第五百七話:罠か否か
グレンが消えた後、俺はみんなの下に戻って事の顛末を報告した。
今回のグレンの行動は正直よくわからない。
スターコアを七つ集めることによって魔王が復活するというのなら、グレンとしては七つ集めてもらわなくては困るだろう。
今回わざわざ出てきて、遠回しにではあるけどスターコア渡そうとしたのは、その目的に噛み合っていると言えなくもない。
だけど、だったらなぜわざわざそのまま渡さず、別の場所に移動するのか。それも、来なかったら破壊するなんて言って。
集めてもらわないと困るのはグレンだろう。グレンは集めるのに時間がかかりすぎているからお膳立てに来たと言っていたが、だったらわざわざこんなことしなくても、直接渡せばいいだけの話である。
渡さないまでも、ノクトさんの存在に気が付いていたなら、こっそり手助けするとか、場所だけ教えて立ち去るとか、いくらでもやりようはあったはずだ。
そもそもの話、グレンが何も言わなくても、俺達はスターコアを探すために動いていた。そりゃ、時間はかかっていたかもしれないけど、その時は集めたら何が起こるかなんてわからなかったし、とりあえず集めとくか、みたいな感じで集めていたことだろう。
それを、わざわざやって来て、集めたら魔王が復活するかもしれないって言う情報を与えて、迷いを生ませる理由がわからない。
そんなことしたら、いつまで経っても集めなくなる可能性だってあるはずなのに。
オールドさんの反応からして、復活したからと言って再び世界を破壊したり、俺達を倒して自由を掴み取りたいってわけではなさそうだけど、にしてもこちらには準備する期間が明確に設けられるわけだし、圧倒的に不利になるのは明白である。
一応、【センスイヤー】の反応を見るに、全くの嘘を言っているってわけではなさそうだったけど、だからこそ目的が見えてこない。
いったい何を狙っているんだろうか。
「まあ、理由はよくわからねぇけど、チャンスではあるんじゃないか? ここで貰っとけば六つ目だし、あと一つ集めるだけならだいぶ気が楽だろう。準備もできるし、何のデメリットもないように思えるが」
「罠の可能性もありますけどね。わざわざ呼び出すのですから、罠があると考えた方が自然です。もしかしたら、狙いはこちらの持ってるスターコアかも」
「ああ、それはあるかもしれないね。スターコアを集めただけで復活するなら話は別だけど、起動しないと復活しないパターンなら、私達が集めても意味はないし、自分で取ろうとするよね」
カインの言うように、わざとおびき寄せて、こちらの持っているスターコアを奪おうという可能性もあるか。
ドラゴンを楽に倒せている以上、見つけさえすれば獲得は簡単だろうが、そもそも見つけるのが難しいものである。
ならば、すでに五つも持っている俺達から奪った方が効率的だし、もし今の時点で他にもスターコアを持っているならばその時点で魔王の復活の準備が整うことになる。
グレンのレベルを考えると、俺達と同等かそれ以上あってもおかしくないし、何より【ボディスワップ】とか言うこちらにとっての即死技がある。しかも、即死耐性で防げないタイプの即死技が。
他にも何を隠し持っているかわかったもんじゃないし、仮にこのメンバーで挑むとしても、楽に勝てるとは思わない方がいいだろう。
「なんか、シナリオボスっぽいか? その場所に行ったらクライマックスに入るみたいな」
「グレンのスペックが謎だけど、その可能性はあるの。そう考えると、一か月の猶予があるのは準備期間でもあるの?」
俺に勝ちたかったら必死にレベル上げるこったな、みたいな?
いや、それもおかしいような気もするけど……。
こちらのスターコアを奪うのが目的だとするなら、わざわざそんな準備期間設ける必要ないしね。
それとも、グレンも何かしらの設定でそういう風に動かざるを得ない状況だったりする?
フェラトゥスも似たような状況だったし、ボスとして定義づけられた存在だとしたら、これまでの行動も何となくわかる気がする。
「グレンがボスだとしたら、この先の展開はどうなるでしょうか」
「展開も何も、倒せばいいんじゃないの?」
「それはそうですが、仮にこれがシナリオの流れだとしたら、それじゃおかしくなるでしょう?」
「あー、確かにそうなの」
確かに、この仮説が合っているとするなら、グレンを倒せば魔王は復活しないことになる。復活するとしたら、俺達が七つ集めて、復活のために使うくらいだろうか。
一応、神様から魔王を倒せと言われている以上、いつかは復活させなければならないかもしれないけど、シナリオ的に考えるとここでグレンが負けるとちょっと都合が悪い。
俺がシナリオを作るなら、ここでのグレンは負けイベントにして、スターコアを奪われ、それによって魔王が復活。そこで神様の助けとか、仲間の助けが入り、パワーアップして魔王を倒すとか、グレンが心変わりして、俺が間違ってた、手伝おう、みたいな展開にするかだと思う。
あるいは、グレンが負けたとしても、最終的にスターコアは奪われ、魔王は復活してしまうとかね。
シナリオでは普段起こりえないようなこともイベントとして起こることがよくある。今まで、この世界でシナリオのような流れは感じたことがなかったけれど、もしそれが存在するなら、ここで向かえば絶対に魔王が復活することになってしまう。
「なら、行かない方がいい?」
「それもどうでしょうね。行かなければスターコアを奪われることはない、と考えるのは早計かと思います」
これはあくまでシナリオの流れがあるなら、と言う話ではあるが、もしここでプレイヤーが行かないって言う選択肢を取ったなら、なんだかんだでバッドエンドな気がする。
もしかしたら、戦う機会を放棄したからと言って、神出鬼没で【収納】からスターコアをかすめ取っていても不思議はない。
現実的に考えるなら、そんなことは絶対にないだろうが、この世界の普通がわからない。
俺達が設定によって動かされている部分がある以上、少なからずそういう場面もあるんじゃないかと思ってしまう。
「ならどうするの?」
「一番いいのは、この一か月でできるだけ準備を整えて、グレンに挑むってことだと思うの」
移動だけで二週間近く使うとはいえ、全く準備できないわけじゃない。
もし、グレンと戦うことになるとしても、こちらには仲間が多くいるし、レベルだってみんな高い。
少なくとも、瞬殺ってことにはならないはずだ。いくらボスだったとしても。
それに、もしかしたら、本当にただ渡してくるだけの可能性もあるし、ここでスターコアを諦めて別のを探しに行くって言う選択肢はないだろう。
「そういうことなら全力で準備するだけだな。しばらく集中してレベル上げに勤しむとするか」
「そうしましょう。レベルさえ上がれば対策はとれます。スキルでごり押してしまいましょう」
「難しいことはよくわからないけど、火力なら任せて」
方針は決まった。
罠かもしれない、しかし、だからと言って行かないわけにもいかない。
いい加減、魔王は強いから自分には早いと言い訳するのはやめた方がいいだろう。
ここでできる限りレベルを上げて、万全の状態で挑む。グレンの後に魔王が出てきたら、それも倒すくらいの勢いで行こう。
「それじゃあ、みんな行動開始なの」
「「「おー!」」」
さて、まずはレベル上げのプラン立てだな。
そんなことを考えながら、城へと戻るのだった。




