ前の部屋にポータルを設置し、ひとまずダンジョンの外へと出る。
このダンジョンの総評としては、10階層までは初心者ダンジョン、それ以降は上級者ダンジョンって感じだろうか。
あまりに難易度が違いすぎて、もはや別のダンジョンと言われても納得するレベルである。
まあ、ダンジョンコアを破壊されないための措置を取りつつ、素材を得るための場所と考えると妥当なのかもしれないけど、もう少し自然な感じにできなかったんだろうか。
あれじゃあ、勘違いして10階層以降に足を踏み入れた冒険者が即死しそうだ。
今はこんな未開拓地域の外れにあるから誰も近寄らないとは思うけど、もしもっと行きやすい場所にあったなら、多くの犠牲者が出ていそうである。
あ、でも、今の世界だと、ダンジョンは資源を得る場所ではなく、魔物が大量に出現する魔の巣窟みたいな捉え方をしているから、そもそも入らないか。
「にしても、あれなんだったんだ?」
「おっきな蛇だったよね」
シリウスとサクラが先程のことについて話している。
ダンジョンコアを守る目的がある以上、門番として最後の砦を置くのは別に不思議はない。
ただ、それがなぜあんな蛇だったのかは気になる。
もちろん、門番として何を置こうがそれは所有者の勝手だが、そもそも門番にするためには、その魔物を従えている必要があるだろう。
ゲームマスターが運営するダンジョンならともかく、この世界の人が所有者であるなら、当然そこに置くべき魔物は自分が使役している必要がある。
ダンジョンコアの部屋は基本的には魔物を出現させられないからな。他の階層はダンジョンの力で強い魔物を配置できたとしても、ダンジョンコアの部屋に門番的に配置するならその方法は使えない。
だから、少なくともあの蛇は、ダンジョン所有者の僕と言うことになる。
「蛇の魔物と言うと、ミズガルズとかヨルムンガンドあたりですか。アリスさんはどう思います?」
「多分そこらへんだとは思うの。でも、そんな災厄級の魔物を使役できる人なんているの?」
カインが例に挙げたのは、レベル的にはドラゴンと並ぶくらいの相手である。
この世界の人達のレベルを考えると、とてもじゃないけどそんなの相手にできるわけがない。
となると、誰かプレイヤーがやったという可能性だろうか。
そう言われて思い出すのは、グレンである。
あの村の名簿には、グレンの名前があった。つまり、あの村にはグレンが住んでいた可能性が高い。
あの蛇がいつから門番しているのかは知らないけど、もし大昔から存在しているのであれば、グレンがダンジョン所有者と言う可能性もある。
ドラゴンすら軽く屠れるグレンなら、あの大蛇を従えていても不思議はないしね。
「ここでグレンか? なんかやたら出てくるな」
「まあ、魔王を止めるほど強かったんだし、わからなくはないけど」
「なら、あの魔法陣も、グレンが使っていたってことなんでしょうかね?」
ああ、そう言えば複製の魔法陣とかあったな。
他の人が使っていたって可能性もあるけど、普通に考えるなら所有者であるグレンが使っていたと考えるのが妥当だろう。
動物の死体をたくさん複製して、一体何をしていたのかは知らないが、あいつなら何しててもおかしくはない気がする。
「まあ、今はグレンの考察はいいの。それより、許可も出たことだし、みんなを呼んでレベル上げをしてもらうの」
こちらの都合で申し訳ないけど、みんなには早々にレベルを上げてもらう必要がある。
まあ、全員レベル500まで上げろとは言わないけど、できる限り高いレベルを目指してほしいところだ。
あれだけの経験値が得られるなら、グレイスさんやシュライグ君も十分にレベルを上げることができるだろう。
「みんなが戻ってくるまでに、お守り量産しておかないとだな」
「あ、それもやらなきゃなの」
罠対策にお守りは必須だろう。帰ったらまず、クズハさんにお守りを作ってもらうところから始めた方がよさそうだ。
どのみち、ほとんどのプレイヤーはスターコアの捜索のために出払っているんだし、彼らが戻るまで作ってもらえれば、それなりの数は出来上がるだろう。
買えれば一番早いけど、売ってたりするかな? まあ、そこらへんは後で確認するとしよう。
猶予は二週間ほど。それまでに、どこまでレベルを上げられるかだな。
ひとまず、城へと帰って、クズハさんに事情を説明する。
当然ながら、クズハさんはお守りを作るスキルなんて覚えていなかったが、ちゃんと説明したら取得してくれることになった。
まあ、お守りなんて、ランダムダンジョンでもなければそうそう使わないものだしね。
普通のシナリオ中に出てくる罠は簡単なものとか、ちょっと体力を削ったりする程度のものが多いし、危険な罠もシナリオのギミックで解除できることが多い。
それに、シナリオの都合上、罠にかかってくれないと困るってパターンもあるし、お守りを使う機会なんてそうそうないのだ。
そういう意味では、外れスキルを覚えさせることになるんだけど、クズハさんもこれまで自分が全然役に立っていないことを気にしていたらしい。
本来なら、クズハさんのクラスである【カンナギ】は、結構な戦闘力を持つ。神様を体に降ろすことによって戦うというのは【シャーマン】にも似ているが、【シャーマン】と違って、こちらは攻撃とバフに特化している。
使用武器が限定される代わりに強力な攻撃を繰り出すスキルも存在しているので、鍛えることができればかなり強い。
しかし、肝心要の神様を降ろすスキルである【コールゴッド】のスキルを、クズハさんは使えなかった。
イグルンさんによって体を乗っ取られていたことにトラウマを持っており、自分の体に別人の魂が存在することを許容できなかったからだ。
そういうわけで、レベルはそこそこ上がったものの、戦闘面ではそこまで強くない、微妙な【カンナギ】が出来上がってしまったのである。
境遇を考えればそれは仕方のないことだし、【コールゴッド】が使えなかったとしても有用なスキルはあるっちゃあるので、問題はないのだけど、クズハさんとしてはかなり気になることだったようだ。
だから、何か役に立てるなら、ぜひとも力になりたいと思っていたようである。
そういうわけで、お守りはこれで問題はないだろう。
各地を回っている他のプレイヤーにも声をかけたし、後は戻ってくるのを待つばかり。
果たしてどれだけレベルを上げられるかわからないが、グレンの強さはいかほどだろうか。
ドラゴンを軽く倒せるってだけ聞くと、幅は結構ある。もしかしたら、魔王と同格とか言う可能性もなくはない。
いや、流石にレベルカンストではないと思うけど、気を引き締めていかなければならないだろう。
みんなを待ちながら、今後のレベルアップのスケジュールを考えた。
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