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第五百四話:待っていた者

 それから数日。俺はみんなと一緒にあちこちに足を伸ばしていた。

 スターコアの性質上、手に入る場所はランダムだ。ただ、その中でも可能性が高いのは、人が立ち入りにくい秘境である。

 なぜなら、人目に付く場所に落ちたスターコアは、大国に回収されてしまうからだ。

 一般的には知られていないことだが、スターコアは隕石とともに落下してくるものである。そして、スターコアは願いを叶える奇跡の石。たとえその用途が限定的だったとしても、国に剣聖やら聖女やらを生み出すことができる代物である。

 だからこそ、大国はこぞって手に入れたがるし、それ故に人目に付く場所に落ちたものは即座に回収されてしまうのだ。

 つまり、そんな大国の目が届かない場所に落ちたもの、すなわち秘境に落ちたものならば、比較的残っている可能性が高いというわけである。

 まあ、可能性が高いと言っても、そもそもの出現率が低い。隕石自体が落ちてくる頻度が低いので、いくら秘境とはいえ見つからないことの方が多い。

 だから、空振りで終わる場面も多く、俺はその結果にがっかりしつつも、ちょっとほっとした気持ちを抱いていた。

 本当なら、さっさと集めきるべきなんだろうけど、やっぱりオールドさんのことが頭をよぎる。

 あれから連絡しても全然返事してくれないし、大丈夫だろうか。


「え? スターコアを見つけたの?」


 事態が動いたのは、そうやって複雑な気分でいる時のことだった。

 捜索に出ていたノクトさんから連絡があり、スターコアを見つけたという。

 ノクトさんはフェニックスと言う種族の関係上、空を自由に飛び回ることができる。

 だから、秘境に行く際の斥候としてとても有用だったのだけど、どうやらその段階で発見したようだ。

 場所は北にある僻地であり、周りを深い森で囲まれた滝の側と言うことだった。

 見つけたからには行かないわけにはいかない。俺はすぐに準備を整えてノクトさんが待つ場所へと向かうことにした。


「それにしても、ようやくヒットしたの」


 今までにも、他のプレイヤー達にもスターコアの捜索は手伝ってもらっていた。

 一部は王都から離れられない人もいるが、それでもかなりの広範囲を探ってくれていたはずである。

 それなのに、今まで発見報告がなかったのは少々意外だったが、ここに来てようやく見つかってくれてよかったと思う。

 これは俺達の運がいいのだろうか? 最初のスターコアを始め、見つけたスターコアは全部俺達が見つけているし。

 まあ、こちらにはリアルラックが高いサクラがいるし、そのせいかもしれないけどね。


「……っと、多分この辺のはずなの」


 他のみんなにも声をかけ、【ドラゴンウィング】で空を飛びつつ目的地を目指す。

 それなりに遠かったけど、今の俺達なら数時間もあればつける距離だ。

 報告が午前中だったということもあり、お昼くらいにはたどり着くことができた。


〈アリス、こっちだ〉


〈ノクト、発見お疲れ様なの〉


 近くにある高い木で羽を休めていたノクトさんを発見し、合流を果たす。

 この近くにスターコアがあるらしいけど、どこにあるのかな?


〈ノクト、スターコアはどこにあるの?〉


〈それなんだが……まあ、見た方が早いか〉


 ノクトさんはそう言って一方に顔を向ける。

 そこには報告通りに滝があり、滝壺の側には隕石らしき岩が転がっていた。

 ただ、そこには思いもよらぬ人物が立っていた。


「あれは……」


 黒いマントに身を包んだ謎の人物。そこにいるとわかっているのに、希薄な気配は、なんとなく見覚えがあった。

 そう、俺の体をイナバさんと入れ替えた、あのサーカス団の団長である。

 確か、クロちゃんを助けた村でも会ったよね。なんであいつがここにいるんだ。


〈あの隕石、どうやらまたドラゴンが守っていたらしいんだが……〉


〈ドラゴンが?〉


〈ああ。俺が近づいたら問答無用で攻撃されたから、一時撤退して、様子を見ていた。そしたら、あいつがやって来てドラゴンを倒しちまった〉


〈……は?〉


 ドラゴンを、倒した?

 ドラゴンは、神様から使命を受けた特別な幻獣である。どうやらこの世界では、スターコアを守り、相応しい人物が来たら渡す、と言うようなことをやっていた。

 まあ、それはアウラムだけで、他のドラゴンがどうかは知らないけど、同じようにスターコアの近くにいたのなら、そういうことだったんだろう。

 ネームドドラゴンにはそれぞれ試練があって、それを乗り越えなければ倒すことはままならない。基本的に、パーティの力を集約してようやく太刀打ちできる相手であり、間違っても一人で相手にできるような存在ではない。

 まあ、今のレベルならワンチャンごり押しできるかもしれないけど、そうなると、ドラゴンを倒したというあの団長は俺達と同等か、それ以上にレベルが高いということになってしまう。


〈それはほんとなの?〉


〈いや、倒したって言うか、消した? なんか気づかないうちにドラゴンが消えてたんだ。それで、あいつはそれを気にした風もなく隕石に近づいて、解体を始めてた〉


 消したってどういうこっちゃ。

 転移でもさせた? 一応、ドラゴンが抵抗判定に失敗すれば、無理矢理どこかに転移させて戦闘を強制終了するってこともできないことはなさそうだけど。

 でも、ドラゴンの抵抗値ってめちゃくちゃ高かったような……。デバフ特化のクラスならワンチャンあるかもしれないけど、あの団長はそんなクラスに就いているんだろうか。

 わからないけれど、とにかく今はあいつにスターコアを先に取られてしまったということが問題だろう。


〈スターコアが目的なの?〉


〈それはわからない。ただ、あいつスターコアを手に入れてからもずっとあの場で待機してたから、誰かを待ってるんじゃないかって。俺に気がついても、まったく気にしてなかったし〉


〈誰かを待ってる……〉


 もしかして、俺か?

 あの村で会った時、あいつは攻撃してこなかった。ただ、伝言と忠告を残していっただけで、最初に会った時のように【ボディスワップ】をすることもなかった。

 俺を倒したかったのなら、初めからそうしているはず。伝言と言っていたし、あいつは俺にそれを伝えるためだけにあそこに来たのだ。

 そして、今回も誰かを待っている。あいつの交友関係は知らないし、もしかしたら俺以外にも知り合いがいるのかもしれないけど、俺を待っているという可能性はそれなりに高いだろう。

 気は進まないけど、ここはちゃんと会っていった方がよさそうだ。


「……みんなはここで待機しているの。私が話してくるの」


「大丈夫ですか? あいつ、サーカスの団長でしょう? また何かされるんじゃ……」


「多分、大丈夫だと思うの。もしもの時は、助けに入ってくれると嬉しいの」


「行くならとりあえずバフかけとくぞ。戦闘になるかもしれないし」


 別に全員で行ってもいいけど、恐らくあいつが会いたいのは俺だと思う。相手の思惑に乗る気はないけど、もしかしたら何か重要な情報が得られるかもしれない。

 なにせ、魔王の関係者なのだ。もしかしたら、あいつこそがグレンさんだという可能性もあるし、こちらとしても話してみたい相手である。

 スターコアを取り戻せるかどうかはわからないけど、やるだけやってみよう。

 シリウスからバフを受けつつ、俺は気を引き締めた。

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