第五十二話:魂の行く先
魂という概念は『スターダストファンタジー』の世界でも度々登場していた。
【リザレクション】の設定としてもそうだし、死後は丁重に弔ってやらないと魂が浄化されずにアンデット化してしまうとか、色々と設定がある。
その中でも冒険者の選べるクラスの中には魂に関するクラスがある。それが今俺がクラスチェンジによって選択した【シャーマン】というクラスだ。
【シャーマン】は英雄の魂を身体に降ろしてその力を得ることによって戦うという少し変わったクラスだ。自分の身体に強い魂を降ろしてバフを掛けたり、敵に悪霊の魂を降ろさせてデバフを掛けたり、その他、魂を直接攻撃するといった割と設定がえげつないスキルもあったりする。
物理でも魔法でもバフが役に立つのでセカンドクラスとしてはそこそこ優秀で、上位職である【ネクロマンサー】まで行けば作った器に魂を降ろすことで意志を持たせ、ゴーレムのようなものを作ることが出来る。
まあ、設定的には人の死体を使うんだろうけど、実際はどんなものでも、例えば花瓶とかでも出来るのでその幅はかなり広い。
今回、わざわざ【シャーマン】にクラスチェンジしたのはもちろん、ルナサさんの魂を降ろすためだ。
よほどの未練がない限りは魂は死後すぐさま天に召されてしまう。だから、そうならないように一度俺の身体に魂を降ろし、消滅するのを防ごうというわけだ。
ただ、問題なのはこの場にルナサさんの魂があったとしても別の魂も存在するということ。そう、デスマンティスの魂だ。
スキルの効果としては、本来なら英雄の魂を呼び出して体に降ろす、というものである。しかし、今回呼び出したいのは英雄ではなくルナサさんの魂だ。まあ、魔女の村を災厄から救った英雄という見方もあるが、あらかじめ決めてある英雄を呼び出すならともかく、見ず知らずの魂をいきなり呼び出すというのは結構難しいと思う。だから、ルナサさんをよく知るルミナスさんの助けが必要となるのだ。
「ルミナスさん、ルナサさんの事を思い浮かべるの。強く強く、それ以外何も考えられないくらい強く思ってほしいの」
「わかったよ」
俺はルミナスさんの手を強く握ってルナサさんを意識するように促す。
特定の人物の魂を呼び出すには触媒となるものが必要だ。今回の場合、ルミナスさんの想いがそれにあたる。
ルミナスさんが明確にルナサさんを思い起こすことが出来れば、それだけルナサさんの魂を特定しやすくなるわけだ。
俺はすぐさま取得したばかりのスキルを使用し、ルミナスさんの思考を読む。
【スピリットリンク】
相手と精神の繋がりを持つことで思考を読むスキル。本来は対象となった敵からの攻撃を回避しやすくなり、さらにこちらから対象に攻撃する際の命中率が上がるスキルだけど、フレーバーテキストはきっちりと仕事をしているようだ。
俺の頭の中にルナサさんのイメージが伝わってくる。後は、このイメージを崩さないまま魂を降ろせば完璧。
「それじゃあ、行くの……!」
俺は意を決してスキルを発動させた。
【コール:ルナサ】
魂を呼び出し、体に降ろすスキル。
スキルを使った瞬間、俺の体の中に何かがすうっと入り込む感覚がした。それと同時に様々な記憶がなだれ込んでくる。
村を襲ったデスマンティスとそれに立ち向かう魔女達。自らが考案した魔道具を使って対抗するも倒すことはできず、追い詰められ、最後には封印という手段を取らざるを得なかった。
みんなの前では勇敢にも自ら犠牲になった彼女であったようだけど、やはり内心はとても怖かったようで、死にたくないという気持ちが強く伝わってきた。
封印されてからの記憶はとても壮絶なもので、筆舌に尽くしがたい苦痛を味わってきたらしい。
あまりにダイレクトに感情が伝わってくるものだから思わず涙を流してしまった。そして、それと同時に目の前にいる人物が会いたくてたまらなかった母の姿だということを確認すると、気が付いたら力一杯抱きしめてしまっていた。
「あ、アリス? 一体どうしたんだい?」
「会いたかった……会いたかったよぉ……! うわぁぁぁん!」
「ちょ、いきなりどうしちまったんだい!?」
俺は感極まって大泣きしてしまった。
魂を自分の身体に降ろすって言うのは初めてだったからどんなものかと思っていたんだけど、これはかなりやばいものかもしれない。
【シャーマン】はクラス補正で精神力がかなり上がるんだけど、これは確かに精神力が高くなければやっていられないだろう。下手をしたら魂に体を乗っ取られてしまうかもしれない。
事実、俺はしばらくの間ルナサさんになっていたと思う。ルミナスさんのことを母として認識していたし、デスマンティスのことがとても恐ろしく感じてしまっていた。
しばらくして、ようやく落ち着いてきたのか、涙も収まり、感情の発露も収まった。
「大丈夫かい?」
「うん……ごめんなさい、取り乱したの」
少し、いやかなり恥ずかしいが、説明しないわけにもいかない。
俺は無事? にルナサさんの魂を自分の身体に降ろすことによって現世に留めることに成功したことを伝える。
もちろん、これは単なる応急処置であって後でちゃんとした体を用意する必要があるけど、とりあえず無事ということだけ伝わってもらえればそれでいい。
ルミナスさんは最初は半信半疑の様子だったけど、俺が泣きじゃくりながら抱き着いてくる姿にルナサさんの影を見たのか、すぐに納得してくれたようだった。
「それじゃあ、後は体さえ用意できればルナサは戻ってくるのかい?」
「そうなるの。簡単なものなら今すぐにでも作れるけど、ちゃんとした体を作るとなると少し時間がかかりそうなの」
すでに【シャーマン】の前提スキルは取り終えて上位職である【ネクロマンサー】までクラスチェンジしているので器さえあれば魂を移すことは簡単だ。
ただ、流石に人の身体を作るとなると難しい。
一応、【アルケミスト】の上位職である【セージ】まで行けば人体練成も可能ではあるけど、それには相応の素材が必要となる。
しかも、今の経験値だと【セージ】になるのは難しい。なるなら少し経験値を稼ぐ必要が出てくる。
流石に、このままの状態で王都に帰るっていう選択肢はないだろう。俺が死んだらルナサさんももれなく死ぬわけだし、もしかしたら処刑の可能性もある以上、それだったら形だけでも何かの器に入れた方が安全だ。
「ふむ、人様の子供を攫ってくるわけにもいかないし、どうしたものか……」
「一応、器は人に限らなくてもいいの。例えば、人形とかでも魂を移すことは可能なの」
現状で取れる案としては人形などを使うので精いっぱいだろう。人型であれば動くことも喋ることもできるし、多少の不便はあるかもしれないが人気のないあの森で暮らすのであればそこまで不都合は起きないと思う。
まあ、大きさによってはかなーり不便だと思うけど、それは仕方ない。今は時間もないし、後で改めて体を作りにくればいいだろう。
「それなら、いいものがある。ひとまず森に帰ろうかね」
「あ、はーい」
何か心当たりがある様子なのでひとまず帰ることにした。
一応、デスマンティスの死骸は【収納】にしまっておく。黒焦げではあるけど、内部は無事だしまだ使い道は……ないか。食べる気にもなれないし。
まあ、あれだ、もしかしたら薬の材料とかになるかもしれないしね? エリクサーの材料には不足だが、レア度はそこそこ高いし、普通のポーションの材料くらいにはなるかもしれない。
「お母さん、か」
まだ少しルナサさんの影響を受けているのかルミナスさんがとても愛おしく感じる。
俺は高校に入ってからすぐに一人暮らしをしてしまったけど、今頃母さんは何してるだろうな。
少ししんみりとした気持ちになりながら、俺はルミナスさんの後を追った。
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